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61話 ドウザイノカイコウ



「あぁ、君は彼女に惹かれた……それはとても貴重なことだ」


 遥か上に存在するもの、塔の頂上、それは漆黒の宮殿――中心の広い空間、四方に伸びた拡張装置、その全体像は上からは羅針盤、横からは振り子に見える。

 それは住居ではなく、一時の決戦の場だ。

 邪悪が生み出した効率的に世界を掌握し、表面を滅ぼし、星のエネルギーを搾取する惑星侵略兵器である。


「侵入者の足止め、レイム・レギレス、エマ・ラピリオン、ジュウロウ・ハリアート、ソピア・レスティアル、サリア・レヴォルアント――私が現在会話できるとするならば、君だと判断した」


 ソージ・レスティアルは一人で目覚めた。

 その場に自分と漆黒の煙に覆われた人であろう何かだけが、漆黒の広い空間で対峙している。


「お前、は……」


 その存在は二足歩行の人であることは分かる程度の曖昧な輪郭だけでそれ以外は全てが意味不明であり、尚且つ、初見の魔王以上の恐怖、その存在感は一個人の限界値を遥かに凌駕している。

 今までの状況からレオン・レギレスであると思うが、これまでとは思わなかった。身体の感覚が意思しなければ、無意識となり、ただ肉体、精神、魂が震えている。


「私はレオン・レギレス……とは言うべきではないな。混乱させるくらいなら不可解な存在として認識された方がいい。名前は言わない。存在には必ず理解するために名前が定められる。それは物語の題名のように……理解できる位階に留める鎖のように。ならば、逆説的に名前を明かさないという方法は正体を隠すための初歩的な方法だ。名前は存在を縛るが、定められれば、それは当人にとって重要になる」


 落ち着いた男の声、肉体に備わっている声帯から発生しているものとは違い、空間のせいなのか、声自体が震えているのか分からないが、不思議な正に不可解な存在だ。


「さて、君と会話する事には無論、個人的な理由がある。まず、一つ質問をしよう。存在を比較した時にここにいる存在の中でただ一人、重要な人物は誰だ?」


 最初はお前、と言おうとしたがソージは考えた。

 目の前にいる存在は不可解な存在であるため、比較することは出来ないのでは……と、そうこれは一択しかない。

 目の前の存在に圧倒されて口走りそうになったが、ソージは自分が思う重要な人物を述べた。


「レイム――」


「あぁ、物事には大小の法則がある。それは上下関係とは似て非なるもの。強者と弱者、神と人、そして宇宙と世界――これらの関係性は存在の根底に属するものの一つ。それに倣うなら『小』である勇者や『唯一者』、魔王たちを引き寄せた存在、レイム・レギレスが『大』であることは存在の法則を認知していれば、明白な結論――如何に『重要な存在』であろうとより強大の『重要な存在』に引き寄せられる」


 身近なもので例えるならば、レイム・レギレスは集団においての中心人物である。

 そこに到達する人物は人間という枠組みにおいて適正が高い者、人間関係、コミュニケーションが得意でカリスマ性を持つ者が集団、人々を率いる。


 だが、レイムにはカリスマ性なんて『ない』……いや、将来においてはまだ未知数だが、今のところ『ない』のが正しい。

 しかし三つの重要が引き寄せられた。

 一つは数多の世界から見ても稀な存在である『唯一者』ジュウロウ・ハリアート。

 一つは世界規模で見ても掌握することができる『太陽の魔王』エマ・ラピリオン。

 一つは人間の希望として悪を滅する『勇者』ソージ・レスティアル。


「ふッ、外見上は年頃の少女だというのに世界レベルで『重要な存在』を三人も引き寄せた。一見、法則の式とズレているように見えるが、彼女が君達より凌駕しているのは力もあるが、運命力だ」


「運命力?」


「あぁ、『物語』は呼んだことはあるだろう。今までの事を『物語』という枠組みで考えれば、レイム・レギレスという存在がどのような性質を持つのかが理解できる」


『物語』――それは現実、非現実を問わず、存在が記した存在の出来事。


『運命』――それはどれほど高度な文明であろうと観測することも数値化することもできず、証明不可能である概念。


「つまりレイムは主人公、だと?」


「或いは、黒幕とも言える」


「何……?」


「全ての存在は『魂』を存在するように『運命力』も存在している。今、説明したのは存在、世界、時間と空間の『縦の軸』の話しだが、レイム・レギレスという存在は全ての存在、世界、宇宙――それらが派生した『横の軸』、全ての可能性すら影響を与える」


 レイム・レギレスの影響力は大きく、成長力は凄まじく、運命力は非常に高い危険性を秘めている。


「だが、それらを加味しても今のところ彼女単体であるのならば、制御することは可能だ」


 そして謎の存在はソージ・レスティアルに近づく。


「しかし私が危惧しているのは彼女と君が与える影響力だ。これは敵に名案を伝えるのと同義だが、敢えて認識してもらうことで不可能ということを知ってもらおう。レイム・レギレスの運命力の危険性は、他者はもちろんのことだが、自分にも負担はかかる。ふふッ――」


「まさか、レイムが自滅するって――」


「あぁ、その可能性は十分あり得る。何事にも『限界』はある。極論を述べるなら『重要な存在』が一つの世界に幾人も集まった場合、世界が崩壊する確率は九割を超えるように――如何に性能、存在が強大であろうとそれを手玉に取られ、自壊か、利用されるのが目に見えている。そしてレイム・レギレスの『運命力』は『重要な存在』の幾人も集まった『運命力』に匹敵する――」


 そして謎の存在はゆっくりと歩き出す。


「さて、一つ聞きたい。ソージ・レスティアル――彼女を、レイム・レギレスをどう思う?」


「……え?」


 まさか、彼女の印象を聞いているのか。


「俺は、レイムが……」


「恋心の話しではない。怖くはないのか、恐怖を覚えないのか……」


「いいや、俺はレイムを大切に思っている、それだけだ!!」


 ただ思っていることを強く述べた。

 謎の存在の表情など分かるわけもないが、膝をつくそれは立ち上がった。


「そうか――なら、観測は心楽しむことにするか。どちらかが死ねば、それで『物語』は途絶える。少女の器ゆえに未熟さから逃れられず、振り回されるだろう。困難の数は存在の『運命力』に比例し、乗り越えたのなら、また次の困難が待ち受ける――」


「く、お前――」


「即ち、レイム・レギレスが進む道は『地獄』である。貴様がレイム・レギレスについて行く以上、その先は『地獄』だろう。これを覚悟するなら、このまま進むといい――躍動感あふれる『物語』を期待しているぞ――準主人公よ」


 その言葉の直後、漆黒の煙は雲散霧消した。

 次の瞬間、少女の絶叫が耳に突き刺さった。


「あッあがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」




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