59話 過去の遺産を掘り起こす光景②
「ッ……これは――」
ジュウロウは懐かしい場所で目覚めた。
彼の故郷、エレクシアの領域内に存在する独自の文化で築かれた都、和桜である。光の恵みに満ち溢れた豊かな環境でジュウロウ・ハリアートは育った。
彼の家系は剣道教室を営むこと以外は何一つ変わったところはない。
しかしそのハリアート家の一人息子が異常だった。両親は黒髪であるが、一人息子のジュウロウは白髪で生まれてきた。
両親の目線では赤子の時から反応が薄く、物心ついた時からも協調性は皆無に等しく、父と母でさえも本心を呟くこともなかった。
それは何故か……それは彼が見据えていたからだ。
人間という存在を構築している要素である魂、精神、肉体を見据え、人間関係を見据え、自分の心理を見据えた。
そんなジュウロウ・ハリアートの最初の答え、感想としては何も得ないという結論だった。
全てわかっているから意欲なんて湧かないだろうと……。
だが、六歳の頃……。
まさか、身近なものを改めて意識した時に目に移り、心を動かされたのは刀、それを人が持ち、形を成す『剣術』に強く惹かれた。
人は何かを求める。
人は何かに救いを求める。
そんな言葉は人に似合う、だからこそ人である自分も対象なのだ。
なら、それを掴んでみるものいいのかもしれないと始めた『剣術』だが、自分で確かめたいという理由から木刀を持ち、道場を離れ、自分が知っている限り、身近で一番、静かな場所へ向かう。
そこは森林に囲まれ、中心に小さな祠がある広場。
「そう、だったな――」
自分が刀、木刀を握る理由を思い出し、幼き日の自分を傍観する。
まずただひたすら木刀の振るうという行為について考え、まず基礎を熟知する。身体を動かし、戦闘という概念を理解する。
彼の訓練は全て一人で行っていた。他人と対峙しなくても対人戦闘を熟知していく。
木刀を握って一年。
人間味のないジュウロウを見かけたとしても進んで話に行くなんてことは普通の人間ならしないだろう。
当人は自覚していないが、真剣な表情と近寄りがたい雰囲気が醸し出している。
「ねぇ……」
そんな一音から二人は出会った。
赤紫色の長髪の少女、ルリ・ギウナは少しの勇気からジュウロウ・ハリアートに話しかけた。
最近まで自分自身に興味がなかったジュウロウが他人を気に掛けることなんてない。
最初は無視を決め込み、これで来なくなるだろうと予想していたがルリ・ギウナは次の日もジュウロウの前に姿を現した。
「なんなんだ?」
ジュウロウが我慢できなかったのは三日目だ。
自分は彼女の行動に意味が分からなかった。無視という答えを示しているはずだが、それすら理解できない馬鹿なのかもしれない。
本当に馬鹿なら、このまま茂みの影から見られるのは良いものではないため、少年は遂に口を開いたのだ。
「い、いや……き、気になっちゃって」
えへへ、と照れながらジュウロウの藩王に返答する。
やはり意味が分からなかった。気になってって、ただ木刀を振って訓練をする人間が気になるなんて、そこまで馬鹿なのか、それとも感受性が豊かから狂っているのか。
「こっちは迷惑だ。これで分かったか?」
「ん~、でも~……」
迷惑だと伝えれば、馬鹿でも状況を理解できると思うが、それでも理解できていないようだ。
「どうした、何か理由があるのか?」
「ある。君が気になるの!」
あぁ、意味が分からない。
こんなに同じ言葉が出てくるなんて初めての事、俺は混乱したが、こんなことに悩むなんてバカらしいと判断し、再び我慢をした。
その後、ジュウロウは木刀で訓練し、ルリはそんなジュウロウを見ている。
本当に飽きないんだな。
「今日は見ているだけか?」
「え……?」
我慢はしたが、ただ見ているだけではジュウロウの居心地は悪いままだ。ならば、とジュウロウは二本の木刀を持参したのだ。
一方的だが、人に接触を受けて人間の感性が微塵であっても存在し始めている。ルリ・ギウナが一方的にやるなら、こちらも一方的に『剣術』に巻き込む。
だが、ジュウロウ・ハリアートは『剣術』を習ったことはないため、彼から教えられるのは刀の扱い方である。
基本の事を教えたら、ジュウロウは手加減を条件に手合わせを行った。
カンッカンッと木刀が打ち合う音が響く。ルリは基本の事を教えている際に飲み込みが早いと感じたが、手合わせすると意外にも才能があることに気付く。
まさか、自分を気になった少女が『才能』を持っていた。木刀がぶつかり合う度、彼女の技能は身体で表すなら、指一本くらいだろう。
それでも一般、凡人、他の人間より上達は早い方だろう。ジュウロウとルリは共に『剣術』を訓練するという生活が続く。
「ねぇ、なんでジュウロウは白いの?」
「直球だな。自分の髪や瞳が白い理由は知っているが、言っても信じないことは明白だ」
「私が理解できないの?」
「あぁ、理解している俺でも信じられないほどだからな」
「でも、気になるな~」
「俺は……『唯一者』って呼ばれる人間だ」
「ゆいいつしゃ?」
「その名の通り、唯一なる者……その証として白い髪と瞳、そして天才的才能を秘めている。こんな説明がなければ、自分が天才なんて気づかなかっただろうし、その逆で自分こそが他人とは違うから異端と決めつけていただろう」
「そんなことまで分かるの?」
「それほど『唯一者』という存在は特別なんだろうな。後は力も特徴的だな」
「力?」
「あぁ、能力は知っているだろう?」
「えぇっと、強い人達が持っているっていう奴?」
「あぁ、魂の隣に存在する己の力――『唯一者』となる原因として全ての始まりである『起点』と全ての終わりである『終点』、その二つは遠いようで隣接していて、その二つの間には【無】が存在している。その『無』に魂が触れたことで『唯一者』が誕生する。その故、『唯一者』の証の一つとして無属性の力が備わっているんだ」
長々とジュウロウは自分について説明をするが、対してルリは理解が追いつかなくなったのか、表情を歪ませていた。




