58話 過去の遺産を掘り起こす光景①
今回からこの時間になります。
ご了承ください。
「んん……ここは?」
ここは確か、懐かしき魔王の城……その玉座の間だ。
『――過去を見つめ直せ』
その言葉が玉座に座するエマの頭の中に流れてきた。
自分はいる場所は、今は亡き、大魔王の城。魔王という存在に唯一対抗できるであろう勇者は魔王が強大すぎて三代目光の神リリア・レギレスが禁止にした。
勇者はたしかに偉大だ。
勇者はたしかに希望だ。
だが、同族である人間社会からはみ出し者として扱われている。一個人が抱える性能が人間という枠を優に超えているからだ。
そのため魔王達も勇者が先導していた時代から神々が魔王の対処に回ったことは不思議ではなかった。
「過去を見つめ直せ、か……」
だが、三代目光の神リリア・レギレスが禁止を告げたはずだが、ただ一人、単身で魔王城に攻め込んできた奴がいた。
頬杖をつき、面倒くさそうに事の状況を把握していく。
そう、その奴が問題だ。
勇者であろうと、それは無謀にも程がある。
そいつは馬鹿みたいに他人には映っていただろうが、何も考えていないわけではなかった。
そうなのだろうが、そいつは“大魔王”エマ・ラピリオンから見ても、馬鹿という印象しかない。
確か、この時期は……ジルフィスと戦う後だったか、敗北を経験し、落ち込んでいた。
そいつが乱暴に城の扉を開け、図々しく侵入してきた。
「おい、ここが魔王城かぁ?」
荒々しい、というよりひたすら騒音を発していた人間。黄金の鎧を身に着け、《神聖剣ルークレイカー》を携えて乱暴に勇者と呼べる奴は訪ねて来た。
そしてドタンと玉座の間の扉が開かれ、金髪の青年が立ち入る。
「お、お前か? 大魔王っていうのは!!」
明らかにそうだろう。なら、お前はここをどこだと思って訪ねて来たのか、という問題になるが……。
そいつは騒々しい奴だが、言い方を変えると断固とした意思を持っていた。
「チッ――」
「お前が大魔王か? 見かけはガキじゃねぇか!!」
最初の印象、勇者の風格なんて何もなかった。
そのためこの先を考えていたエマは乱暴に扉を開けられるまで気づかなかった。大魔王は三代目炎の神ジルフィス・レギレスに敗北したが、他の魔王は世界蹂躙を続け、神々に一触即発の危機寸前だっただろう。
他の魔王達の行動から大魔王が復活していることは神々を察した時期だろう。
「私を罵倒するなんていい度胸だな? まぁ、勇者としてここに来たのはお前が初めて……だったかもしれないが、まさかこの私に勝利する気か、人間」
三代目光の神リリア・レギレスから禁止されるまでは各魔王に勇者が訪れ、命を落としたり、逃げおおせたりしていた。
そして大魔王が何より勇者として印象に残っているのは間違いなくこいつだろう。
「当たり前だ。これは俺の凱旋なんだよ!!」
と、軽々とクソ野郎な勇者は言い放った。
あぁ、間違いなく当時の自分はこの段階でイラついていた。
まさか、夢の中でも現れることはなかったというのに……ついに自分の目の前に二度も現れることになるなんて……。
運としては悪い方向に傾いただろう。
こいつの言葉は浮かれていて、本気なのか識別が難しい。
今、思い返せば、こいつが発言した全てが本音であり、本気であったのだろう。
「あぁ、いいだろう。すぐに終わりにしよう――」
「あぁ、歴史に刻まれるであろう俺の名を知れ――俺の名は十八代目“勇者”ルドラ・レスティアル!!!」
それと同時にルドラは聖剣を抜く。
やる気なのは日の目を見るより明らかだ。
「私は最古の魔王が一人、第一位“大魔王”エマ・ラピリオン。薪代わりくらいはなってくれよ?」
遂にエマ・ラピリオンも玉座から立ち上がり、手を上に掲げ、虚空を掴む。
次の瞬間、頭上に激しく燃え上がる炎が顕現し、剣の形となり、魔王が持つに相応しくないであろう類、金色に輝く聖剣がその手に握られた。
瞬きの間にエマの周囲、玉座の間の温度は急激に上昇し、炎が立ち込める光景と化す。
「ふぅッ――」
既に魔力で身体強化を行っていたルドラは気にすることなく、踏み込み、エマに特攻を仕掛ける。
流石、人類最強を誇る“勇者”だ。
剣、そして自らを輝かせて瞬間火力の応用で人類最速の速度に達している。
それを見切るエマによって防がれるが、連続攻撃で更に押すが、エマの魔力を変換した熱風で押される。
「ぐッ……クソ――」
一瞬でも押される。
だが、それで諦める奴でもなく、それはしつこいくらいに諦めの悪い奴だ。勇者の剣撃は光速に匹敵し、その性能は初見の踏み込みを見切った。
しかし連続攻撃を発動しているルドラ自身の動きは光速であるため、滲んでいるように曖昧であり、肉眼で捉えることは不可能である。
そんな時の対処法は魔力量で押すだけだ。
「燃え尽きろ!!」
連続攻撃の表面的な動きを理解し、一歩下がり、すぐさま大きく剣を振るう。
外見上はエマの方が一回りも小さいが、魔力で強化された本気の力は軽々とルドラを突き飛ばす。
接近し、突き飛ばされと戦闘が続くが、それは長くは続かない。
「どうした? もう手札はないか……その光の速さも慣れ始めたが、これで終わりか?」
「あぁ、当たり前だ……」
ルドラは戦況を正確に把握していた。大魔王が圧倒的であることは馬鹿でも知っていることだ。
それでも自分は勇者という役割を全うするために人域を逸脱するほどの鍛錬をつけ、勇者として大成した。
だが、俺は試せなかった。
三代目光の神リリア・レギレスによって禁止されていたのだ。
おい、これってどうゆう冗談だ?
これでは俺の生きてきた意味なんて塵の大きさも残らないだろう。
馬鹿げている。人間社会においての勇者の立場もそうだが、鍛錬を終えてやっと意味が見出せると思ったら、鎖に縛られた感覚だ。
面白い、面白い、面白くないのに笑いが込み上げてくる。
だから俺は自分勝手に進んだ。
俺が代表として勇者を務めたことに意味を成すために領域を飛び出し、神々に敗北したっていうが、一番強いとされる大魔王の城へと向かった。
自分の人生の答えを見つけるために――
「受け取れ、エマ・ラピリオン――」
聖剣を掲げて意識を集中させ、神器を解放する。
それを目撃してエマも神器を解放する。ルドラの神聖剣は極光を放出させ、エマの方は太陽の片鱗が溢れ出す。
「いいだろう。ルドラ・レスティアル、最後まで受けて立つさ――」
言葉なんて交わす時間なんてなかった。
魔王と勇者、絶対に平行線にはならないであろう存在同士の勝負はお互いの切り札を発動して、それは決定した。
太陽の威光、神の極光がぶつかり合い、魔王城は簡単に吹き飛んだ。
過去の再来から思い返す。
彼の明確な意思、人間として自分のままに生きた人の末路は輝かしいものだった。
その後、ルドラの気持ちを称えて彼の武器《神聖剣ルークレイカー》を返却し、自分が復活した事実を伝えたのだ。
そして崩壊した玉座に座り、一息をつき、この光景が変わるのを待った。




