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57話 あったかもしれない光景



――――あぁ、これは『憂鬱』だ――――


「え……?」


 いつの間にか、自分の瞼は閉じていたようだ。

 瞼を開くとそこは外だった。自分はさっきまで塔の中を飛んで、上を目指していたというのに……。

 空気が濁っているのか、鼻と口に違和感が生じる。

 ジャリジャリと口の中に何か入り、匂いはもごもごとした臭い匂いだ。


「う……」


 反射で魔力を発生させ、自分を包み込む。


「なに、ここ……あれ?」


 周辺を見渡すとちょうど後ろに見覚えのある建物が見えた。

 だが、それは自分が覚えている綺麗な城ではなく、形だけは分かるほどに漆黒の城は崩壊していた。

 何故なのか、なぜ……破壊の領域であろうレイズレイドは暗闇に包まれているのか。


 次の瞬間、ドゴォンッと少し遠くの方から衝撃が生じる。大地を揺らしたそれは禍々しい漆黒の光が空に届く勢いで地上から波打つ。

 あれは、【破壊】だ……。もう見ただけで理解できる漆黒の力に引き寄せられるようにレイムはその方向へ走り出す。


「はぁ、はぁ――」


 おかしい、魔力で身を包めるけど全力を出せない。今のレイム・レギレスは謎の制限を受けているみたいだ。

 しかしそれ以上、深く考えることはなく、レイムは走り続け、何かが目に入り、足を止めた。


「ジュウロウ……と、私――?」


 漆黒の瞳に飛び込んできた光景は自分であろう存在とジュウロウが戦っており、本気の死闘であることは双方の表情を見れば、すぐにレイムは察する。

 自分は二人の戦いを第三者の目線から見ている。


「これは現実――」


 いや、違うだろうが、現実味が凄く明確な感覚が伝わってきている。もの凄い速度で【破壊】が炸裂し、激しい摩擦で地面が焦げている。

 二人の表情は決心したものを持ち、お互いを敵として認識している。


 なぜ、こんな事になったのか……ここはどこなのか……。

 突然のことでわけがわからなかったが、明確に自分と呼べる存在とジュウロウと呼べる存在が死闘を繰り広げている光景があり、だけど自分というレイム・レギレスもたしかに存在していることから光景自体が偽物だと予想が出来るだろう。


 あの二人の神経意識は研ぎ澄まされているため、接近したレイムに気付くはずだが、気付かれないということは自分の存在が彼らには見えていないのだろう。

 これは明確な感覚のある夢の類であり、光景に干渉は出来ない。

 何で自分とジュウロウが殺し合っているのかは分からない。


『――これはあったかもしれない光景だ』


「え、誰――?」


 突然、聞こえてきた男の声、それに敵意を向けて問い掛ける。

 無論、誰かが現れることはなく、戦っているレイムとジュウロウも振り向くことはないが、男の声だけが聞こえる。


『――分かっているだろう。その前にちょっとした遊びだ』


 自分はもう知っている? いや、知る余地のある人物ということか。

 反射的に誰と聞いてしまったが、この光景の前の状況からして二代目破壊神レオン・レギレスが声の主だろう。


「遊び……何、怖いなら正直に言えば?」


 レイムからしたら目の前に広がる光景の意図、遊びである意味が分からないため、当然の如く反発する。


「お前のことに興味はない!!」


 レオン・レギレスが齎すことに興味なんてない。

 自分の過去の人々のために今代を務める自分が終わらせることを一つの目的にしている以上……奴には怒り、憎しみしかない。

 四代目破壊神アレン・レギレス、自身の片割れとも言える存在すら殺した。


『――だが、見た方がいいだろう。お前には役に立つ』


 次の瞬間、文字が、文章が頭の中に流れてきた。

 もし、世界が幾つも存在するなら、という仮説に基づいた現象。

 簡単に例えるなら、レイムが戦うか、戦わないかという違いでも世界が分岐しているのかもしれないということであり、この光景は今のレイムとは違った結果に辿り着いた世界線なのだろう。


 即ち、これはあったかもしれない光景。


 そして分岐した原因は『レイム・レギレスの闇堕ち』だ。


「え……」


 レイムは脳内に流れる文章をただ意識する。


 神々に反発し、種族に反発し、育てた人々にも反発した結果だ。起因は些細なこと、誤差にも思えるズレが結果的に大きなズレとなり、世界が分岐する。

 一つの世界から分岐した世界同士は物理的に隣同士ではなく、次元という壁で区切られているのが、所謂、並行世界である。


『――この世界の君は全てを突き離した世界線だ』


 それはとても速い反抗期のように到来し、無邪気に突き離す。

 初めは自分を否定した同族を……本から学んだ種族も……そして反発したが、諦めずに宥め、近寄ってきた育てた人達も……。

 少女は全てが憎かった。

 少女は過去の産物を……世界大戦の中で虚しくも敗れて命を落とした三代目破壊神レシア・レギレスの意思を引き継いだのだ。


 それがきっかけだった。

 この結果を引き寄せたのは世界、周囲の存在ではなく、強大な運命を抱えた少女だからこそ、少女個人が招いたことだ。


「そんな……」


 そんなことが起こっていたのだろう。


『――だが、こうなってしまっては可能性がなくなったのも同然だ。宇宙のシステムに生み出された存在【宇宙的存在コズミック・クラス】の一角である『最終者』――宇宙を剪定して維持に導く者が顕現し、この世界を消去するだろう』


 ベラベラと一方的にレオンは喋る。


「何を言って――」


『――という世界線を観測すれば、この位置がどれだけの価値を持つのか……』


「そんなことはどうでもいい!! 早く私と戦え――」


 いい加減、腹が立っているレイムは声を荒げる。


 次の瞬間、それに応じたのか景色が一変した。

 それは黒一色の光景。

 瞼を閉じたのか、意味不明で理解できないレイムを蹴り飛ばすかのように身体に痛みが走った。


「ぐッ――」


 身体の前面を強く押されて、壁に激突する。


 そしてシャキンッと己の剣が誰かに抜かれて――


「あッあがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」


 ちょうど、右胸の辺りを自身の剣が貫く。不意打ちの攻撃ゆえ全身に激痛が伝わり、レイムは絶叫する。

 痛い、今まで以上に痛い。

 身を保護し、痛覚も和らげる魔力が制限されて自身の神器、【破壊】という同じの要素を持っている《破壊剣ルークレム》によって身体の一部を貫かれたことも激痛の原因だ。


「お望み通りに出てきてやったぞ……なぁ、正当なる後継者、五代目破壊神レイム・レギレス――」




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