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55話 降臨したもの④



 塔以外からの外敵に対処するため、エマを除いた魔王達は漆黒の大地へと降り立つ。

 そんななかレジナインは気になったことがあり、マリテアに質問する。


「そういえば、ネルトシネアスはどうするの? 愛着はあったように見えるけど?」


「みんなと同じだよ。同盟が決定した以上、従う存在がいる。だから個人的な行動なんてできないし、もう別にいいよ。私が気にするとしたら、仲間だけだから」


「ああ、そうだったな。意味のない質問だったな」


 そういえば、マリテア・ヴィティムは仲間、家族思いだった。

 最古の魔王の一人にして第五位“繁栄の魔王”は仲間のために勢力を減らすために闇の領域ネルトシネアスを支配し、地形的に魔王への侵略を困難にした。

 エマやレミナス、リビルのように好戦的ではないが、魔王としての風格を保ち、闇の領域を支配する女王として厳しく国を治めていた。


 マリテア・ヴィティムの行動原理は全てにおいて『仲間』のためにやったことだ。

 別にそれを言い訳に責任転嫁しようとする意図はなく、ただ純粋な気持ちであり、最古の魔王として生まれ、その一人としてそれが自分にとって相応しいと思ったのだ。


 そしてその過程で闇の領域ネルトシネアス、闇を受けて成長した吸血鬼、悪魔、魔人が集まる唯一の国家を統治した。

 闇の民からは暴君じみた人物だと認識しただろうが、マリテア自身はそのように振舞った。

 そのように振舞うことによって自分が魔王であることを心に刻んだ。

 あの漆黒の大地は他種族から見れば、地獄同然であろうが、闇の民からしたらある意味、豊かな環境なのだ。

 過酷だった原因は全て統治者にあり、だから彼女がいなくなっても誰も困らないだろう。


「私はお姉ちゃん、リビル、レミナス、エマと一緒にいたいだけだよ……」


 それが本音なのだろうと、三人は瞬きの間で察した。


「あぁ、分かっているよ――」


 そんなことは当然、理解している、とレジナインはただそれだけを伝えたかった。






 破壊の領域レイズレイドの上空に発生した塔は半壊した。

 それによって『障害』は一時的に取り除かれ、他の領域への観測が可能になった。


「神々も同じことを考えていたようですね。ですが――」


 上空にある塔を破壊すれば、『障害』の嵐は停止すると考えた神々も実行に移し、ワーレストが観測した時点で他の領域も塔の破壊に成功し、『障害』が停止している。

 だが、一つ異なることがある。


「他の領域に発生した塔は一部分の損傷のみで完全に停止してます!!」


 そう、どの領域の塔も完全には木っ端微塵にすることは叶わなかったが、それでも完全に停止しているように見える。

 それなのに破壊の領域レイズレイドの上空に発生した塔は一番、損傷が激しい半壊の状態だが、【破壊】を射出している。


「それに耐久力がおかしくないか? こっちは二人の全力と呼べる威力で塔の半分を破壊したというのにまだ攻撃を続けているぞ!!」


「そうです――」


『あぁ、それはもうわかり切っているだろう。塔を全ての領域に発生させたのは本当の目的を隠すため、相手がどんな戦力なのかを想定しているからこそ、この領域の上空に発生した塔の耐久性が桁違いだったんだ』


 伝達魔法で上の会話を聞いていたレジナインが助言をする。


「他の領域の塔の発生は建前、世界規模の攻撃と見せかけたのか。なら、奴の目的はここ。多分、同胞であるレイム様――」


『あぁ、その可能性もあるが、こちらの戦力を見越しているなら、二つの勢力に対抗するように対策をしていた、という可能性もある』


 首謀者、実行者はレオン・レギレス。

 彼の目的はまだ分からないが、目的の枠がこの領域に存在するのは確実だ。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ――――」


“無敗の巨竜”ビーヴァルド・レブロヴァールは本当の姿へと変貌する。竜王とは最強の生物として知られている竜種の中でも上位の存在であり、種族の代表、束ねる者を指す。

 そのため、竜王一個体だけでも影響力はそれなりに存在し、世界大戦でも破壊神に協力し、神々が率いる四大領域の勢力を屠った。

 最も功績を残したのは“聖光の竜王”の異名を持つ雌の竜王は破壊神の正当性のため、戦い、水と風が破れ、光と炎が結託した際、エレクシアに単独で顕現し、主神の正当性を訴えたが、二神は聞き入れなかった。


 それが起因し、戦いに発展した。

 黄金と呼べる鉱石並の鱗を持ち、生命の輝き、魔力を用いて自ら光を発生させるため、あの暗雲が引き詰められた風景では太陽のように見えただろう。

 体躯は通常の竜王と同じくらいであるが、爪、そして二つに分かれた可憐な尻尾、光を用いた魔力操作を得意として魔力操作など卓越した彼女は正に神々と戦う最強の生物だった。


 だが、それは敗北に終わった。ビーからすれば、生命の先輩であり、憧れていた。

 その後、彼女の亡骸は償いという形で光の神が武器へと、聖剣へと鍛造した。所有者に限られるのは本当に真っ当な人間であるため、代々勇者の家系に受け継がれ、今ではソージとソピアに受け継がれた二振りの剣だ。


「今、こんなことを言うのはおかしいと思うが……」


“無敗の巨竜”――その異名、彼の最大の特徴は他の竜王の体躯より数倍の大きさを誇る山のような巨体にある。そのため、自分に強さがあるなんてことは子供の頃から自覚し、それを信じ、実際に強さがあった。

 更に強さを求めたきっかけは竜種の中では稀である光属性を備えた雌の竜王が誕生したことがきっかけだ。

 その巨体から内包する魔力、息を吸うように魔力を取り込み、自ら発生し、生み出す魔力も膨大な量だ。

 その莫大な量はレイムやエマを除けば、魔王にも匹敵する。巨体を覆う鋼色の鱗はジュウロウの神器の攻撃でも簡単に傷を負わず、暴風を操り、ジュウロウのように明確な物である剣を常人、互角の相手でも見切れない速度の刃を振るうと同じように、ビーは大気を固め、縦横無尽の方向から刃を出現させる。

 更に自身の巨体を覆うほどの風の壁は鉄壁であり、加入の要因となった破壊神に挑んだ戦いではその性能の高さから三代目破壊神レシア・レギレスを苦戦させたほどだ。


 あぁ、勇者一行を見た時……いや、手紙が送られてきて領域に来訪する人物を聞いた時からあの人、“聖光の竜王”レイフィア・セイクレージュの亡骸を用いた武器の所有者が来るのだろう、と……。


 正直、怒りはあった。

 それを知っていたジュウロウやワーレスト、他の最破たちも彼の身を案じた。

 だが、三千年の時を経れば、あの時にあった煮えたぎる怒りは枯れており、過去はもう変えられず、復讐する気なんて失せていた。


 だからあの出来事はしょうがない、彼女は破壊神の正当性を証明しようと主神より先に二神と戦闘したが、それが無意味だったわけではない。

 神器として形を成した。生物を元にして神器を象れば、そこに必ず意思が残留する。

神器は所有者を決める、だからその二人は彼女に認められたのだろう。


過去の事はあまり口にしないが、ビーは分かってほしいことがあり、巨竜に変貌したビーはソージ達の目を向ける。


「お前達を信じているぞ――」


 他の誰でもなく、憧れた人が認めた人間の子供たちに向けてそう告げる。


「ありがとう、ビー――」


 言葉、その意思を受け取り、ビーの背にジュウロウとソージ、ソピア、サリア、そして迎撃担当のレインが乗り、その巨翼を羽ばたかせると同時に魔力を放出し、己の身体を持ち上げる。


 そしてその巨体から想像もつかないほどの速さで上昇し、レイムとエマに続き、後衛部隊も塔へと突入する。




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