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54話 障害排除②



「評議会はまだですか?」


 塔と領域防壁が出現した後、風神国ふうしんこくシズゼリアに風の民の評議会が招集される。

 シズゼリアに王は存在せず、エルフ、獣人、妖精の三種族の代表で定められた評議会が行政機関となる。


「獣人と妖精の三賢人が間に合っていないです!!」


 エルフから選ばれた代表の三賢人、獣人から選ばれた三賢人、妖精から選ばれた三賢人を合わせた九人から評議会はなっている。

 風神国ふうしんこくシズゼリアはエルフが住まうため、評議会の招集にはエルフが一番乗りであり、他の三賢人は森の奥深くの妖精国ファーシー、獣王国ルガルガから三賢人が来るのはエルフの転移門を繋ぎでも時間はかかる。


 世界最大の領域、その内側は緑に満ち溢れており、そこに生息するのはエルフ、獣人、妖精の三つの種族である。

 その広い領域から端から端までを道を敷くなんてことは諦めており、発展しているのはそれぞれ風神国シズゼリア、獣王国ルガルガ、妖精国ファーシーの三大国家とその周りが手を加えられているだけで領域の半分以上が開拓されていない。


 そもそも三者の思想は自分達の創造神の一端、その証である森を伐採することは容認しておらず、文明圏はおおよそ三つの国のみであり、その他、全てが神秘とされている。


「領域防壁の方は?」


 まだ完全に招集されていないため、エルフの三賢人の一人、代々エルフの名家であるエシュエレフ家の現当主の女性が指揮を執る。


「まだ耐えられています。ですが、外からの圧迫が――」






 塔が出現し、広範囲に渡って『障害』を嵐のように振りまいている。

 神々は塔に狙われていないため、唯一でもあるこの現象に対処できる存在だ。話し合いの中で一番の力を持つ王家の神々、当代の四代目達が対処することに決定した。


「あれは――」


 その一人、四代目炎の神レイス・レギレスはじっくりと発生している現象を神界の端から観察する。

 個人的に決定されたことに異論なんてなく、逆に自分達の世界を守るために前線に立つことが出来ることが誇らしい。


 あの『障害』……仮の名前だが、その力の性質は的中しているだろう。

 まず、既存の環境を覆いつくした漆黒の嵐、元々の力が覆され、障害の一部と化す。あれは強大であり、神々であろうとあの嵐で不動な行動なんて不可能だろう。

 今、包まれている塔からの余波だけで神であろうと脅威に感じてしまう。


「何とかしないと……」


 現在、領域防壁は働いている。

 その隙にそれぞれの担当の領域に展開した塔を破壊しなければいけない。


「ッ――」


 レイス・レギレスは炎を纏い、踏み出す。

 あの漆黒の嵐は全てにおいて『障害』と化す。

 己から発せられる力が外部の要因によって乱れ、したいことが出来ないことになる。

 だが、それは対処できないわけではないだろう。出力する力が乱れないほどの自然で言うなら強風でも倒れない屈強な木のように熟練としていればいいが、この現象の範囲は世界規模に広がっているため、不安があるのは間違いないが、自分達、神々という強大な存在しかできないのだから……。


 それは赤い流星となって神界の高さから下へ……だけど、次元の狭間から出現した塔に目掛けて突っ込んで行く。

 この一撃は自分にとって全身全霊の一撃だ。

 レイス・レギレスは当代の中でも有能であり、力の使い方もラエルより一番、分かっているだろう。幼い頃、姉の代わりに自分が炎の神として一つの領域を管理し、崇められる対象となると分かった時、自分の人生を大まかだが、予想し、どんなことになろうと後悔はしない、と……。


 そもそも姉の代わりになったのは、いや――


「今じゃない!! 今は――」


 この全力を漆黒の塔に食らわせることだけを考える。それ以外は余計なことだ。

 炎の領域ファイテンラスクの上空にある塔へ、レイスが接近すると防衛機構として塔の表面から漆黒の光が発射される。

 あれは破壊神の力の一端なのだろうが、自分の娘を信じているためレイムが関与しているなんてことは考えないが、愛娘と非常に似た力を向けられるのはいい気持ちはしない。

 縦横無尽に飛来する漆黒の光を受け流しながら、突き進む。


「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 その姿はもう突き進むしかないと決断したレイム・レギレスに似ている。

 ただ、あの無計画性の象徴であろう突撃の仕方はレイスから習ったこともなく、遺伝と性格的に母と娘は似通っているのだろう。


 そして赤い流星は塔へと衝突する。塔の壁が大きく歪み、亀裂が走る。表面に炎が広がり、壁として構成された物質を問答無用で燃やし、焼く。

 ゴリゴリと音が成る。

 ただ一点を狙い、その細剣《煉獄剣ルガトリム》の刀身は完全に壁へと入り込んでおり、外郭が崩れる要因となる。


 己の力を前方に流し込み、レイス自身も突き刺さった剣を押し込む。

 あらゆるものを焼き尽くす炎が亀裂から塔の内部へと流れ、神の剣が差し込まれたことで保たれていた糸は途切れた。


 その瞬間、大爆発を起こして塔が崩壊する。


「ぐッ…………」


 その大爆発でレイスは後ろへ押される。塔の防衛の術であった【破壊】も止み、塔の中間が崩壊している。

 あのレイス・レギレスの一撃でも半分も崩すことは出来なかったが、塔の機能としての『障害』をまき散らす漆黒の嵐は炎の領域ファイテンラスクから消え去った。

 一つの救いとして塔の機能が大雑把であり、その機能を停止するために必要な損傷は全体のほんの一部を破壊すれば、一時的であっても停止したことだ。


「まだ……」


 だが、まだ塔が存在している限りは油断できない。

 レイス・レギレスはこの領域を管理し、高位の存在である神の一人のために損傷した場所から塔へと乗り込む。

 暗い空間を自分の炎で照らし、内部空間を捉える。

 正体不明、突如出現した漆黒の塔の中身はどこか最低限の塔の内装だけだった。


 まず、この塔は人が暮らすための塔ではなく、内部で『障害』となる力を流し、発生させる周囲の環境を瞬く間に覆す装置だ。

 レイスは慎重に道を進み、壁際の階段を上る。

 装置の機能が停止したことでどうゆう風に動いているのかは分からないが、少し前まで稼働していた証拠は息が詰まるほどに異様な空気感が物語っている。


 そして塔の頂上。

 そこは何もない空間のようにも見えたが、その中心に塔が稼働するために重要な球体が浮遊する台座があった。

 が、動いている気配もなく、何かしらの力が働いているわけでもない。


「本当に停止したの……?」


 不安ながら、独り言が零れる。ならば、と、この塔の重要部分であろう核に己の剣を向け、そして力強く振り下ろす。

 塔の核は呆気なく断ち切られて台座は崩れた。


「誰もいない、か……」


 重要であろう核を破壊したら、何者かが現れるのだろうと予想していたが、誰も現れなかったことから、その言葉を呟いた。


 そう、誰もいなかったのだ。




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