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53話 障害排除①



 炎の領域ファイテンラスクは火山地帯である。

 そのため光の領域エレクシアや風の領域シズゼリア、水の領域ソルレンテなどの領域のように観光として赴くことは出来ない。

 なぜなら、滞在という期間であろうとドワーフ以外の種族では生命活動に支障をきたすからだ。

 一見は火山地帯であるが、領域としての貴重性は非常に高く、炎が満ちる大地から幅広い用途で用いられる鉱石が発掘されている。

 魔法を扱えないものでも火を起こせる日用品から魔法の触媒として、建造物の装飾、武装の材料などに用いられている。


 それらの技術もドワーフから流れていったものが大半であり、エルフが魔法技術に長けた種族であるなら、ドワーフは人工技術に長けた種族と評される。

 その外見は熱に適応するために筋力、毛量は他種族より多く、地脈を見るための魔力感知に長けており、先祖からの遺伝で手先が器用でもある。

 その身長は狭い空間でも適応するために平均的な人間の身長より低い者達が大半である。

 彼らの領域はエレクシアより広大であり、ネルトシネアスに次ぐ六つの領域の中では三番目の規模を誇る。


 そして炎の領域ファイテンラスクも例外なく、暗黒に包まれ、塔による障害によって領域防壁が展開する。

 この異様な状況に中心国家、炎神国えんしんこくファイテンラスクの行政機関である炎神議会えんしんぎかいに議員が集まる。


「これは異常事態だ!!」


「いや、それは分かりますって」


 ドワーフという種族の方針を決める炎神議会で緊急で招集された。

 議員としてメンバーは各部門の長を統括し、ドワーフにとっての最高権力者である議長を筆頭として議長の補佐的な立場である事務総長じむそうちょう鍛冶工房長かじこうぼうちょう鉱石発掘長こうせきはっくつちょう軍事司令長ぐんじしれいちょう貿易商会長ぼうえきしょうかいちょうの六人である。


 一番の高齢である議長ヴァレメロンだが、雰囲気を和ませることに関しては一級であり、人望も厚い。

 そのためエルフに次ぐ長寿であるドワーフの国家の中で議長という役職に数代の時間を跨いでいる理由でもある。


 そんな議長だが、まず当たり前のことを大きな声で言うことが特徴であり、それを把握している事務総長がすぐに反応し、議会では進行役を担当する事務総長バグバロが話しを進める。


「炎神のご加護のため、領域防壁が展開していますが、観測に出た軍隊の確認によると外からの圧迫を受けているようで領域防壁で凌げるとは思えないようです」


「そうか、領域防壁が破れれば、どうなる?」


「防壁の外は黒い嵐が領域内に吹き込んでいくでしょう。その風力は大地が削れるほどであり、死に瀕するほどかと」


「分かった。あの嵐を我々が何とか出来るわけではない、至急、地下へと非難させ、あの嵐を防ぐために大規模魔道具の使用を」


「了解です。首都の周囲にある限りの防壁展開型の魔道具を配置します。領域防壁が破壊されるまで種族の避難を完了しよう――」






 水の領域ソルレンテはほぼ全てが大海の領域だ。

 四大同盟以前より漁業に力を入れ、貿易を勤しむために唯一の地上地帯である海に面した港町レナードが存在している。


 そして水の領域ソルレンテのほぼ全てを占める大海の底に水神国すいしんこくソルレンテが広がっており、ファイテンラスク同様、水の中でも生息できる海の民セイレーンのみが存在している。


 そしてソルレンテも襲撃される。

 大気が汚染されるのと同じく大海も汚染され始めており、全ての種族に漫勉なく、滅ぼそうとしている。

 あの塔の出現した場所が、この世界において重要な場所である神々の領域だ。

 突発的な出来事だとは考えにくいが、確実と呼べるものはなく、それを深く考察しているのは“知識の種族”と呼ばれるセイレーンだろう。


 彼らはドワーフやエルフと同じく長寿で知られているが、それ以外の有名な特徴として時間の感覚が唯一異なるのだ。

 通常の感覚で一年が一か月未満、となる。


 なぜ、時間の感覚が異なるか、という根拠として今のセイレーンとして存在している個体は全てが始祖、つまり最初に誕生した世代か、その子供たちのみだからだ。

 そのため大海の中を生き、ゆっくりとした感覚を持っている彼らは“時間の流れが非常に緩やかな種族”と呼ばれ、更に興味があるなら、交流ではなく『観測』という方法を重要視しており、接点がなくとも『観測』し、知識として保存する。


 その『観測』という特性から知識量も他種族を凌駕していることから“知識の種族”と呼ばれ、セイレーンという種には女性しか存在していないため、他種族から『神秘』とい呼ばれ、それに含まれている。


「女王様、異常事態です!!」


 セイレーンの深海神殿に座する女王ラカールに急ぎの使者が飛び込んでくる。


 だが、それを女王ラカールは宥める。


「最近、観測された世界の歪みと関係しているのでしょうか?」


 王政であるセイレーン、その女王ラカールの周囲に並ぶのは四人の臣下が意見を女王に向ける。

 セイレーンの『観測』のおいての技術はレジナインですら模倣を諦めたセイレーン独自の力であり、窓を介することで“レギリオン世界”の全体を観測することが出来るまでに至っている。


「そうかもね。領域防壁は展開しているけど、完全には持たないことは他の領域にも言える。『観測』は障害で不可能、後は神様たちに任せるしかないでしょう。我々には避難することしかできません」


 流石の知恵者たちの女王は冷静に現状を分析し、民に目的を与える。


「分かりました。すぐに――」


 女王ラカールは慌ただしい皆より落ち着いている。

 そのわけは知恵者たちの頂点である女王は星の状態すら『観測』を可能としており、この星の状態を把握できている。

 この星の寿命は尽きることはないだろう。万能に近い創造神によって生み出された星の寿命は何万、何億との存在時間を有している。


 それに自分達でどうしようもない事案。

 今の状況のように世界規模での異変、世界終焉が起これば、奮闘はするだろうが、星の規模で『観測』を可能とする知恵者である女王はそれを受け入れるしかない。

 何もできないのなら、運命や自然と自分が納得のいくことで片付ける。

 簡単に言うなら、半ば諦めているが、もう半分は希望を抱いている。


「誰かが救ってくれることを祈りましょう――」


 そう呟いた女王は冷静に玉座から傍観するのだった。




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