52話 降臨したもの③
漆黒の塔から発生した障害と同時に領域防壁は消滅し、道は開けた。
明確な攻撃を目にした瞬間、レイムは両翼を展開して飛び立つ。
自分の周囲に魔法陣を展開して降り注いでくる漆黒の光弾を迎撃しながら、両翼を動かし、塔へと目指す。
「レイム、待って!!!」
エマも魔力を纏い、空中を蹴り、後方に炎熱を放出して自分の身を持ち上げて上昇する。
「私達も!!」
ワーレストはそう言うが、全員が飛行を可能とするわけではなく、その最たる例としてジュウロウ・ハリアートが該当する。敵が飛んでいようと斬撃を飛ばして対処でき、遠距離による絨毯爆撃でさえ、彼には通用しない。
剣技において右に出る者はいないだろうが、彼に出来ないことと言えば、飛ぶことだろう。
彼自身に力を発現させるくらいの魔力は存在しているが、人間、いや種族がただの魔力で飛行することなんて不可能だろう。魔力とはエネルギーであり、それを使用するには象る必要がある。
その方法が『魔法』であり、魔法技術に関して右に出るものはいないであろうエルフが開発した飛行する方法が浮遊魔法だ。
「私の魔法で上へあげましょう!!」
「いや、俺が竜となって上がる方が安全だ」
「いいえ、私の部隊で護送と護衛をします!!」
レイン、ビー、ワーレスト達は自分が持つ手段で塔へと昇ろうと提案するが、まず塔の攻撃を迎撃することともう一つは上昇の速度の二つの問題がある。
その二つが成立している存在だからこそ、レイムとエマは走るように上空へと飛び立ち、迫りくる攻撃を迎撃していき、塔へ昇ることが可能なのだ。
「いや、少し待て、馬鹿共――」
世界最強の一角である“最古の魔王”と世界一天才であるレジナイン・オーディンが最破達の論争をその一言で中断させて、鋭い視線を自分に向けさせた。
「あぁ、勘違いするな。馬鹿共という意味は今の貴様たちを表したわけであって、決して何も考えずに特攻した主神と副王のことではないからな」
通常ではない言い訳、解説が成されたが、一言で言えば天才の皮肉である。
彼らは決して無能ではなく、その逆の有能に値するが、そんな者達が統合されようと自分達の統率が成っていなければ、それは無能へと格下げされてしまう。
それは決して、全てが万能というわけではない。
彼女の仮説では人型、それか生命として成立している以上は万能というものは空想であり、想像から生まれた創作であると……。
「あの二人が、塔からの攻撃を停止してくれるかは分からないが、我々も上がらなくては援護、もっと言うなら危機に瀕した時に助けられない。なら、上昇する手段としてビーとレインでやればいい。有り体に言うなら、お互いの長所を組み合わせることでチームワークが発揮されるんだ」
大人としてそう優しく、煽るようにレジナインは最破にお教えする。
「あの障害は取り除かれたが、あの塔が存在している以上、ここが安全である確証はどこにもない。前線として送り出すなら、対処が出来る少数で行うことだ。では、私達は地上の最高戦力として責任を持って領域を守護しよう」
配下筆頭であるジュウロウに命令される前に自分でやることを決定したレジナイン、副王エマ・ラピリオンの護衛を買って出ないのは一見、気にしていないように見えて、彼女の強さを信じているからだろう。
それでも同じ立場である主神レイムに護衛を要求する理由はレイム・レギレスが未熟であるからだろう。
主神と副王。立場は階段の一段くらいの誤差のようなものはあるが、お互いを相棒として認め合っているが、双方の生きた年月の差は大きなものだろう。
世界創生の時代、別の神から生まれた“最古の魔王”の一人、末っ子でありながら最強の強さを秘めている存在。
助言はすぐが、それ以上の事はあまり踏み込まない。
一つの節目を突破し、しっかりと大成したが、それでも誰もが同じく完璧ではないからその補佐として徹しているだけで望まないのなら、レジナイン達は関与しない。
そう、彼らは魔王であるが支配領域、その思想が一致しているわけではない。
第五位“繁栄の魔王”マリテア・ヴィティムは直下の領域とそこに住まう種族を統括し、支配するが、繁栄を許した魔王。
第四位“滅空の魔王”リビル・リグレウスは天使の空域を力で奪い、自身の領域を広げている魔王らしく身勝手で、己の姿を見せしめた魔王。
第三位“知識の魔王”レジナイン・オーディンは支配する領域は知識であり、探求し、研究し、開発に明け暮れたが、驚異的な支援力を持つ一風変わった魔王。
第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスは支配領域を持たなかったが、魔王としての威厳を保ち、それを甘んじたものに天罰を与えた身内を思う保護の魔王。
第一位“紅蓮の魔王”改め“大魔王”として四人の上に君臨し、幾度となく神々と戦い、敗北するが、立ち上がり、世界最強の一角を一人で担い、かつて刻まれた理想を捨て、新たな鏡戦線へと足を踏み入れた新たな道を征く魔王。
大きな違いはないが、微妙に違う。
エマの最初はまずは壊してから考えていたが、今は攻撃の前に考えるようになった。
レミナスの反省するところは後先のことを考えていなかったからこそ、あの判断が衝動的であったことを悔いている。
レジナインは反省はしないが、探求を進めている。
リビルは新たな強さを示したレイムの下につくことを意外にも良しとしている。
マリテアは家族に従い、自分も受け入れていくことを決めた。
同盟者たちはそれぞれ急なレジナインの提案であったが、自分なりに受け入れようとしている。
だからこそ、この初の共同の戦いは新鮮なのだ。
それが一番、現れているのはエマ、ではなくレジナイン・オーディンだ。同盟が決定されてワーレストと並ぶ、参謀役に加わったことでその役割をしっかり果たしており、レミナス、リビル、マリテアも気づいているが、彼女は楽しんでいる。
そして対面にいるジュウロウも嫌でもそれを知ってしまう。
「ちっ、あぁ、いい教訓になった。じゃあ、そうしよう。少数なら俺をリーダーとして運搬にビーと迎撃にレイン。ワーレストは領域防壁や周囲の防衛と全体の指揮、後はソージ、ソピア、サリアなら塔内部の狭い空間であろうと十分に戦えるだろう。少数なら、これで十分だ。後は、下の護衛に専念しろ」
それ以外、つまりベルーナ、リツリ、シール、ピール、リールの五名は下で護衛をすることに決まった。
「もう二人は辿り着くな。すぐに行こう――」




