49話 作戦会議
「謎の攻撃……?」
「はい。私達とレジナインが観測しました。神界より更に上からの光線によってエレクシアの南西方向の街の一部が消失しました」
「放った人物は観測不可能だったが、次元操作の波長を確認した。そして攻撃自体に関しては【破壊】だった。つまり二代目破壊神レオン・レギレスの仕業だろう――」
最強組織『無限の星』の参謀役としてワーレストとレジナインが担当することが決まり、早速、レジナインも参加している。
「破壊神の立場を考えるなら、容易には動けない。あのあからさまな攻撃は破壊神レイムにも疑いが向けられる意図も大いにあるだろう。だから、今のところは様子見だろう。下手に動くことは出来ない……」
参謀役の片割れとなったレジナインがそう判断した。
今のところ全員が同じ意見だろう。攻撃に用いられたのが【破壊】である以上、自分達から動けば、疑いの目が向けられてしまい、世界大戦の二の舞だ。
「こちらからは動かないが防衛はばっちりと……」
「うん。もう実行した。後は観測から正確な情報を入手するところからかな」
意気投合、なのかレイムの視点からはスムーズにやり取りしているワーレストとレジナインはそう見える。
「分かった。これからの状況はどうなると思う?」
主神レイムからの質問。
それにワーレストとレジナインがタイミングを見合わせて二人は予想を返答する。
「私はなぜ光の領域が狙われたのか。それは世界最大国家であり、国として軍事力、他領域との情報網などが随一であるからこの領域を除けば、そう判断しました。しかしそれでも他の領域の武力を抑えられたわけではないので、恐らく他の領域も――」
「なるほど襲撃される、か……。それもあり得ない話じゃないが、この事態を裏切り者と評されたレオン・レギレスが指揮しているのなら、同胞であった者達は殺すはずだ。二代目、そしてそれに派生した神々も……奴は本当に破壊神として目覚めている可能性が高く、目的はこの世界の蹂躙なのかもしれない」
レジナインも意見を挟み、議論は続く。
裏切り者と呼ばれた。
そのことを当人がどう思っているのか……それを受け入れているのか、それとも拒絶しているのか。
それでも彼の動機は変わってくるが、戦いは必ず起こる。
「だが一つ見落としていたが、レオン・レギレスが現れたとしてこちらが動いても、誤解はされると思うんだが?」
「それはそうだな。他の種族の考えなんて知ったことじゃないが……」
ジュウロウはそんなものは無視と述べる。
確かに今に動くにしろ、レオンが明確に姿を現してから動くにしろ、他の種族の印象は異変を生み出した同じ破壊神が動き出せば、多くの者達が悪い方向に解釈してしまうだろう。
そうならないなんて、あり得ないほどに……。
「あの世界大戦、自らが裏切り者となり、神々と種族、そして魔王と世界全てを巻き込んだ印象操作……恐らく今回も……」
「まぁ、魔王に関しては印象操作というが独自に動いただけだろう?」
神々と種族は関連があったからだろうが、魔王に関しては無関係だ。
「私も印象操作はされる。悪い方向に傾くのは必然のように思えます」
リツリは参謀役の話しを聞いて自分の意見を述べる。
破壊神レイム・レギレスの立場が悪くなる状況はレオン・レギレスにはメリットがあるだろう。
どんな目的でさえ、自身と同じ存在がいるのだから万全の立場なんて自分が不利になるだけだろう。
「あぁ、それと一つ。レイム様とジュウロウが接触した四代目破壊神アレン・レギレス。その存在と接触したタイミングが天使の領域から抜け出し、落下している最中……これは仮設だが、二人を助けた手段が転移魔法なら、世界全土に転移できるのなら、破綻するが、通常の転移魔法は座標を設定する方法より単純なもの、それは肉眼で見える距離まで移動が可能となる……その方法を用いたのなら、四代目破壊神アレン・レギレスはエレクシアのどこかに存在しており、その場所がエレクシア南西方向の区画の一部、だった――」
「ッ!! た、たしかに神界より更に上からの攻撃、この世界に対処不可能であり、一方的に殲滅できるはずなのに……南西方向の区画の一部を消滅させたなんて不可解ですね」
リツリがすぐさま反応する。
「ああ、それが正解なら、奴は同族である破壊神の一人を殺した。つまり次に狙われるのは――」
ジュウロウは薄々気付いていたのだろう。観測された状況を報告された時から何故、一部だけなのだろう、と……そんなものはエレクシアに思い当たることを思い返せば、つい最近の出来事だと、唐突であった四代目破壊神アレン・レギレスの邂逅のみだ。
自身と主であるレイムを包んだあの術式は、魔法なんてからっきしであるジュウロウの感覚では簡単なもので決して複雑じゃものじゃなかった。
だが、レジナインやワーレストが観測できなかったということは空間歪曲や認識阻害らしき結界があの空間には展開されていたのだろう。
自分というイレギュラーな存在を隠すために世界を見守り、正当な後継者であるレイム・レギレスに託した。
恐らく自分ではオリジナルには勝てないと知っていたのだろう。
「――私、か」
「なら、話は早い。万全の状態で待っていればいいだけだ」
「そうだな。戦闘準備は行っておこう。いいですね、レイム様?」
「うん。来たら、戦うだけだよ――」
決意の表情を浮かべるレイムを見て、全員が微笑む。
「んん~、ん?」
するとエマがベッドの中でモゾモゾと動き、やっと目覚めたのだ。
「エマ、もう方針が決まったから戦闘準備して――」
レイムは意識朦朧としている寝起きのエマに催促をし、『無限の星』はレオン・レギレスとの戦闘準備に入る。
そしてレイムとリツリ、皆が寝室から出ていく。
「では、レイム様。身支度を」
「うん。お願い……」
いつも通り、使用人としてリツリが身だしなみを整える。レイムは目の前のドレッサーの鏡に映った自分を見た瞬間、時が止まった。
いや、正確には時が止まったように見えている。
実際の時間は流れているが、レイムの流れが急激に低下しており、何かしらの干渉を受けていることは明白である。
ただ、それを思考することなんてできず、一方的に干渉が行われる。
『――レイム・レギレス、俺と同じく正当なる後継者――』
『――これから行われる同族同士による殺し合い、大いなる事柄による物事の進行を監視する者として見届けよう――』
『――誰が生き残るのか、どのような結果を成すのか、どんな結果であろうと我が大首領は歓喜せずとも悲哀もしない――』
『――俺としてはお前に期待している。大首領が干渉した方ではなく、私的な理由でお前を推薦しよう――』
『――どんなに運命が強靭であり、『唯一者』も巻き込むものであろうとより大いなる運命によって翻弄される。さあ、示すがいいさ。己という全てを――』
そこで干渉が終了した。
レイムは思考することは出来なかったが、一方的な干渉は理解でき、それを考えることもできる。
ただ、質問すら許されざるものだった。干渉の時間は現実世界でレイムが鏡に映った自分と目が合った一瞬であり、干渉相手は分からないことだらけだが、一つだけ理解できるのはレオン・レギレスにも同じ干渉をしたのだと、根拠などないが、そう解釈する。
リツリに異変がないことから自分だけの干渉だった。
だからレイムは自分一人で考えることにした。




