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45話 試練の終わり



「ぐぅ……はぁ――」


 痛みに耐えながら、意識を保つために呼吸に集中する。

 切り札である世界系と神器解放で敵であるレイムを打倒できなかった時点でエマの周りに存在する防御面は薄皮一枚ほどまでに性能が低下してしまう。


 だから二つの切り札を突破された時点でエマの負けは確定した。


「は、はは……マジか……」


 破壊神には二度も負けたことが事実であり、二度も全力で戦って負けたことが悔しいが、意外すぎる出来事に面白くて笑ってしまう。

 以前なら、負けたということだけを睨み、ただ怒っていただろう。


 だけど今回はそうはならないということは……紛れもない成長なのか、ただ今回はその感想に至っただけなのかもしれないが、心境が間違いなく変化している。


「い、たい……こんなの久しぶり、だな……」


 エマは倒れていた。

 懐かしい場所、樹々が鬱蒼と茂っている景色、走馬灯から見ていた創造主、デスター様の居城周辺に似ている、というかそれだろう。

 森の類なんて大魔王エマ・ラピリオン自身が過去に散々焼き払ってきたというのに、この景色だけは記憶に刻まれている。

 自分の肌に懐かしい感じが伝わってくるが、それも顔部分しか感じない。

 小さな胴体は左肩から腹部にかけて切り裂かれており、エマの意識は失いつつあるため、このまま放置すれば、生命活動が停止してしまうだろう。致命傷の原因となったのはレイムの最後の一撃、心臓も傷ついており、草むらが鮮血で染まる。


「ッ…………」


 ………

 ……

 ……

 意識が勝手に遠ざかっていく、意思が失われて力の行使はもはや不可能だろう。


「試練は終わった、かな……?」


 最古の魔王の一人“序列三位・知識の魔王”レジナイン・オーディンは“序列一位・大魔王”エマ・ラピリオンを見下ろしている。

 彼女の表情は安心を浮かべており、その後にエマとレイム・レギレスの治療に取り掛かった。


「うぅッ……んッ」


 ふと、気がついて瞼を開き、起き上がる。

 そこは森の中だった。


「――破壊神に負けたのは二度目だ。でも、何も対策をしなかったわけじゃない。最初の方は距離を取ったが、それは正解だった。だけどお前が神器を生み出したせいで――」


「エマの作戦は根本から崩れてしまった、と……まさか、一つしか作戦を立てていなかったなんて……」


「お前に言ってない!!」


 レイムに対して話したのだろうが、その答えはレジナインが返した。


「傷は癒えたかな? ここは私達の故郷って言ってもいい場所、あの島はもう完全に消えてしまったから、私が決着したタイミングを見て、転移させてもらったよ!」


 レイムは服が燃え尽きたことで上半身、いや裸だ。

 あの時、エマの《金色に輝く帰結を齎(インテンスノヴァ・)す至高の星剣(ソルリウス)》をギリギリ、いやわざと当たってまで突っ切ったのか……。


 まず、神器解放時の攻撃は発動者の身の丈以上の出力を操ることになるだろう。

 だからこそ、剣を振るようにやたらと攻撃の方向を変更することはできないだろうし、あの瞬きの間で見たエマの表情を思い返すと、剣を振り下ろすことで精一杯のようにも見えた。


 当然、それはレイムにも言えることだ。

 一撃目に用いた神器《破神槍ルークラガ》は投擲だったからか、エマのようにエネルギーの射出、狙う方向を維持するものとは違い、その手から離れるため負担は軽減されるだろう。

 だが、そもそもレイムは突発的であったが勝利するために神器《破神槍ルークラガ》を創造したことで、エマと同等の負担は存在した。

 更にレイムは勝利の可能性を上げるために《破壊剣ルークレム》と《破神槍ルークラガ》の二つの神器を解放することを決め、戦いの最終場面で神器の創造と短い間隔で二度の神器解放を行ったことで負担という不利要素はレイムの方が多かった。


 だからこそ余分な行動、無駄なエネルギーの消費をしないために最も短い距離、一直線で突っ切ったのだ。

 自分の限界を超え、下手すれば自己崩壊となり得る状態からの一撃。


 これは流石のエマ・ラピリオンでも想定の外側の出来事だった。


「予想外の展開すぎた。本当に破壊神でヤバい奴だな……」


「……それは褒めているの?」


「う~ん、半々だ」


「勝利するにはそうするしかなかった……自分と同等なら、その限界を超えるしか勝つ方法しかなかった……」


「いや、それは当然の考えだ。だけどそれを実行するのはそう簡単じゃない。限界を超えるなんて、どんなに強大な存在でも難しい。いや、強大だからこそ限界を超えるなんて、自己の崩壊に繋がるだろう……」


 レジナインはそう説明する。

 最古の魔王の中で、いやこの世界で天才と同族から言われ、その技術は世界大戦中に魔王軍の盛大なバックアップとされた事実、ワーレストの種族並の技術と知識を保有する知識面においては最高峰の存在もそう考察するほどにレイムの偉業は一歩間違えれば、自滅に繋がることだ。


 どのような存在においても『限界』というものは存在する。

 例えるなら、限界は殻と同じであり、そこから外側は未知数であるが、故に恐怖は付きまとい、例え、強者であろうと容易く実行することはできない。


 捉え方によるが『限界』には二つほど種類が存在する。


 まず一つ目はそもそも超えることが不可能であり、既に決定された『限界』と二つ目は何かに取り組む目標を決め、それを超える『限界』が存在する。

 前者は現実的なものだが、後者は幻想的なものだ。

 前者に関してはそもそも不可能な事であり、越えようとするならばその器は損傷するというその位階に対して絶対に超えられない壁だ。

 後者に関して何かを達成しようとした時に目標を設定する、という超える前提で設定された『限界』はそれがその存在の限界とまでは言わない幻想的なものだ。


 今回のレイムに関しては他者から見たら、それを超えることは自滅、つまり前者だと思われていたが、それを後者に置き換えたのだ。

 まぁ、単純に最初から後者だったようにも見える。取り組む内容にもよるが、リスク、怪我など負うことはあるが、死滅する段階だとどうしても前者に思えてきてしまう。


 何よりの根拠として神器の創造だ。


「そうだ、何でお前、神器を創造できたんだ。普通、能力に一つの神器だと思うんだが?」


「いや、これは継承されたものだから……」


 そのレイムの返答に対してレジナインは眉をひそめる。


「神器の継承か。だが、妙だな……それは能力と接続しているのに、槍が顕現している時も二つ同時に接続されていた。まさか――」


 可能な限りの知識を保有している天才、レジナインの思考において『疑問』はこの世界の外側、次元の壁だったり、既存の法則から離れた『例外』的なものである。


 そう、妙だ、何かを気にして、思考する。


 そして出た答え、レイム・レギレスはエマ・ラピリオンの戦闘の最中で『能力』と『神器』の関係である既存の法則を逸脱していたのだ。




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