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44話 破壊神レイム VS 大魔王エマ⑥



 遅かった、とエマ・ラピリオンは悟った。


 その理由はあの太陽の攻撃を受けてなお、自分の元へと突破してきたレイム、それが持つ異様に輝く漆黒の剣が目に飛び込んできたからだ。


「ふッ……マジかよ――」


 全力だった。

 全力だったが、私は負けるだろう。


 だが、レイムも無傷ではなく、最後の一撃である右手に握る剣を守るために左半身は常に燃えている状態のなか、その右手に握られた剣を思いっ切り振り下ろした。


「――――《その剣先に破(シヴァ・)壊を約束しよう(ルークレム)》ッ!!!」


 その黒が凝縮された光、その力が剣撃となってエマを襲う。

 左肩からその一撃は入り、二人の距離は剣が届くギリギリの距離だったため、腹部の辺りで刃は抜けたが、致命傷には他ならない。

 両断されなかったのは不幸中の幸いか、それとのレイムの未熟さによるものだろう。


 痛い、痛い、いた、い……。


「ああ――」


 これは決定的な敗北である。

 三代目炎の神ジルフィス・レギレスの時、三代目破壊神レシア・レギレスの時、そして今……そして、あぁ、一番、最初の敗北は――






「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ…………」


 二人の衝突で大地が沈み、巨大な窪みが生じた。


 まだ人型もいない時代なのだからよかった。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ…………」


 痛い、痛い、痛い……。

 感情を認識し、力への意思が弱っていき、器だけだったそれは少女の形、少女の見た目へと変化し、胸から鮮血を垂れ流した悲惨な光景へと変わる。


「うッ、うぅ、うあぁぁぁッ――」


 誕生の過程は違ったが、母胎から生まれた赤子のように人型らしい声、産声を上げた。


 それは痛みから、それは外界をちゃんと認識したことから、それは込み上げてくるあらゆる感情、所謂、さっきまで内から外へと怒りという一種の情報を垂れ流していたが、今、外界の情報を認識できるようになり、情報過多のせいでもある。


「うわあああん……うわあああん――」


 ただ泣く少女に誰かが近づき、腰を下ろし、その頭を、胴体を抱え、自分の方に寄せて抱きかかえた。

 誕生の過程が違っても、まだ一日も経っていずとも、彼女は姉として妹を助ける。


 さっきまで見えなかったが赤毛の頭をレミナスは撫でる。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫だよ……」


 撫でられて優しい声をかけられたそれは安心を感じ、声が徐々に小さくなっていく。


 さっきの怒り、戦いは記憶として保存されるだろうが、それはレミナスという存在を認識したが、再び襲う気配はない。

 なぜなら、知的生命体のような互いに敵と認識した関係として戦っていたわけではないからだ。

 一方は生物学的な姉として、一方は怒りのままに衝動的に戦っていた。

 それに至っては当時の感情として怒りしかなく、今は怒りを微塵も持っていない。


「大丈夫、大丈夫だよ……エマ――」


「え、え……」


 ある程度の知識は与えられていないため、言葉は喋れないが、それでも意思疎通ができないわけではない。

 相手の表情、音、感情から言葉のない意思の区別はできる。


「エマっていいと思わない?」


「…………」


 ただ優しい存在をそれは見つめる。


「赤い髪、金色の瞳……可愛いものだらけ、これが私の妹だなんて、私は幸せ者、だね!!」


 得た知識の言葉で今の状況を表現する。


「……鎮圧は成功か。それなら」


 浮遊島から二人を見守る創造主はエマに知識を与える。


「エマって、私のなまえ?」


 それは知識を得たことで疑問を返す。


「うん、そうだよ。いい響きでしょ?」


「……分からない。エマって、いい響き、なの?」


「うん、君にピッタリだと思うんだ。よいしょっと!」


 レミナスはエマを抱きかかえて窪んだ大地を上る。

 ただ揺られながら、辺りを見渡す。

 だが、興味を引くものなんて何もなく、前を見ると自分とは違う他人が見える。

 レミナスは登り切ると声を上げた。


「うわあ~エマ、見て!!」


 エマ、と呼ばれて他人が見えている方を見るとそこは青かった。


 正直、驚きはあった。

 目が見開くほどには驚きがあった。


「綺麗だね~、凄いね~」


「すごい、かも……」


「でしょ!! これ以上のものがもっとあるかもしれないよ」


「…………」


「だから、一緒に見に行こうエマ!!」


「……う――」


 その時――レミナス・グラシアス、と目の前の他人、いや姉の名前が送られてきた。ある程度の知識を手に入れたことで創造主、そして五人の関係性を把握したエマ、それによって目の前の他人は優しい姉、自分のことが大切な姉という関係を認識した。


「ん、エマ?」


「う、うん。まぁ、いいんじゃない……」


「やったぁ!! それと――」


「まだ、あるのか?」


「お姉ちゃんって呼んでみて?」


 意味が分からない。

 関係性は理解したが、その関係性を際立たせるような物言いをしなければならないのか、そもそも関係性は認識したが、認めるかどうかは別の話。


「やだ!!」


「なんでぇ?」


「やなものはやだ!!」


 エマは声を荒げて否定する。


「えぇ~なんでぇ~」


 本気で悲しんでいる。

 なぜこうも暑苦しいのか、馴れ馴れしいのか、でもその答えは自分の中にある知識で容易に導き出すことができる。

 姉だから、家族だから、妹だから、大切だから……。

 なぜだろう、裏切りたくない……。


「えぇぇぇぇ~」


 ヤバい、このままでは悲しみのあまり泣きそうだ。

 どうすればいいか、どうすればいいか。

 エマは知識の中から何かないかと探し回り、一つの事に目を止めた。


 これなら――


「んッ――――」


 エマは手を伸ばし、左手はレミナスの肩を掴み、上半身を起き上がらせ、右手はレミナスの頬に添えて、自分の口をレミナスの口に接触させた。

 皮膚接触による感情の緩和。

 撫でるとか、抱きしめるとか、手を握るとかの中でも仲、関係性の深いものの方が、効力が強いとされている。


 そんな知識に従って一発で泣き止むし、関係性を崩さないための方法として接吻、口付け、キスを選んだ。


 その効果は知識の通りに触れたと認識した途端、レミナスの声は止んだ。


「ん~」


 数秒の後、エマは口を離した。


「はぁ、効力が強いものを選んだが、知識は信じていいみたいだ。姉でもあろう奴が、わんわん泣いて、いやまだ泣いてないがグダグダと言うな。私の真上で騒がし――」


 次の瞬間、片手で後頭部を掴まれ、強制的に口を接触させられる。


「んんん~……」


 呼吸ができないことが欠点だ。人型であるが故、力を発動していなければ呼吸は必要になる。


 な、なんだ、仕返しか!?

 それにしても長いって、ちょっと舌を入れるな!!


「むむむむむ!!」


 強引に引き剥そうとするが、吸引力に負けてしまって離れない。

 数十秒の後、レミナスは口を開いた。


「ぷはッ――おいお前、長すぎるぞ。それと舌を入れるな、馬鹿、酸欠で殺す気か!!」


 抱きかかえられながらエマは罵倒するが、レミナスは関係なしにエマを強く抱く。


「エマ、大好き!! エマも私のこと大好きだよね~」


「嫌いに決まっているだろ!! お前なんか姉じゃなぁぁぁぁぁいッ!!!」


 それはエマ・ラピリオンの誕生の日である。




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