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43話 破壊神レイム VS 大魔王エマ⑤



 彼女という存在、エマ・ラピリオンが生まれた時、ちょっとした何か、問題が生じてしまった。

 それは創造主の手違いというわけではなく、全く予想していなかった出来事だ。

 創造主は魂、生命を殺すことに特化していたが、別に生命を殺す以外の事を出来ないわけではなかった。

 自分の役割、その力に抗い、五つの要素に命を与えた。


 それは自己満足の償い、いや、気分転換と言われてもよかった。命を芽生えさせたことで何か少しでも心境の変化はあったが、根底に存在する『役割』には抗うことはできない。


 そもそも『役割』から抗うことなんて自分という存在を否定しているのと同じなのだ。

 生命、存在の誰もが『役割』を与えられているが、人間や獣、存在の位階が低い知的生命体には『役割』の強制力が弱いのだ。

 だから、ある種は『役割』を自覚することはできず、ある種はその『役割』を自覚して行動理念として掲げている。


 だが、その反対である上位存在はどのような生き方なのか……上位存在、一言で言い表すなら、重要な存在

 重要であるが故に『役割』を熟さなければいけない。

 そのために『役割』の強制力はその存在の証、存在理由であり、それに抵抗すれば、自分自身の存在を自ら否定する行為に繋がるのだ。


 彼の役割は生命を殺す事象、死を司る。

 いや、彼そのものがこの宇宙において死の概念であり、彼がいることでこの宇宙は、世界は、生命は、回っていくのだ。


 彼はそれを放棄した……のだろうが、意識ではそうであろうと『役割』から逃れることはできない。

 システムに設定された既存の概念、それを否定することなんて無理な話なのだ。


 だが、逃げたかった。

 自分だからこそ、この道から外れる意思を持ち、何か別のことをしようと考え付き、なら反対の事をしようと思いついた。


 自分はただ保存した力に命を加え、芽生えるのを少々手伝うだけの作業。

 合計で五つの命を再誕させた。

 無論、記憶がないため新たな名前を考え、ある程度の知識とある程度の『役割』を与えた。

 一番目にして長女のレジナイン・オーディン、二番目にして次女のマリテア・ヴィティム、三番目にして長男のリビル・リグレウス、四番目にして三女のレミナス・グラシアス、五番目にして四女のエマ・ラピリオン。


 だが、五番目の赤で予想外の出来事が起きたのだ。


「ぐぅぅぅぅぅ、がああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――!!!」


 それは器を一瞬にして溢れ、氾濫するほどの怒りだった。

 命が芽生え、小柄な少女の形となり、名前を与える前、急に獣のような咆哮、絶叫を轟かせた。

 その力に命を入れ、成立させた途端にそれは起こった。

 少女の器は紅蓮の炎に覆われ、皮膚や目、口など人としてのものを持たず、たた光体のような風貌である。


「な、なに――」


 四人も急な力の絶叫にたじろいでしまう。

 怒りと魔力が溢れ、創造主の城が激しく振動する。


「お父さん――」


 レジナインが黒いローブで全身を覆う創造主に声をかける。自分の知らない事象であるため、親に聞くのは当然の事だった。


 その声に戸惑いを捨て、まずは力を対処しようと考え、四人の前に出ようとした。

 だが、それより速くレミナス・グラシアスが前に出た。


「お父さん、私がやる。やらせて――」


 四番目に誕生した生命、レミナス・グラシアス。


「だが、待て。あれは、まだお前の手には――」


 そう諭すが、レミナスは幼いながらも覚悟の表情を崩すことはなかった。


「あの子は私の妹。そして姉である私が、やる必要がある!!」


 その手には氷結の槍が握られており、誕生から直後に力を使いこなしている。


「……分かった。だが、もしもの時は私が対処する」


 それに頷き、レミナスは了承してゆっくりと前進する。

 まだ名前も、知識も、与えられていないそれは行動理念や意思のない力の塊、この場合の行動予測は的外れになるだろう。


「ぐぅぅぅぅぅああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 全身を紅蓮の炎で覆われたレミナスより小柄な少女の形をした力。

 その絶叫は怒りからのようだが、他に苦しみから、自分の炎で焼かれている痛みからくるものにも感じる。

 何しろここで抑えなければ、いけない。


「お姉ちゃんの言う事を聞きなさい!!」


 その瞬間、レミナスは槍を構え、それに突進する。

 それは恐れることなく、レミナスに向かう。炎と氷、どちらも弱点になり得るのと力関係は激突した。


 そして拮抗する。

 光熱のオーラによって槍がそれの器に届かないほどの魔力出力、誕生したばかりのレミナスはそれを押し切ることはできない。


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」


 まだ余力を持っているそれはレミナスを押す、もう持たないと悟ったレミナスは力を解放する。


「――『氷結神冠ギヴルニア』」


 その瞬間、莫大な魔力によって身体強化が施されたレミナスは槍を滑らせ、それをいなし、その隙をついて槍で右方へと薙ぎ払う。

 力を、技術を持って対処したのだ。

 それは城の壁を突き破り、外へ放り出される。

 だが、これで終わるはずがない。

 まだ、それに刃を向けてはいないのだから……。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅがあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」


 深い唸りからの絶叫。

 その小さな器から考えられない量の魔力が放出されていることからレミナスは時間をかけてはいずれ自分が下になってしまう、と……。

 決着は短時間であれを鎮圧しなければいけない。


「ならば、力には力で――」


 まずは城から遠ざける。

 この城が建設されているのは浮遊島、その規模は城に対して八倍の広さを持つため、島の外側まで持っていき、それでだめなら……。


 これで決まりね――

 即座に作戦を立てて、城を飛び出す。


「ハァァァァァッ!!!」


 次は本気で、傷をつけるために穂先をそれに伸ばす。

 ダンッダンッと重い音が響く。攻撃を止めず、押せるところまで、いや押せる余力がある時まで全力で押す。


「――〈生命氷結〉」


「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 この近距離での生命に対して特攻を持つ権能を発動し、更に攻撃に効果を乗せる。

 それは知識を有していないため、本能という部分で行動している。

 そのため、動きは大雑把だ。

 そっちがダメなら、そっちと……この技量ならレミナスは対処でき、有効打を容易に与えられる。


 もう既に城から離れ、空まで半分以上の距離を通過した。


「強烈な一撃だよ――」


 大きな隙を見て、その腹に蹴りを入れる。防御、なんてことも知らないため、まともに受けて外へと押し出される。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッがああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」


 自分が不利、いや思い通りにならないことが気に食わないのか、それは唸るが、すぐにレミナスに向かい、地面を蹴り、上空へ舞う。


 次の瞬間、それの身の丈以上の青い石とぶつかる。

 レミナスの権能の一つ〈真蒼の光星〉であり、遠距離攻撃として優秀な性能を誇る光星に押され、遂に島の外、空へと入った。


「――〈真蒼結晶〉」


 次の権能によってそれは氷塊に包まれた。

 動き、力が一時的に停止する。


 その隙を以って、レミナスは氷塊を即座に砕き、それに槍の一撃を与える。


「食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 浮遊島から離れた二人は遥か下へと落下する。

 レミナスの槍はそれの胸部に入り、心臓部を気付けている。


「ぐああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――!!!」


 痛い、痛い、いた、い……。


 それは思い出した……いや、前の記憶の一片なのか、攻撃を加えられたことで何かが起きたのか、感情を自覚した。


 そして炎と氷は落ちていき、地面に衝突した。




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