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41話 破壊神レイム VS 大魔王エマ③



「破壊神と言ったが、やっぱり未熟。その高い殺傷能力は届くことで意味を成すけど、圧倒的な魔力で近づくことを防げば、【破壊】は意味をなさない……」


 エマの視界は大爆発によって赤と橙色に染まって視界は不良、更に瞬間火力で成した自身の魔力が大気中に満ちているため、魔力感知による位置補足の正確性が失われている。

 単純に自業自得だが、本来ならただ力を振るうだけで敵は消滅するが、彼女が敗北した理由としてこの自身の魔力によって魔力感知が阻害され、あの三代目炎の神ジルフィス・レギレスに隙を突かれ、敗北した経験がある。


 だから、分かってる――


「ッ――――」


 未だに燃焼する大気を怒涛の勢いで突っ切り、漆黒の刀身がエマの眼前で振り下ろされる。来るか、どうかなんてそれが現れるまで分からない。

 大魔王は後方へ跳び、漆黒の剣撃を回避する。

 己が丸腰であろうと一応の反射神経は備わっており、武器を持つ相手に勝利をすることはできるが、それでは自分自身が武器を持つ意味がなくなってしまう。


「其れは極光のように光り、万物を焼却する炎――」


 それは一種の詠唱、同時にエマの足下に異変が起きる。

 周囲に満ちる魔力とエマ自身からの魔力が流れ、一点に集約され、巨大な渦を発生させる。


「あれは、なに――?」


 何が起きているのか、最初は分からなかったが集約された魔力が形へと生じている光景をさっき自分がやった事と鑑みる。

 あれは神器だ――

 明確な根拠はないが、本能、いや自身がやってきたことからレイムは答えを見出す。


「それは誕生を示し、滅びを示し、己を示す――我が炎は集結し、膨張し、完成された一つの星となる――これは星が手にする刃、光のように輝き、炎のように炸裂する――」


 全身が黄金のような外見、異常なほど黄金の光が輝き、淡い炎に覆われている。魔王、いや大魔王が持つに相応しいものかと思えば、そうではない。イメージとして大魔王が持つ武器は禍々しいものだと想像してしまったが、かのエマ・ラピリオンの武器は聖剣のように輝かしい剣だった。


 その名は――


「――《太陽剣ソルリウス》」


 それは太陽の一片、太陽そのものを形にしたもの、太陽の象徴たる神器。


「行くぞ――破壊神」


 それを小さな手で柄を掴み、細い腕で持ち上げ、炎の地面から引き抜くと刀身に激しく燃え上がる炎が帯びる。エマという所有者に握られたことで役割を取り戻したのだ。


『神器』とは能力の最高の出力方法であり、唯一の武器。


 それを顕現させた大魔王は本気になったと言っていいだろう。

 お互い小さな体躯で武器を握る光景は一見、不釣り合いの様に見えるが、不思議とさまになっている。


「あぁ――大魔王」


 爆炎が広がり、視界が開かれる。

 それと同時にレイムは空中を蹴り、両翼を羽ばたかせてエマに斬りかかる。両者の剣の大きさはエマの方が少し大きい。

 彼女の体躯と比較すると大剣のようにも錯覚してしまうほどのがっしりとした剣であり、これも特徴の一つだろう。


 ほとんどの物事を力でねじ伏せることのできる大魔王の近接戦闘――突破された時の護身用、いやそもそも元々から近接戦闘を好んでいた。

 その理由として近くで相手を観察できるからだ。

 今、自分と戦っている存在の表情、感情、形を観察するという一種の意思疎通を好んでいるのだ。

 人々の悲鳴、それは苦痛から、現状という地獄から、それらを目を背けるために大抵は負の理由で絶叫は発せられる。


 それ以外は立ち向かってくる猛者だ。

 彼女の印象に残っているのは、三代目炎の神ジルフィス・レギレスが代表的だろう。同じ炎系統の力を操っていることは初見で分かったが、当時のエマはそんなに危機感なんてなかった。


 そもそも自分と同じ能力ゆえに自分に傷を与えることなんて不可能だろうと判断したが、その結果が三代目破壊神を押しのけて、ただ一人で自分と対峙し、自分の心臓を剣で貫く結果となった……油断大敵、学びはするが、それでは自分という在り方に反してしまう。


 何事にもビクビクとしていたら、魔王という風格ではなくなってしまう。

 エマは魔王として強者として、強大な存在として生を受けた。誰からにも言われることなく、己の魂が最初からそう決めていた。


 だから油断はしないが、余裕は崩さない。

 必死になるのは命の危機に陥った時だけであり、徹底的に相手を捻り潰すと……ジルフィスの一件以降は戦闘のやり方に少し改良を加え、冷酷非道を加えた。


「ふッ――」


 黄金の刀身がレイムの頭上へ迫る。


 エマの剣技はレイムのような連撃など片手で扱える容量のものではなく、常に両手で持ち、大振りするのが特徴だ。

 その大きさ、故もあるだろうが、自然とこうなっている。

 両手で扱う以上、大振りが基本となるが、攻撃力は片手で扱うより無論、威力は上がっている。

 だが、隙があるのも当然であるため、その隙を魔力放出とその一振りに素早さで補完している。


「ぐッ……」


 魔力による環境変化と身体強化によって上段の大振りを受け止めるとレイムの全身に振動が轟き、一瞬、硬直してしまうほどに威力は近接戦闘において受ければ、大きな隙を生んでしまう。


 それを理解したレイムは受けることはせず、避け、その隙を突くか、押し切ることに決めて立ち回る。

 レイムはエマの周りを颯爽と動き、剣撃を放つが、エマ自身はそこから動かない。足を肩幅くらいの位置に重力、そして地面を意識して身体を固定することで小さい体躯であろうと不動な態勢を作り、魔力感知で視界以外も正確に捉えることで全方位からの剣撃を防ぐ。

 身体の大きさという弱点を補うための方法として編み出したものであり、おまけに魔王としての威厳、風格に一致している。


「ハァァァッ!!!」


 全身の力を用いた剣先の刺突。

 だが、それを剣の腹で防がれたことで今のままでは崩れないとレイムは悟る。

 しかし不動を崩壊させる手がないわけではなく、お互いが確実な手札を一つ隠していることだ。


 それは――能力において最大の権能である世界系である。

 それ以外にも魔力によるバックアップで押し切ることもできるだろうが、確実であり、可能性が高いのは世界系を発動し、同時に神器の力を解放すればいい。

 だが、それは相手も同じである。レイムが世界系や神器を解放すれば、それに対抗かつ対処するには同じ術が一番である。


 そして切り札という位置づけであるため発動には少々時間がかかるため、どちらから早く発動することが出来れば、勝敗は上がる。


 なら――


「『破壊神冠シヴァナーダ』――」


 再度、能力を解放し、瞬発力を用いた強引な方法で魔法陣を展開し、エマに一点集中で破壊を放つ。

 それを回転しながら剣を斬ることで防ぐが、完全ではない。



「――ルークラガッ」


 もう一つの武器の名を呼ぶ。

 一つの隙が生まれたエマの背後から漆黒の槍がひとりでに動き、頭部へ――


「ぐッ――」


 それをエマはギリギリで避けたが、体勢を崩した。


 その隙を見てレイムは再び、上空へ飛び立った。




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