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39話 破壊神レイム VS 大魔王エマ①



「一つ、忠告するぞ……軽々と近づくと火傷するぞ?」


 その瞬間、熱波がレイムを、周囲を、闘技場を瞬きの間で広がる。

 熱い……。

 太陽が近い時期の温度のようにジメジメとしたものが、エマから発生し、異様な速度で既存の大気が熱気に上書きされた。


 更にその熱気は魔力を帯びている。

 自然、星から発生する大気に満ちる魔力は肉眼や魔力感知では捉えようがないものなのだが、これは塵の粒が見えるほどに魔力が含まれている。


「これは……」


「分かったか? まずは肩じゃなくて、身体慣らしだ……」


 言葉数は少ないが、レイムも馬鹿じゃない。身体慣らし、この魔力放出はその程度の加減で成した技であると……。


「なるほど……」


 レイムは《破壊剣はかいけんルークレム》を掴み、引き抜く。

 ただの身体慣らしで雰囲気と実際の大気を塗り替えるほどの魔力量と卓越された精密な魔力操作で自身より上であることを察した。

 自分の必勝法は変わらない。

 殺傷能力、火力が持ち味である【破壊】で押すのみだが、通常通りではいかないことも可能性は高いだろう。


「ッ……すぅ~」


 徐々に熱くなっていることから、さっきの身体慣らしは一時的な魔力放出ではなく、常時、魔力を広げている。

 もうエマに一手を取られている状態だ。

 ヤバい……。

 最初から本気で行くしかないだろう。


「――〈破壊の翼〉」


 漆黒の羽根、それを集約された両翼を展開する。

 神すら超える圧倒的な魔力量はレイムと似ている点だが、それをどのくらい出力でき、どうやって扱うのかが、この戦いを左右する。


「へぇ、飛べるんだ~」


「うん、行くよ――」


 少女は踏み込む。

 次の瞬間、少女は姿を消すが、一秒も経たずにエマへと距離を詰め、その剣先を敵であるエマに触れる。


「えッ――」


 急激に温度が上がり、大地が赤く染まる。

 それは自他の血液ではなく、赤く熱く、ドロドロとした超高熱によって溶解された大地だった。


 そして激しく噴き出し、エマとレイムを飲み込んだ。


「ぐッ――」


 反射的に魔力放出で身体を覆い、上空へ飛び立つ。

 一瞬にして大地を溶解させ、流体化させた物質を操るのが“大魔王”エマ・ラピリオンの初歩的な攻撃方法なのだろう。

 レイムは無事に状況に飛び上がる。


「熱ッ……痛ッ――」


 反射的に魔力を放出して身を守ったが、マグマに飲み込まれたタイミングだったため無傷とは言わない。

 軽い火傷だったが、その燃焼力は意外にも強い。

 あの紅蓮の炎が触れた瞬間、対象に燃え移り、構成されている全てを燃やし、存在の形を崩壊させる。

 それに関しては【破壊】の本質に似通っているが、そこにエマの実力が至っているということでもある。


「――『破壊神冠シヴァナーダ』ッ!!!」


 能力を解放し、パスを広げ、魔法陣を展開する。全力で魔力を流し、最大出力の三層構成の魔法陣を回転させ、放つ。

 いかに大地を溶解した質量のある炎を操ろうとそちらも無傷では済まないだろう。

 大気を殺し、強力な魔力を放つ破壊の魔弾が接近する。


「〈真紅結晶〉――」


 今の状態では不安だと感じたエマは全方向から覆いかぶせるようにマグマを操り、権能を発動する。

 するとレイムが放った破壊の魔弾はエマの権能で結晶化された壁に防がれたが、一撃目で全体に亀裂が入り、数発後の破壊の魔弾によって〈真紅結晶〉の防御が砕け、突破された。


「ぐッ、あははははははははッ――――!!!」


 久方の痛みが嬉しくて思わず、大きな笑いが噴き出る。


「――『紅蓮神冠グラグレン』ッ――」


 レイムに続いてエマも『能力』を解放する。

 周囲に存在した魔力量がエマから発生した魔力によって奔流のように押し流され、熱波が広がり、周囲の森林はたちまち燃え上がる。

 この魔力出力は現時点で全力のレイムと同程度であった。

 レイムの魔力保有量はそれを凌駕するが、魔力の最大出力に関してはレイムが劣っているのは事実である。


 恐らくだが、元々レイムのように魔力保有量が多く、戦闘の中で出力の限界を上げていったのだろう。

 それでもレイムは一瞬、臆したが勝利するために考える。

 戦いの中で相手より魔力の最大出力が劣っていようと一つの欠点だけで勝敗が決まるなんてことはない、レイムだからこそ勝利する可能性は引き上がる。


 まず、『魔力出力量』=『威力』というイメージは単純な魔力をぶつけたことで成り立つ法則であるが、能力を保有するものなら、『魔力』というものはエネルギー源として扱う。

 単純に表すならエネルギー源である『魔力』+【破壊】という性質を持った『能力』を合わせることで『能力』は外界に顕現する仕組みであり、これは初歩的なのだ。


 つまり勝敗を左右するのは魔力の保有量および出力量、戦闘経験の多さ、そして能力が備える性質を加味した上と存在の個体差によって最終的に勝負は決まる。


「これこそ試練って呼べるな――」


 相手が強大だからこそ、ワクワク感とやる気が湧き上がる。

 まず、レイムが取った行動は集中砲火。上空からの絨毯爆撃であり、膨大な魔力保有量に依存せず、効率よく運用するために魔法陣を三層に重ねる。

 一層目は装填された魔力を加速させて限界まで魔力の密度を大きくし、威力を上げる。

 二層目は強引に小さく詰め込んだ魔弾を一時的に維持する。

 三層目は標準を合わせて射出する。


 その三工程を数秒で完了させて瞬間的威力を用いる。大きさはレイムが両手で抱えるほどのものであるが、当たれば大地を粉砕し、あらゆる防御を穿つ。

 本人でもまともに命中すれば、通常の防御力を何倍にもしなければ、致命傷を負ってしまうほどだ。


「よし、このまま――」


 そんなに時間はかからないだろうが、様子見をする。


「いいだろう。敵を穿て――〈真紅の光星〉」


 その呼声に大地が赤く光、小さな星がマグマから打ち上がり、レイムと攻撃と同等の攻撃速度で上空へ昇る。


 それは炎を物質化した宝石である〈真紅結晶〉の集約した小さき星。

 レイムの威力向上のために三層を用いたものと似たようにその内部に詰めに詰め込んだレイムの身長を超える大きさの赤き星が接近する。


 その軌道を縦横無尽に変え、レイムに物理攻撃を仕掛けた。


「ぐあッ――」


 重い、また重いものが横方向から突っ込んできて、レイムは吹っ飛ばされた。


 まただ……。

 また、やってしまった……。




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