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38話 頂点の目覚め



 ざらざらと時の流れから石造りの石が綻び、足裏にチクチクと伝わっている。

 唯一の入り口である階段を上がり切ると異様な光景が広がっていた。


「何か、黒い。焦げた?」


「まぁ、戦場だからね。あの子、エマ・ラピリオンの戦場の後と言えば、納得する光景だよ」


 レイムはしゃがみ込み、肌色に近い石造りだったものをじっくり見えると匂いなんてもうしないが、焦げた後だということが分かった。


「君も聞いたことはあるだろう。最古の魔王の一人、第一位“大魔王”エマ・ラピリオンが操る力が紅蓮の炎だ、ということを……」


 そう、ここは戦場であり、同時に幾千の生命が焼却された現場なのだ。


 そして闘技場の中央。

 通常は地面と同じ高さなのだろうが、入り口が塞がっていたことを踏まえると扉のない高い入り口が塞がるほどに何かで埋め尽くされており、高さが上がっている異様な地形に注目するが、この場所で最も目を引くものは焼け焦げた玉座に座る影、いや少女の石像があった。


「あれが、今現在の“大魔王”だ」


「え、うそ!? あれが!!」


 驚きのあまり声を上げる。

 少女の石像、外見年齢はレイムより幼く、髪は長く、衣類を一切纏っていない。


「あの姿はエマが自身に封印を施した状態……あれが挫折を表しだ。一時的に、ではあるけど、自分の生命活動を仮死状態にしたんだ。つまり生命活動をしていても意味がないと、判断したんだ」


「……それ、ほど?」


「あぁ、実際に見たら、その重みが少しでもわかるだろう? でも、あの子の気持ちは君の行いで決まる……さぁ、準備が出来たなら、階段を降りて中央に行きなさい!!」


 レジナインは道を示した。

 その後の展開はレイム・レギレス次第で事の結果は大きく変わってくる。

 それは何となくでも理解はしている。


 それに……


「うん――」


 もう後戻りなんてできない。

 その足で進んだ距離は戻れるが、その足で進んだ事象を戻すことはできない。

 それはもう既に決定された。

 本人の意思がなくとも、常時、記録が記されている。


 そして淡々と意外にも足取りは軽く、観客席を降りて中央の戦場へとレイムは辿り着く。


「エマ……エマ・ラピリオン――」


『あぁ、そうだ。それが私の名だ。だが、すまないな。仮死状態であるが故に会話が低次元なものになってしまっているから、少し待て――』


 少女の石像は口を動かすはなく、そこから当人であろう声が聞こえる。


 その瞬間、石像に亀裂が入る。

 バキバキッと硬いものが破壊され、崩れる音とともに石の皮が剥がれる。石像という生命以外の物質から生物へと変化している。

 どのようにして仮死状態にしていたのか、不明だが、少女の石像は紛れもない少女の元に戻り、瞼を開ける。


 それは黄金の如き輝きを放つ瞳、小柄すぎる身体、モサモサとした真紅の長髪。


「ふぅ~…………」


 溜め込んだものを吐き、外界の空気を吸う。

 自分より容姿は低く、十歳くらいだと想定される外見だが、その存在の圧なのか生物として再び、動き出した彼女を前にして自分の足が竦んでいることを自覚する。


「改めまして、私こそが……おっと――」


 自分が衣類を纏っていないことに気付き、パチンと指を鳴らした。


 すると炎が彼女の身を包み、衣類へと変化する。

 彼女が纏うのは袖がないドレスだが、丈が短く、太ももが見えている。レイムのように肌の上にはそれだけであるが、“大魔王”と違うのはその上に羽織る赤を基調とした豪華なマントだ。


 その丈は足下の少し上の高さであり、それは戦闘時に邪魔にならないようにしている。

 権威、というか威厳というか……。

 何であろうと自分自身という存在の象徴を形にしたものであり、更に頭上には燃え上がる王冠が浮遊している。


「凄い、豪華!!」


「あぁ、見た目は大事だとレジナインからの助言で。“大魔王”を宣言する時に新調したものなんだ!!」


 たしかに見た目は栄える。

 それこそが世界最強の一角を一個体で担う彼女に相応しいものだ。


「さぁ、早速、始めたいが……一つ、聞かせてくれ」


「ん、なに?」


「お前の目的を知りたい。やりたいことでもいい。私に聞かせてくれ!!」


“大魔王”エマ・ラピリオンはこの計画を立案者であるレジナイン・オーディンから聞いたが、レイムがこの計画に乗った理由は知らされていない。

 恐らく身内、仲間であっても会話するのはごくわずかであったのだろう。

 そんなことを思い、レイムは一つ考えた。

 彼女の目的は“良い行いをしたい”というものであり、悪側に位置する魔王である彼女が納得するのか、どうかだ。

 そう、今になってレジナインに嵌められたのではないかと錯覚してしまうが……。


 でも、ここで考えても分からないものは分からないだろう。


 鋭い視線を向けられたレイムは警戒しながら、答える。



「私は、この力を良いことに使いたい。そのためにあなた達と組んで、悪であるレオン・レギレスを倒す――」


「なるほど……分かった。もし、お前が勝ったら、我々はお前について行こう。その過程でそれが行いであったとしても、お互いを認め、仲間になると約束しよう!!」


「え……わ、わかった……」


 エマは異論などしなかった。

 予想外であったが、その言葉には嘘など微塵も存在していないことは理解できる。

 それが彼女、エマ・ラピリオンが考え至った、一つの答えなのだろう。


「さぁ、戦おうか……五代目破壊神レイム・レギレス――」


「……あぁ、やろう――」


 初対面な二人は少ない会話だけでお互い納得し、遂に世界最強の一角を担う二人による戦いが始まる。




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