37話 最強の敗北
「レイム様!! ジュウロウ!!」
二人は無事に破壊の領域、玉座の間へと転移した。
ワーレストの種族、機人種の高度な技術力によって全世界を観測可能であるため、観測重要対象である主のレイムの居場所が常時、確認できる状態だったが、地上へ降下した途中で反応が消えたようだ。
恐らくは四代目破壊神アレン・レギレスが創り出した空間が観測の方法である電子の糸、或いは目を阻害したのだろう。
そしてレイムとジュウロウは『アレン・レギレス』について皆に話した。
「なるほど……そんなことが……」
「まさかの四代目か。面白いことになってきたが、君の試練はまだ残っているぞ。あの勇者達が奮闘している今、君も試練に向かう時だ」
もう普通に玉座の間に存在しているレジナイン・オーディンがレイムに催促する。
「え、この状況で?」
この状況はもう既に観測で認知しているワーレストがレジナインに異議を唱える。
「あぁ、世界崩壊以外の状態なら進めるべきだ。それにこの状況は我々の標的の仕業、なら同盟を先に成立した方がいいに決まっているだろう?」
「それもそうだが、悪化する可能性だって」
「だから催促しているんだ。この領域に侵入する前に妨害するか、しかし距離を考えれば、天使か、神々くらいしか進行はまずできないだろう。後は、偽物の魔王軍の進行などかな……?」
天才、レジナイン・オーディンはこれから起きることを言葉で示す。
確かにどれも可能性として起こり得る事態であり、論理的に話すレジナインの証言は何一つ間違ったことは言っていない。
「分かった。ワーレスト、心配なのはわかるけど、進むしかない。間違いを修正することも大事だけど、まずは後ろから迫ってくる何かに飲み込まれないようにしないと……」
機械と人の融合、とも表せられる種族。
無機物でありながら、有機物に寄せられた存在、魂は存在している機械生命体、論理的に考え、予測を高確率で予測できるが、知性を持つ生命体として感情を獲得している。
理性的に行動するか、感情的に行動するか、個体によって様々だが、最初の機械生命体であり、種族の代表個体であるワーレストは長年生きていく中で感情的に傾いている。
しかしそれが悪いなんてことは絶対にない。
万能でもないのだから、時には冷静さを欠いてしまうことがあるからこそ、仲間がそれを補助する。
レイムはそれに従って大人であるワーレストを補助したのだ。
「レイム様、ありがとうございます。冷静さを欠いて申し訳ありません……レイム様、成長しましたね」
ワーレストは深く頭を下げて、主に自身の不手際を謝罪し、主として配下を正すという行動に明らかな成長を感じている。
「い、いや、え~と、間違いは誰だってある……これも皆が教えてくれたことをだから、それを真似しただけだよ」
「ふふ、よくできていましたよ」
そう、間違いを正す言葉は厳しい訓練の中や間違ったことをした時に、この場にいる最破の皆から教えてくれた言葉だ。
それを正当に扱えたことと褒められたことで顔を赤くする。
「では、準備が出来たなら、近くに寄るんだ」
「早くしろって言うけど、今は何も言わないんだね?」
確かにそれはそうだが……。
「ん、空気は読めるぞ。馬鹿にしないでほしいな。催促はするが、良好関係を築くために私は努力しているつもりだからな。さて、転移続きで済まないが、天空へ移動するぞ」
それはまだ『子供』であるレイムには分からないだろう『大人』の配慮というものだ。
「うん。望むところだ!!」
今更、身を引くことなんてなく、強く足を踏み、レジナインに近寄った瞬間、二人は白い光に包まれた。
現在、ソージ、ソピア、サリアは氷結の大陸で最古の魔王の一人、第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスと戦闘中。
そしてこれからレイムは最古の魔王の最後の一人と対峙する。序列は第一位、世界最強の一角を一人で担うことが可能な最強の戦闘能力を持つ存在。
魔王の代表的存在。
神々の天敵。
「うぅ……ここは?」
すぐ後ろは青い空、そして前方は廃墟の一部。
「天使の場所と似てる……」
乱れている石畳、大通りの左右に朽ちた石柱。
レジナインが先に歩き出し、レイムも彼女の隣に歩く。
「あぁ、文明の一つ前のような景色だろう。実際にそうだ。この世界の争いと言えば、世界大戦が一番の印象に残っているだろうが、それ以下の争いなんて世界中で起こっている。ここはかつて闘技場とは名ばかりの大魔王専用の戦場だったんだ」
「だから何もないの?」
「あぁ、戦いがメインの場所だからな。その広さは最小の領域と呼ばれている君の領域の半分はあるだろう」
「へぇ~」
それが些細な皮肉とは知らず、広さに関しては興味ないレイムは適当に反応しながら、周囲を見ている。
その反応に対してレジナインは意図的ではなく、純粋に反応していることで自分の皮肉が効いていないことを察し、ため息をつく。
「その闘技場はまだあの子が“大魔王”と名乗る前に建設して空の支配権の争いから天使やあえて転移で地上と繋いで地上の種族を送り込んで、一対多数の戦闘をしていたが、それで負けることなんてなかった」
「凄い、それが第一位の――」
「いやこれはまだ序盤だ。世界征服を決めた直前の話だからな。そして種族の強者、そして神々が戦場に出て、それでもあの子は一人で押されることはなかった。単純なパワーなら、私でも敵わない」
「……」
「そして自分の実力を知り、“大魔王”と名乗り、一度の敗北として三代目炎の神ジルフィス・レギレスに敗れて落ち込んだが、あの大戦で立ち直ったんだが……あの大戦後、二度目の敗北で挫折感を深く味わったんだ……我々は長寿の生き物だ。この命が自然消滅する時は文明、時代を複数渡るほどの時間を有する。その時間の中で知性体として悩み、苦悩することなんて当たり前、だが生涯の総数に比例して悩む時間は人間の何倍も費やすことになる……」
「何百年も……?」
「あぁ、あの子の人格、人生の多くが『争い』で構築されている。だから『争い』という要素がなくなってしまえば、『あの子』としての形が崩れてしまうんだ。何となく、分かるかな?」
「うん。何となく……今もその状態なの?」
「いいや。私がこの話、計画を提案した時にあの子は笑顔を見せたんだ。つまりこの計画に自分を取り戻す可能性があると理解したんだ。その具体的なものはなんだと思う?」
人差し指を口元に添えて質問する。
「……私というわけね」
「そういうこと。最強の存在は何より最強の存在と戦いたい。その存在としてあの時も今も『破壊神』ということなんだ」
今までの話で大雑把だが、“大魔王”の事が分かってきた。
これから戦う相手、試練を突破するための障害。
「さて、これは闘技場だ!!」
「え……デカッ!!」
ざっと破壊の城の半分の全長に観客席に続く階段、戦場の道。全てが石造りであるが、その派手さは大魔王が使用する闘技場に相応しいものだ。
「諸事情で一階は塞がっているから二階から行こう」
確かに一階の入り口は石で塞がっているため、レジナインとレイムは外から繋がる階段を上がって戦場を目指す。




