36話 漆黒の真実
「意外な反応ですね」
「はい。そんなことは考えていなかった、から……」
ただ予想外だった。
そんな『真実』があったことにレイムは拍子抜けしてしまった。
「裏切った理由は分かりました。今、レオン・レギレスはどこにいるのですか?」
「それは分からない。同一人物は普通なら『補助』である自分は起源である『本体』に接続しているはずだが、レオンと僕の間には何もない。魔力感知で動きをある程度追跡できるが、正直、この世界から抜け出しているようなんだ」
「何?」
「この世界から?」
また混乱するような内容に二人はつい言葉にする。
「この世界、その外側には星海が広がっていると……物理的な距離は離れてはいるが、世界の構図は無限に広がっている。つまりこの世界とは別世界が存在している」
それは多次元世界説と呼ばれている。
見たことはないが、この宇宙にこの世界一つだけだとは考えにくいことからそう提唱され、それを証明しようとしている。
「この世界の文明レベルなら、あと数千年はかかるでしょうが、“知識の魔王”がもう既に次元の壁を観測したのは知っています。ですが、あの天才でも次元を超えることが出来なかった。それがただの失敗なのか、誰かが妨害したのか……僕はこの本達も用いて大規模な観測を行っているが、次元の壁が硬すぎる。それは時間の経過とともに強まっていった。約三千年前からこの世界の外側が変化したことは確かだ」
アレンは彼なりに考察していた。
この空間に存在する本を演算装置として大規模の術式を組み立て、世界全体をバレないように観測している。
「二つの変化、それに関連して大戦の終盤の出来事……レオン・レギレスとレシア・レギレスとの戦いの中でレシアがレオンを押し切り、勝利する直前、次元が割れ、そこから這い出てきた何者かによって横槍を入れられた。結果、レシア・レギレスは致命傷を受け、レオン・レギレスは逃亡した」
誰も知らないのに等しい出来事。
「あの時はこのような場所を所有していなかったゆえ疑心暗鬼になったが、今なら言える。自分の考察は核心に変わった瞬間だ。確実に外の世界から干渉してきた存在、つまり別世界の証明が三千年前になされた」
あの時のアレン・レギレスはまだ曖昧な存在だった。
異常を起こし、同族を裏切り、レオン・レギレスという存在はレオン・レギレスという『本体』とアレン・レギレスという『補助』に分かれた。
『本体』の一部である『補助』は分かられる前までの記憶を保有しており、『補助』であるアレンは『本体』を『補助』をするが、その方向性は正しいものへと修正するが、手遅れなら『本体』を打倒するなど安全装置としての役割を全うする。
「僕の目的はレオン・レギレスの打倒だ。最後に君と話したかった。本当の神である君にこの後を託したい。君は成すべきことをして、僕はレオン・レギレスを炙り出す。確実に奴は姿を現すだろう」
彼には確証があった。
レイムとジュウロウは彼の『最後』という言葉からある程度の事は予想ができる。
「死ぬ、つもりですか?」
「どっちにしろ僕は死ぬ運命だ。僕はレオン・レギレスでもある。なら、君がレオンを打倒するなら、僕も『本体』と同じ運命になるのは当然だろう。僕はレオンをおびき寄せる。向こうは僕の存在に気付いているか分からないが、レオンは力をつけるために同族であり、同じ力を持つ破壊神に固執している。だが、君は君のすべきことをすればいい」
「分かりました。それに、ありがとうございます。私達を助けてくれて」
そういえば、とレイムはここに来た理由である剣聖と弓聖の攻撃から助けてくれたことを感謝する。
それにアレンは少し目線をずらして照れているようだ。
「いいや……僕と君、どちらかを優先するとしたら君だ。君はどこか、特別に感じている。それはジュウロウ・ハリアート、君も同じじゃないかな? 忠誠以前に生物、生命として彼女はどこか興味を引く、一種の魅了の域に達している」
「まぁ……それは同意だが……」
「あと、レオンの勢力についてだが……。世界各地に出現している架空の魔王軍、それを考えるなら、想定される戦力は互角と見た方がいいだろう。レオンに何かが関係、協力していることは確実ですから」
「その勢力って……?」
確かに気になる。
だが……。
「すまないが、僕にも分からない。だが、協力しているということはレオンと何かしらの共通点を持っていると推察して……悪の勢力だろう」
「悪……外の世界にも存在するんですね」
「うん……不思議に思えるだろうが、何も不思議なことじゃない。敵はハッキリとしていないが、君達が行おうとしていること、同盟が成功すれば、戦力として安心するだろう」
「そうですね。そのためにも……」
「じゃあ話はこのくらいにしようか。帰路は僕が君の領域に転移させよう」
アレン・レギレスは立ち上がり、本の山に目を向ける。
最後ということは自分自身が理解している……だが、命として成立してしまった以上、生命を簡単に手放すことなんてできない。
だからこそ、だろうか。
自分の『本体』を正す、手遅れであるから消滅させようとする『補助』の役割を全うする直前、少し自分という存在が消えることに躊躇いがあることを自覚する。
しかしそれを抑えて、自分の役割を全うすることこそに自分の存在意義、意味がある。
「アレン・レギレスさん。改めてありがとうございます!!」
レイムは立ち上がり、お辞儀をする。
彼女の人生で初めて出会った同族で同じ力を持つ存在である破壊神、だがその存在は正式なものではなかったが、肉親としては良い人物だ。
「いいや、繰り返すが君の方がこんな僕よりずっと貴重だ。だから君を守るのは当然のこと……そう、これは当然のことだ。だから最後に君に会えてよかったよ。正当なる【破壊】の後継者……こちらこそ、ありがとう――」
アレンはレイムに手を伸ばす。
それは『補助』であるアレン・レギレスの人生にとっての帰路である。
最後の最後で正当なる後継者に出会い、自分の計画の根幹であるレオンの打倒を託す。
「はい、その願い……私に任せてください!!」
その言葉を聞いてアレンは転移魔法を展開する。知人が願ったこと、配下が願ったこと、神々が願ったこと、世界が願ったこと……。
それは悪の根絶。
絶対悪と定められたレオン・レギレスを倒すために彼女は決意した。
「絶対に間違いを正して見せます!!」
「ふッ……ありがとう――」
最後に見えたのは四代目破壊神アレン・レギレスの笑顔だった。
レイムの言葉で彼の人生は報われた。
そして状況は大きく動き出す。
これにて『第二章 世界波乱編』は終了です。
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