35話 漆黒の邂逅
「四代目破壊神……?」
「アレン・レギレス……」
ジュウロウとレイムは呟く。
【破壊】の力が存在していることから事態の元凶である二代目破壊神レオン・レギレスだろうと予想していたが、存在が不可解であった四代目が姿を現したのだ。
「お前が……」
ジュウロウの警戒度は限界に届いた。
確かに今の状況で破壊神という存在は限られている。初代、二代目、三代目、四代目、五代目という五人の内、既に消滅した初代と三代目を除くと二代目であるレオンと五代目であるレイムの他に一人が存在することは予想できるが、彼という存在を神々は正確に認知していない。
では、彼の前に、なぜレイムが四代目とならないのか……。
これは継承の仕組みが個体による代替わりというわけではなく、現在第四神歴と呼ばれているように『時代』によって何代目と呼称されている。
条件として血を継ぎ、継承される力が宿っているか、領域管理に向いている個体を次世代の子供たちから選ばれる。
何代目という呼称はその『時代』を担う継承者の証であるのだ。
そして現在、第四神歴から新時代となる第五神暦に移れば、五代目が世界管理を担当する。
「レギレスの思想から代決めは『個人』ではなく、『時代』に合わせている。なら、私は四代目に当てはまるだろう。まぁ、仮だが……」
「お前が俺達を助けたのか?」
「あぁ、そうだ。それで敵ではないことは分かってくれたかな?」
「……どうしますか、レイム様?」
ジュウロウは警戒したままレイムに問い掛ける。
レイム自身、同じ力が存在していることは直観と力の感覚で薄々分かってはいたが、ソージが話したことで今では驚きはしない。
「話を聞いてみよう。それからでも遅くはないよ」
レイムの直感は危険じゃないと判断する。
まぁ、ソージの話で危険人物ではないと分かってはいたが……。
「まず僕は正式な神ではない。それは生まれた時から自分は不完全な存在であることを自覚した……そして私は自分の存在意義、目的を知った」
「それは、なんですか?」
「……君と同じだ。同族、役割から外れた存在である二代目破壊神レオン・レギレスの打倒だ」
「レイム様、四代目に一つ質問しても?」
ジュウロウがアレンに質問することをレイムは頷いて承諾する。
「正式な神ではない、という理由を具体的に説明してくれ」
「あぁ、明かしておくのが話し合いがしやすいし、自分自身の疑いを少しは晴らせるだろう」
四代目破壊神アレン・レギレスは暗い顔を浮かべたが、すぐにレイムとジュウロウに真っ直ぐとした表情を浮かべて口を開いた。
「――僕は、レオン・レギレスの半身と呼べる存在、つまり彼と同一人物と言えます」
一瞬、悪寒がした。
それは予想外すぎるものだった。二人の思考は把握しようと回転しているが、状況に追いついていけず、状況把握が不能になるほど衝撃的な事実だ。
少しの間の後、最初に口を開いたのはジュウロウだった。
彼は予想外であったが、状況を把握して刀を握り、引き抜く。
「じゅ、ジュウロウッ!!!」
何をしているのか、と戸惑ったがレイムは察してジュウロウを止める。
この事実まで同族である破壊神というだけでジュウロウは警戒していたが、アレンが明かしたレオン・レギレスの半身という事実で更に警戒心に拍車がかかったのだ。
レオン・レギレスの半身。
その意味はレオンの一部であること、アレンが述べた通り、同一人物ということだ。
「驚くのも無理もない。だが、この事実を明かさなければ余計に疑われてしまう。明かしたことで僕は君達の仲間であると証明したかった。だから警戒を解いてくれ」
衝撃的な事実でジュウロウも良心を欠いていたことに気付き、戦闘態勢を解除する。
一度、冷静に内心を整理し、本を積み重ねたものを椅子としてアレンは用意し、三人は座って話し合う。
半身の意味は物理的な意味であり、本当にレオン・レギレスから生まれた存在。
だがこれは親となる生命から誕生する生殖とは違い、自分自身の生命、その根底に存在する『魂』を切り分けて生み出した同一人物である。
「『魂』を切り分けることは神であろうと何であろうと不可能な行い、しかし僕は生まれた。彼の間違いを正すために……」
「なぜ、誕生したのですか?」
「あの時……レオン・レギレスという存在が魂レベルで変化したから、安全装置として……レイム、破壊神典を知っているか?」
「……いいえ。それは何ですか?」
「あれは初代が残した産物、この世界を創造した六人がそれぞれ記した書物である分厚い本だ」
神典、その存在をレイムが知らないのは当然だ。
あれは領域管理を引き継ぐことと同じようにレギレス家に受け継がれているであろう書物。
曰く、その内容はその力に関して、その力でより良い世界を作り上げることが記されている。
曰く、後半は読めず、それを解読すれば、高次の域へと到達することができる。
「その本は神界より遥か上、世界の天井に位置する宮殿に保管されていた。二代目が領域を離れて三代目に継承された時期。レオンは一つの本に引き寄せられるように本棚の前に立ち寄った。そして漆黒の分厚い本を手に取り、開いた瞬間――」
その瞬間、レオン・レギレスの『魂』は影響し、変化した。
何かが彼の『魂』に干渉したのだ。今になってもアレンは何も分かっていないが、一つは言える。
あの干渉は偶然などではなく、意図的なものということは絶対だ。
なぜなら他の神典には『魂』レベルで変化を及ぼすような仕組みなんてなかった。
これが偶然なら、六つの中で破壊神典だけ異様な仕組みを取り入れたことに何か意味があったのか……それでは不自然過ぎる。
自然に推察するなら、偶然ではなく、破壊神典を狙った何者かによって……それが初代なのか分からない。
でも……確かなのは一つだけある。
あの瞬間、二代目破壊神レオン・レギレスは異常を起こした。他の二代目と変わらない存在だったはずが、正常だったが、異常と化した。
「そう、それが原因でレオンは同族を裏切ることとなった――」
「そ、そうなんですか……」
レイム・レギレスは思ったより感情は動かなかった。
自分の境遇の原因となった事だから、激高するのかと考えてはいたが、そんなことはなく、ただレイムは真実を受け止めた。




