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34話 異様空間の主



「ん…………え?」


 強い衝撃で反射的に瞼を瞑り、治まった後に目を開けるとそこは予想外すぎる空間、景色だった。

 室内だ。

 それも広大な空間……。


「おっと……」


 レイムは空中に浮いている自分を床へ降ろす。ジュウロウは既に降りており、異様な周囲に警戒している。


「レイム様……この空間、物理的なものではないようです」


「うん。分かる」


 この空間を構築しているものはレイムが住んでいる居城に似ている感覚を感じる。

 似ている、とレイムは認識したが、既存空間の原型を歪ませ、規模を拡大する手法を白の内部に施した力であることには変わりないが、それを成している要素が完全には一致していないため、似ていると判断した。


 そしてその手法を発動するのは空間系の能力を所持している他、自身の力で空間を掌握する技量の存在以外は出来ない。

 この世界なら神々、最古の魔王クラスだろうが、空間の端が遠くであり、肉眼で明確に確認できないほどの広さは高い技量の持ち主が発生させたか、自然に広がった、かの二つが予想できる。


 今の状況を見るに光の攻撃から助けられた、と考えてよいだろう。


「この空間って……図書館?」


 辺りを見渡すと高すぎる本棚が空間の全てに陳列され、その全ての書物が詰められている。

 天井は夜空を塗ったように広がっているが、本物ではないだろう。


 そしてこの不思議な空間を見渡すためにレイムは歩き出す。

 破壊神の居城にも知識を治めている図書館はあったが、この規模は誰も見たことはないだろう。

 道なりに進み、本棚につき当たる。


「これ、全部、本物?」


 目についた書物を本棚から引き抜き、パラパラとページを流す。

 だが、奇怪な記号がぎっしりと記されているが、一つも読めるものがない。意味があるのか、どこの言葉なのか……。


「どこの種族の言葉にも当てはまらないですね」


 古代から現在にかけて言葉は変化している。

 例えば、竜は言葉というものを発さなかった時期があるが、それは初期の初期であり、機人種との良好的関係によって言葉が伝わった。

 エルフの場合は魔法の開発を一早く行い、現在では古代魔法と呼ばれている文字を開発している。

 古代という定義は二代目が管理していた頃の時代だ。

 レイムは何か意味があるのではないかと深入りしようとしたが、個人的な性質から目眩がしてきた。


「でも……いや、頭が痛くなってきた」


「じゃあ、やめた方がいいですね。それよりもこの魔力の流れ、意図的ですよね」


「うん……隠されているというか……こんな異様な空間に普通の魔力が流れていることがおかしい」


 身体を動かすように魔力操作を可能とする生命体であるレイムにも些細な違和感を抱いている。

『異様』な空間には『異様』な力が存在している。『破壊』の空間には『破壊』の力が存在しているように当たり前の法則の一つだ。


 その当たり前の法則に当てはまらない事態は自然的なのか、意図的なのかの違いだろうが、判断材料である事態の異常性からある程度の判断は可能である。


「これは自然と言われるほど不自然になりますね」


「ジュウロウ、道分かる?」


「先頭は任せてください」


 ジュウロウは常時警戒態勢を保ちながら、レイムの前を歩く。


「あの事態を抜けられたのが、意図的なのか……」


「助けてくれた……でも、あの時で私を助けてくれた人って限られてくるよね?」


「はい。世界全体に轟いた声……洗脳系なら本当に限られてきますね。可能性として自分達の陣営か、最古の魔王陣営か、王家の神々陣営などが挙げられますが……」


 ジュウロウは自分の考えを話す。

 まず自分達の陣営ならすぐにわかる。

 この風景は図書館に似ているが、既存の空間をいじることは主である破壊神の承諾がなければ、基本的に禁止であり、図書館を改造した覚えはない。


 最古の魔王陣営、五人の中で可能性が高いのがレジナインだろう。彼女以外の三人はそれぞれ特徴的な支配領域を持っており、図書館というものは知識を保管する場所であるため、“知識の魔王”レジナイン・オーディンの可能性はあるが、ならすぐに接触してくるだろうが、それもない。

 裏切りと一瞬過ったが、彼女と本気で対峙したジュウロウはある程度の性格構造を理解している。

 天才であり、魔王として意地悪、性格の悪さがあるが、大戦時にジュウロウとの死闘を繰り広げている際は余裕の表情は完全に剥がれていたため、真面目な時は真面目だとジュウロウは考える。


 王家の神々陣営、救助した先が神界の王家の領域である宮殿のどこかと思ったが、この大図書館の用途が分からない。

 これもレジナインと同じようだが、状況説明のために神々の誰かが接触するだろうが、ない。


「恐らくは三つの可能性は皆無に等しいでしょう。それ以外でこの空間を実現できる存在は……」


 実のところジュウロウは自分で考えた考察、有力候補である三つの陣営の可能性が著しく低いことは明白であるため、では本当は誰なのかわかっていない。


「ん~……」


 ジュウロウは真剣に考え、レイムは軽く考えながら道なりに歩いている。

 また曲がり、真っ直ぐ進む。

 また曲がり、長い間、真っ直ぐ進む。

 正直、長ったらしくレイムは序盤からため息をつき、長い道に関しても流石にジュウロウもため息をつく。


「嫌がらせか?」


「絶対にそう、なにここ? 実は意図なんてないんじゃ……自然と発生したとか」


「その辺りは分かりませんね。自然発生であろうと要因が必ずあります。物理的空間であることは絶対なく、何らかの要因によって空間が捻じ曲がったのか……まぁ、どっちにしろ出口を探すしかないです」


 図書館の景色がレイムの目に慣れていた時、本棚の前に平積みになっている本の山がちらちらと現れ始めた。

 道のりの長さはエレクシアの入り口から光の城まで五百メートルはあっただろう。

 本棚から溢れている本が見えた辺りから埃の匂いが強くなってきた。


「色んな魔力で覆い隠されているみたい……」


 今までの道に分かれ道はなく、一本道だ。

 奥へ進むほど異様空間に合わない魔力が濃くなり、その詳細がわかるようになってきた。

【風】【炎】【水】【闇】【光】【破壊】……色んな魔力を混ぜ合わせたものであり、絡み方から時間は大分経っているだろう。


「ん、【破壊】って誰でも使えないはずじゃあ……」


 自分がいつも行使している【破壊】が存在しているのが当たり前だからこそ、違和感に気付くのが遅れてしまった。


「ッ……なら、ここは!!」


 ジュウロウは警戒度を上げる。

 今までジュウロウがその姿を目にしたのは三千年前『レギリオン大戦』の終盤、大戦勃発の元凶である二代目破壊神レオン・レギレスだろうという可能性が出てきたのだ。


「レイム様、ご判断を」


「行こう。進むしか道はないから」


 そう述べたレイムに従い、ジュウロウは刀に手をかけて先を進んで行く。


 そしてその先で景色は変化した。

 そこは行き止まりである最奥の空間、相変わらず本棚に囲まれた空間だが、目を引くものとして空間の中央、乱雑に積み重なったもの本の山だ。


 だがジュウロウは一目見て、この本の山を理解した。


「なるほど、この本の一つ一つに微量だが魔力が存在し、この空間を成し得ているみたいです。そしてこの本の山はこの空間を保つための要の役割を担っている」


「そうゆうことか……」


 魔力の流れからここが空間の中心であり、この空間を構成している景色の理由が判明した。


 次の瞬間――


「流石、破壊神の最初の眷属にして最強の右腕、安心感が凄まじいな――」


 自分達以外の生命の気配を感じなかったため、二人はビクンと驚き、全方位に意識を向け、戦闘開始寸前の戦闘態勢を取る。


「だれ?」


 レイムが言葉を投げかける。


 そして本の山の裏から出てきたのは黒髪に黒装束を纏い、漆黒の杖をつく青年。


「僕は、君のように正当なものではないが、先代の枠に当てはまった存在、四代目破壊神アレン・レギレスだ。会えて嬉しいよ。数少ない同胞にして願いを叶える者、五代目破壊神レイム・レギレス――」




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