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33話 氷結芸術造物



 自分はなんのために生まれたのか。

 最古の魔王はどうやって生まれたのか、別に自然発生したわけではなく、種族のように親となる生命から生まれた、と思うのだが……。

 正確には力に命を与えられた。

 そう、彼女たちは自分の成り立ちなんて既に認知している。


 元々、生みの親である存在が五つの力を持っていた。

 それに新たな命を宿して、最古の魔王が生まれた。レミナス・グラシアスという名前を与えられた存在は四番目に生まれた。

 自分の中にあったのは【氷結】という自分の力と『支配』という欲だった。


 他に何があったのか、と聞かれたら、妹と……そして使命みたいな世界征服という目標くらいだ。

 モヤモヤの原因は自分には新しいものが何もなかったということだ。世界征服という目的には五人が賛同したが、何回目の会議でそれが本当に本心なのか、分からなくなってきた。


 確かに戦うことは好きだ。

 確かに支配することは嫌いじゃない。


 それが本心なのか、と疑ってしまう原因はその根底だ。

 既に自分の中に存在した要素がどのような理由で備わったのか、長い時間が経てば疑問に浮かんでくるのは当然のことだ。


「は、はは……」


 ふと、乾いた笑いが零れた。

 そして今回の戦いで吹っ切れたレミナスは一つの答えを出した。答えは馬鹿馬鹿しい、と……つまり、悩むことを止めたのだ。

 しかし解決することを放棄したわけではなく、ずっと悩むことをしないと決めたのだ。


 そして少し重い瞼を開けると水色の背景に包まれていた。

 力と力を以って膨大な魔力がぶつかり合い、短い間、拮抗し合い、魔力が暴走して大爆発が起こった。

 パキパキと氷が増え溢れ、ギシギシと集約されて巨大な造物へと変化していく。


「意外と、傷を負わなかった、な……」


 レミナスは起き上がる自分の身体を確認し、自分にかかる負担が少ないことに少々驚きながら、状況を整理する。

 自分の体の状態は四肢が吹っ飛んだりしていない五体満足であり、かすり傷しか見当たらないことから気絶する寸前で起こった大爆発に巻き込まれたが、かすり傷で済んだのか、それとも重傷だったが、自身の魔力が自己治療を施してこの状態で目覚めたのか……と考えたが、自分の回りに重傷の後と一目で察することができるような鮮血がないため、軽傷で済んだのだろう。


「よいしょっと……」


 自分の近くに転がっている《氷結槍フリーゼン》を掴み、敵対者である三人を探す。


「その前に、我ながら凄いな」


 建造物、と言える構造ではなく洞窟と言った方が適切な形、自然が作り上げた芸術である巨大な造物。大爆発によってレミナスの魔力が拡散され、固体化し、その中で大きな魔力に同じ魔力がくっついて成ったものだろう。


 自分の魔力が成した造物だが、その工程には意思がないため、レミナスの足取りは不安定だ。

 三人を探すために魔力感知を行ったが、まだこの造物が成った時がついさっきであるためか、周囲の魔力に邪魔されている。

 レミナスは自分と同等か、それに近い存在の目安を魔力量で判断しているため、魔力量自体は人間より上であるソージ達の位置を魔力で特定するのは不得意なのだ。


「お兄ちゃん!!!」


 と、造物の内部でそんな声が響いた。

 この造物を成した魔力が霧散していないため、その魔力より人の声なら、自然物より完璧に通さず、跳ね返している。


 レミナスが目覚めた時と同じくソージも起き上がる。

 人間と魔王。見た目は酷似していようと位階に照らし合わせれば、明らかに差異が存在する。

 そのためかすり傷程度であったレミナスとは違い、ソージは重傷であった。


「ううぅ……」


「大丈夫、間に合うはず!!」


「お兄ちゃん、頑張って!!」


 レミナスが上り坂を進んだ先には彼らにとってどれほどのものだったのかを物語っている光景だった。四肢は無事だったが、腕、足、胴体に深い傷を負い、完全に断ち切られなかったのは彼らの剣技『レスティアル流剣技』の一つ、第七剣技――《星命・真命星剣しんめいせいけん》で施した身体強化のおかげであり、ソピアとサリアが必死に治癒魔法を施し、治療している。


「命を取り留めたか……あの大爆発はどの種族であってもまともに食らえば、命を落とす威力だな」


 レミナスの声に三人が彼女の方を向く。


 彼女は悲しむことはしないし、哀れに思うこともしない。

 ただこの結果に対して好印象を抱いた。

 自分は軽傷だったが、同盟を結ぶために必要なものである武力ともう一つ、力が強かろうがそいつ等の人格についてだ。


「れ、レミナス……」


 まだやるのか、とソージは重傷である身体を起き上げようとするが、顔だけが動くのみで戦闘を継続することなんて不可能であり、死ぬことと同義だ。


「私の結果は良いものとなった」


 最古の魔王の一人、“氷結の魔王”レミナス・グラシアスは戦闘前との印象を覆すように三人へ微笑んだ。


「だから安心して、あとは君達の神に任せときなさい」


 これにて彼女との試練は終了した。

 残りの試練は最古の魔王の一人、かつては“紅蓮の魔王”と呼ばれていたが、自身で最古の魔王の頂点という証しとして“大魔王”と定めた存在。


 正真正銘、世界最強の一角をただ一人で担うことができる強大な存在の試練のみとなる。


 だが、その前に……見なくてはならないことがある。




これにて第一章『破壊戦火』編は終了です。


【★ここまで読んでくれた方に★】


 面白い、続きが気になる、と思ったら『ブックマーク』と下部の『☆☆☆☆☆の評価』をしてくれるとモチベーションの維持と向上に繋がります!!!


 どうかよろしくお願いします。


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