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32話 氷結の魔王④



 氷塊の中に閉ざされた二人、ソージとソピアは深海へと沈んだ。

 能力が宿った『魂』に影響されて成立した一つの力、閉じ込める力である【氷結】は閉じ込めた存在の履歴を記憶し、別の存在にその記憶を強制体験させる。

 最初は地味と思っていたが、精神攻撃も必要だと感じた。

 発動条件は氷塊に閉じ込めて、相手の抵抗力を喪失させることで精神に干渉可能となる。


 だが、それは彼女の【純潔】によって精神崩壊は防がれた。


「嘘……あの記憶を勇者と言えど、そう簡単に」


「あぁ、抜け出したが、簡単じゃなかった。幾億の悲鳴、呪いを降り注がれて無事なわけじゃない。慣れるまで少しかかったよ」


「慣れる、まで?」


 意味が分からない。数にして幾億、その存在共の悲鳴、精神を問答無用で砕くその大海に強制的に沈められて無事なわけがない。

 これは試練であり、一見の評価でもう動くことはないだろうと判断したのだが、彼ら二人はレミナスへと近づいてくる。権能で封じられて、サリアとの戦いの後、その少しの時間で彼らの風貌は明らかに違っていた。


 あの二人は成長している。

 その結論から彼らが予想を超える結果となりつつある。


「へぇ~……よくわからないけど、予想外だったことは認めるよ」


 あの悲鳴を逃れたところで戦力差が変化したわけでは決してなく、勝機はレミナスの方に傾いている。

 この【氷結】に満ちた大地で環境的に有利であるレミナスにどうやって勝利するのか。

 だが、魔王が本気になってしまった以上、小細工なんて通用しない。


「魔王レミナス、決着をつけるぞ――」


 自分達が体験した悲鳴、その無念とともに試練を超える。


「あぁ、そうだな!!!」


 先に動いたのはレミナス、主戦力であるソージとソピアに突撃する。神速におよぶ速度で大地となった氷が魔王の動きで削がれ、宙に氷の結晶が舞う。

 暗雲が立ち込めて雪も降り出す。

 その下で二人は魔王と刃を交え、槍の両端を上手く活用して二人を相手取る。

 ガキンッガキンッと金属音が、もう誰もいなくなった大地に響く。


「ふッ――」


 二人を相手取ったところで勝敗は決着しないため、レミナスは一人に標的を定める。


 その相手はソージ・レスティアル。

 柄を短く持ち、大振りに薙ぎ払う。槍のメリットは剣よりリーチが長いこと、それを最大限に活かす。

 槍の域に押し込み、一方的に攻撃する。

 神器《氷結槍フリーゼン》に魔力を乗せているため、その武器、レミナス本人から冷気が溢れ出している。

 その威力は接触したら火傷を起こすほどだが、こちらも魔力で身体を保護すれば、対処可能だ。


「第六剣技――《月輝燦然げっきさんぜん》」


 その剣の線に隙間などなく、圧倒的な連撃をソージは放つ。

 それにはレミナスは防御一辺倒になるが、ほとんどの斬撃を防ぎきった。体格的にソージより小さいが、この次元になると体格なんてただの装飾品程度にまで格下げされる。

 例え、物心ついた子供であろうと莫大な魔力で都市の一つを滅ぼすことだって可能になる。

 連撃を防ぎきり、剣技の直後の隙を狙い、穂先をソージに突く。


「ッ――」


 ガキンッとソピアはクオリカ下を帯びた剣技でソージに向けられた攻撃を防ぐ。

 兄妹二人の連携は抜群に葉や目線なしで意思疎通を可能とするほどに抜群に良好だ。


「第七剣技――《星命・真命星剣しんめいせいけん》ッ!!!」


 その隙にソージは自分と星の魔力を自らに集約して身体能力を飛躍的に向上させる。


「うおぉぉぉぉぉッ――」


 大きく振り下ろすが、腕の筋戦意がバチッと鳴る。

『レスティアル流剣技』は人間最高峰の剣技であるため、その習得、身体への負担は尋常なものではないだろう。

 その中でも第七、第八、第九剣技に関しての負担は単純計算で倍のものとなる。

 その三つの内のどれかを発動したら、もう長期戦では自己崩壊してしまう、と言われているほどに切り札的剣技なのだ。


 その身体能力は今のレミナスに匹敵する。ソージの一撃を槍で滑らせ、穂先と逆の端で突くとソージの態勢が大きく崩れる。

 隙あり、とレミナスは穂先を回転させる。


 だが、その刃をソピアが受ける。


「第八剣技――《星命・流星残喰りゅうせいざんしょく》ッ」


 ソピアが受けた剣の刀身が強く光り輝き、光の粒子が溢れ出す。


「なに――」


 レミナスとソピアが刃で競り合う。

 レミナスから発生している【氷結】の魔力が光の粒子に侵食されていくのを目の当たりにする。


「光が……」


 正確には喰らっている。限度はあるが、喰らう対象は魔力の他、肉体などありとあらゆるもの、触れたものを侵食していく。


 これは競り合ってはいけないと理解してソージに蹴りを入れる。身体強化が成されたレミナスの蹴りを防いでも吹っ飛ばされる。


「あぁぁぁぁぁッ!!!」


 全身の魔力を解放してソピアも吹っ飛ばされる。


 今までにない魔力量を解放したことでソージは切り札を発動するだろうと予想して自分も神器を解放する。


「勝利を示せ、ドラドゥーム――――」


 それに対して一瞬でレミナスも反応し、秘めている力を解放する。


「凍結せよ、フリーゼン――――」


 お互い武器を掲げて、神器を解放する。

 神の力を冠する能力から製造されたものにして力の結晶である神器。

 氷結の穂先から氷と光、魔力が合わさった青白い光が天まで上がった柱が現れ、もう片方は黄金の光の柱が出現する。


「――《全てに示す、(エクシティウム)黄金の破滅を(・ドラドゥーム)》ッ!!!」


「――《全てを覆う氷結の槍グラルヴァー・フリーゼン》ッ!!!」


 長年、静まっていた大地は膨大な魔力がぶつかり合い、押し合いとなる。

 巨大な衝撃で地盤が揺れ、亀裂が入る。


 もうすでに死した大地は崩れ始め、二つの力は限界を迎え、融合部が揮発して大爆発を発生した。




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