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31話 氷結の魔王③



「ぐッ……な――」


 突如、レミナスの脇腹を熱い何かが貫く。

 周囲は〈真蒼結晶〉によって【氷結】に広がっており、確実にサリア・レヴォルアントは巻き込まれたはずだが、魔王は攻撃を受けた。

 なぜ、とサリアの方を見るとその方向は光輝いている。


「光……そうか、気付かなかった」


「私の力は冷たい氷と輝く光である二つの属性を操る弓使い。その名は――『明氷熾帝グラウシア』」


 サリアの半身は【氷結】に巻き込まれたが、上半身が無事ならいつでも攻撃できるし、その根気は無論、備わっている。

 あの距離で避けても巻き込まれると思ったが、何とか下半身だけを犠牲にして渾身の一撃を放つ。


「ふうッ――」


 能力を解放したことで本気を出す。

 サリアの攻撃方法は氷の矢と光の矢がある。

 基本戦闘の流れとして氷の矢に光を乗せて速度を上げて攻撃する。氷塊が現れ、射線上に障害物があろうと光の矢にはそんなものは無用となる。

 サリアの最大の強さは『対象』と定めた存在を絶対に逃がさないという特徴を持つ。『対象』が障害物で見えずともソージやソピア以上の範囲を誇る魔力感知と肉体的感覚の練度が桁違いの才能を誇る。


「いっけぇぇぇぇぇッ!!!」


 最大数である五本の光が高火力で放つ。

 前方に氷塊があるが、光の矢であるため氷塊の内部を通過する。光の反射によって相手からすれば軌道を読めないものとなる。

 それなら『対象』に当てるのも難しいのでは、と思うが光の矢はサリアの魔力から生成したものであるため、放った後でも操れる範囲内なら、操ることが可能だ。


「ぐあッあッ……クソッ」


 今、この距離で近づいたことをレミナスは後悔する。格下だと思って余裕の態度で行動した結果、弓使いという事を甘く見てしまった結果がこれだ。

 これほどの遠距離特化の性能、人間の中でも最高峰の実力を見誤っていた。

 確実に自分の身体に当てる、正確すぎる軌道を見えた瞬間、レミナスは後方に飛ぶ。がそれが間違っていることに気付く。


「ぐあッ……調子に乗るな!!」


 絶えずに飛来する光の矢を《氷結槍フリーゼン》で撃ち落とす。


「はぁぁぁッ!!!」


 上空に光を打ち上げ、空中で魔力が破裂する。

 一時的な圧縮、切り口を下に向け、上空へ放つことで下方にいる敵に対して範囲攻撃を仕掛ける。

 それを平然とやってのけるのは確かな才能を有しているという証拠だ。


 そして暗雲の天が光輝き、レミナスに光の雨が降り注ぐ。

 あれはまともに食らうとヤバい、でも自分の力である【氷結】は盾に出来ない可能性がある。

 どうする、どうするか……いや、怖気づいているなんてバカらしい。


「受けよう――」


 投げやりであった。

 穂先に魔力を込め、大地を削り、上へと螺旋状に槍を回した瞬間、氷塊が渦を巻き、レミナスの全方位を囲む。

 ドドドドドッと直後、光の雨が氷の柱を襲う。

 いくら光であろうと氷の中に存在する魔力密度で無意味になるかは三代目光の神との戦いで経験済みだ。


 だが、予想外だった。

 レミナスは自分の予想が過小評価であったことを認めた。


 これは完全な防御じゃない、癖となってしまった出し惜しみのせいだろう。

 自分等、最古の魔王達は『強者』ゆえの『弱点』がある。


 それは格下相手に全力を出さないことだ。

 手札が少なかろうと多かろうと本能なのか、手を抜いてしまう。


 だがこれは当たり前の思考だ。弱い相手に全力を出すなんて、バカのやることだ。

 でも、だからこそ敗北したことがある。

 レミナスが思う大きな印象として最古の魔王が一人、第一位“紅蓮の魔王”こと“大魔王”エマ・ラピリオンが三代目炎の神ジルフィス・レギレスに敗北したことだ。


 これこそ手を抜いたことで一瞬の差の驚愕で自分の心臓を貫かれた。もちろん、改善を試みたがレジナイン曰く、時間はかかるとのことだ。

 なぜなら、自分達五人は生まれながらの『強者』であるからだ。

 自分達の中、根底に存在している『支配』のように根付いており、魔王達からしたら自然なことに含まれている。


「はぁ~……私も痛い目見るなんて、な。流石は勇者……」


 外が騒がしいがふと自分が強く握る武器を意識する。武器、それは自分の力を振るうための道具、もっと正確に表すなら、自分の力の象徴だ。


 それを用いることで自分の力の最大を引き出せる。能力を介して作り上げた武器の役割であり、それこそが武器の在り方だ。


「引くことなんてない、怖気づくことなんてあり得ない。敵と定めた存在は絶対に捻じ伏せる……なら、本気で――」


 ぞっと力を抜く。

 もう油断を、手を抜くことをしないと……。

 レミナスは立ち上がり、槍を振り上げた。


 ゴウッと氷の柱が一瞬、振動して粉砕され、内部からレミナスが現れる。


「動いてもいいぞ」


 サリアを巻き込んだ権能の力を解除し、真っ向からの戦闘に挑む。レミナスは軽く地面を蹴り、接近し、サリアは光の矢で迎撃する。

 光の速度でレミナスに迫るが、槍で弾き、一瞬にして距離を詰める。

 瞬時に矢を構え直し、氷と光が融合した矢を自分とレミナスの間に打つ。


 その融合は解放されて先に氷塊が出現し、次に氷塊の内部から光が炸裂する。


「ッ――」


 レミナスは手に魔法陣を展開し、魔力で防御する。

 だが、封印されていたことで弱体化していることを認識させられる。三代目光の神リリア・レギレスとの戦いでは対処できていたが、自分で自覚できるほど弱体化している。


「フリーゼン――《氷結螺旋ひょうけつらせん》ッ」


 前方に槍を突くと氷結の螺旋が出現してサリアを襲う。

 危ない、という危機が全身を震え上がらせて勢いよく飛ぶ。横方向に現れた螺旋状の氷を避けるが、鋭い吹雪で無傷にはいかない。

 レミナスが距離を詰める。

 もう弓使いの距離ではなくなるため、真っ向しかない。


「ッ――――」


 ズザザザッと前方から螺旋を砕き、接近するレミナスにサリアは近距離で弓を向ける。


「その気は褒めてやるが、それは正真正銘の無意味だ――」


 それは正論だ。

 圧倒的な力、近距離と遠距離の先頭を可能とするレミナスと遠距離特化だけであるサリアでは近距離戦闘になれば、絶望的に不利となる。


「でも、それは一対一の時の場合の話――」


「なに?」


「あなたの気を引くだけが私の役割だ!!」


 次の瞬間、レミナスは淡い光に包まれ、光の刃が降ろされた。

 ガキンッと槍でギリギリ防御することに成功したが、不意を突かれて後方へ押された。


「まさか、亡者の悲劇を――」


 光の魔力がはっきりとわかるほど、彼らの反応がクレーターの中心部に現れた二人。


「行くぞ、ソピア……亡き人々のためにも――」


「うん、行こう。お兄ちゃん――」




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