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30話 氷結の魔王②



 終焉の日は突然、舞い降りた。

 その事態が最古の魔王、第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスの威厳と恐怖を世界に植え付け、最古の魔王という存在達が更に恐怖の対象となり、神々も更なる慎重の元、魔王と関わる方針に決めた。


 この世界でも一番の広大な土地でこれ以上のない繁栄を見せ、一つの国家のみが存在し、争いなんて存在しない。

 控えめに言って楽園の域に届いたものだった。

 だが、安全なものではなかった。魔物、魔王の脅威は領域内であっても魔王と敵対する神々の領域であるため、殲滅対象であることは間違いないが、それと引き換えに神の加護を受けているが、領域外に位置する大国バーバレオンは神の加護を受けていないが、当時のエレクシアを上回るほどの軍事力を保有していた。


 広大な土地で繁栄したためか、人口もシズゼリアに次ぐものである。領域外でも種族が生きられることを目標に、高い軍事力を持つ大国バーバレオンは調子に乗ってしまった。

 本当の事柄、事実なんてもう彼らには見えていなかった。

 偉大なる存在である最古の魔王へ舐めた態度を取り、挙句の果てに殲滅しようなどと考えた大国に対して最古の魔王の一人にして第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスはその力を振るった。


 その結果、大国は一夜にして凍結されて滅亡に至った。


 始まりは暗雲が大国全域に及び、大気は急激に冷やされて環境が狂い始める。

 上空に膨大な魔力が満ち、大国の人間を恐怖に陥れた。最初に襲ったのは寒さであり、瞬きの間で景色は凍り付き、生命は全てを封じられた。

 痛み、激痛は一瞬であり、生命はただ氷に包まれて死を迎えるだけだった。


 最後の言葉なんてありはしない。ただ無残に死にゆくだけだ。


 だからこそ彼らの記憶は悲鳴で埋め尽くされた。


 いやだ、いやだ。

 いたい、いたい。

 つめたい、つめたい。

 いたい、いたい。

 いやだ、いやだ。


 自分の意識、意思を手に、生きたいと掴むと身体が死せる瞬間の感覚が蘇り、残りかすの生命に降りかかる。


 それは恨み、ではなく後悔であった。自分達がこうなった原因、それは痛いほど自覚している。

 だからこそ、やり直したいと願った。

 恨む対象は、ただ一人、氷結の魔王だけだが、それをしてしまってはまたここに戻ってくるだろう。


 その形が【氷結】によって保たれている間、全ての生命の精神が繋がり、情報および感覚を共有する。

 しかしその感情は負のものばかりだった。

 寒さ、痛み、恐怖、憎しみ、後悔……自分のものだけでなく、自分以外、大国の生命全てに発生した負の感情を体感する。


 それは死ぬより恐ろしいものであり、死を迎えるがそれまで幾千、幾万の負が精神と魂に襲う。


 やがてそれは生命の呪いとなり、やがてそれは魔王の糧となる。


 そして【氷結】に閉じ込められた二人はいわば残りかすであるが、負の体験をすることとなる。






「ソージ、ソピアちゃん!!」


 一瞬にしてあの二人が氷塊に閉ざされてしまった。

 純粋にあの二人の技量で対処できない規模が一気に襲ってきたため、どうしようもないものとなってしまった。


「未熟、というのは正確じゃないな。人間的に見れば、その技量は最高峰のものだろう――」


 サリアが気付いた時には近くにレミナスは存在していた。戦場を自分の領域と化し、強大な力で押し潰す姿は正に魔王の鏡だ。


「ッ……」


 サリアは矢を充填してすぐにでも射抜けるようにするが、レミナスは柔らかな表情を浮かべて「少し話をしようか……」と一方的に会話を始める。


「根本的な話になるが、力とはどうゆうものか知っているか?」


「……」


 緊張で口を開ける状態ではない、それを理解しているのがサリアの反応を少し笑いながら、話し続ける。


「存在に宿る力は宿った先の形に依存する。元となる【氷結】の力が私に依存し、形を変化させていく。お前にその自覚はあるか? 能力は魂の付近に宿る。魂自体には宿らないが、能力とパスで繋がっているため、その魂に内包されている個性に依存するのは自然なものだ。その力が強大になれば、自分という魂が引っ張られることもある。それを制することで高次元へと至る」


 レミナスの言葉を聞いたサリアは、なぜそんなことを断言できるのか、という疑問が浮かんだ。


「ん、なぜって顔をしているな。言っただろう。力を極めることで次元、存在の階位を上がることで同時に繋がっている『魂』も階位を上がる。それゆえ、力の本質を言葉なしで理解できる。他に力は宿った対象『魂』の形に合わせて、その形を変える。私の場合は閉じ込めるという【氷結】と『支配』が掛け合わさった。面白い要素として閉じ込めた対象を『支配』することで生命活動停止に追い打ちをかけ、死を迎えた存在の情報を【氷結】が記憶し、【氷結】を介して別存在に実体験を行えることが可能だ」


「まさか――」


 力の本質、自分の力に関して述べた後、今あの二人がどうなっているのか、サリアは理解したが、もう遅かった。

 サリア一人で魔王を相手にしなければならない。


「さあ、人間最高の弓使い。この展開、どう突破する?」


 これは最悪の状況だ。

 本戦力である二人が戦闘不能になった以上、勝機は絶望的だろうが、それで諦めるほどサリア・レヴォルアントという人間は甘くはない。

 昔から勇者の片割れとして人間最高の弓使いの家系で生まれた人間、勇者の一人として自覚した以上、ただで敗北するなんて自分の家系、なりより自分が納得できない。


「それは私なりに――」


 サリアは弓矢に魔力を流す。

 もう逃げられない、いややるしかないのだ。


「――やるしか、ない!!」


 その矢に魔力が込められる。

 絶対に命中させるという意思を込めて、矢を引き、放つ。レミナスが槍を構えるが、その矢は地面へと突き刺さり、氷塊が出現する。

 それは自分と同じ系統の力であり、レミナスは余裕の表情を浮かべる。


「奇遇なこともあるものだな」


「えぇ、本当に!!」


 次の放ったのは三連の矢、着弾と同時に巨大な氷塊が出現する。

 しかし【氷結】を操る“氷結の魔王”レミナス・グラシアスに氷の攻撃が効くわけがない。

 だが、サリアにはある策があった。


「狙いはいいが、それだけだ!!」


 レミナスは左手に魔力を流す。

 さっきの権能直前に見えた青白い光が灯る。

 次の瞬間、〈真蒼結晶〉を地面に向けて発動した。


「ッ――」


 サリアは迫りくる【氷結】を察知して後ろに跳び、策として最後の一撃を放った。




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