29話 氷結の魔王①
「潰れろ――〈真蒼結晶〉」
そう、力の名を呼び、氷結の魔王が左手を上げると氷結が瞬時に集約、形づくられ、氷の柱と成す。
「ッ!!」
ゴウッと大気が用意に押され、巨大な氷柱がソージ達に尋常じゃない速度で投擲される。
膨大な魔力量で周囲の既存事象に対して自分の色へと簡単に染め上げ、神の領域のように特定の魔力しか発生しない地帯へと変化する。
キンッと鋭い音が響いた。
それは光の音。完璧な剣撃であることの証明、それ以外の一切を覆し、放たれた投擲された巨大な氷柱は一刀両断され、その間を抜け、ソージは走り出す。
聖なる光の『天聖熾帝』と身体強化系である『勇気熾帝』を同時発動させた。
そう、ソージは初手から全力で挑むつもりだ。
「〈生命氷結〉――」
その瞬間、ソージ達は凍り付いた。
それは“氷結の魔王”レミナス・グラシアスが所持する『氷結神冠』が内包する権能の一つが発動された。
その権能は生命に対して問答無用で氷結の効果を与える。
格下であるなら、生命の大半を氷漬けにし、同格、格上であろうとすぐに解凍しなければ、その部位は死んでしまうほどの効果を持つ。
生命を凍らせ、死へと直結させる。
「ふんッ!!!」
だが、魔力を内側から放出して氷結を剥すことで対処は出来るが、既に氷結の魔王による有利な環境であることに変わりはないため、毎度対処する余裕などない。
直線上は危険であるため、周回しながら接近する。
レミナスは遠距離攻撃を備えているため、ソージ達は常に動き続ける。
少しの間、睨み合いとなるが、ソージがレミナスへと向きを変えて突っ込む。
その動きに合わせてソピアが『レスティアル流剣技』の一つ、第四剣技――《月牙翔斬》を放つ。
強く輝く刀身から光の斬撃が放たれ、レミナスは氷塊を顕現させ防御するが、呆気なく砕かれる。
光と氷。耐久面の比較は物質として成り立っている氷、物質ではない光では後者の方が威力は高いのは明白だ。
そしてレミナスは突破されることを見越していたのか、レミナスは身体の向きを変えて回避する。
だがソピアが放った《月牙翔斬》の効果はそれだけがじゃない。
「ッ!!」
何かに気付き、槍を後方に振るう。
ザァンッと光の斬撃が相殺される。
「面白い剣技だ。人間の技術の真髄だな」
「まだだぁ!!!」
ソピアの攻撃の合間に距離を詰めたソージが声を上げる。
「――《天火閃光》」
瞬間的威力を誇る第一剣技、それをレミナスに振り下ろす。
その一撃を魔王の神器《氷結槍フリーゼン》で防がれ、光が散らばる。
だが、近づけただけでも好機、近接戦闘なら自信満々で言い切れるほどの得意分野だ。
「第二剣技――《一条光者》」
すぐに剣を引き、剣技を放つ。横薙ぎに振るったそれを回避して穂先を向け、突く。
「第五剣技――《月影遊夜》」
刀身は変わらず、光のままだが防御のために穂先を叩くとその一部が影に染まった。
それは攻防に適した剣技であり、近接戦闘では愛用される。光、その反対である影を用いることで攻防、相手に剣撃の速度を誤認させる特性を持つ。
「へぇ、面白い!!」
穂先を地面に突き刺し、レミナスは体重を槍に向けて飛び上がる。
大胆な動き、つまりその後には強力な一撃が来ることは容易に想像できるため、ソージは後方に下がり、上段で構える。
ガンッと流石に重く、地面すら押される。
全身に重圧、冷気が襲う。
だが、それはすぐに止んだ。
淡い光がレミナスを包むと同時に刃に代わる。
「ぐッ――」
第三剣技――《光来天幕》
遠距離攻撃の一つであり、予備動作のように見えるが淡い光も攻撃であり、二段階の攻撃が特徴の剣技。
『レスティアル流剣技』は剣技を放つ者の練度によって威力など変動するため、実力のある程度の指標となり、良く述べるなら実力の尺度が分かりやすいこと、悪く述べるなら実力差が分かりやすくなる。
ザクッとレミナスの左肩に斬り込み、血を流した。
「ッ――」
レミナスは一度、整理する。
何だ、確かに気配はあったはずなんだが……正直に言うなら予想外だった、だから反応が遅れた。ソージ・レスティアル、サリア・レヴォルアントの気配は認識できているが、ソピア・レスティアルの反応は点滅している。
感覚的な判断で表すなら、魔力操作がまだ未熟なのか……いや、なら剣技が当たろうと私の身体を傷つけることはできない。環境的に、魔力範囲と展開している範囲を考えれば、ここは確実に私の優位な場所。
なら、ソピア・レスティアルは……二人より実力が高い。
意図的に魔力反応を抑えている。
だが、完全に魔力反応を閉ざすことなんて無理な話だ。方法としては今のように自身の力を広範囲に広げ、周囲を自分と同じ色にする方法、それでも完全に消せることはできない。隠れることに特化したもの、そもそも概念を捻じ曲げ、そこに存在しないようにする力、レジナインのような目には見えない力なら可能だろう。
思えば、力に直結する能力の欠点とも言える。
魔力、技量で左右される炎や氷、破壊など力を体現する能力では隠れることすら、強大すぎる存在なら隠れることなんて不可能になる。
だが、レミナスから見たものは光を点滅させた魔力反応だった。点滅でさえ、レミナスでも無理な話だ。
三人はレミナスの力の範囲内であり、その居場所は手に取るように認識でき、格好の的なため、真っ向からの勝負しかない。
「――〈真蒼結晶〉」
初手で発動した権能、氷の結晶を顕現させる力を下に向けた。
次の瞬間、レミナスを中心として氷塊が出現し、その範囲内であるソージ、ソピアが巻き込まれる。権能として区別されている力は通常の力と比べると約一段上となる。
「さあ、どうなるかな?」
氷結に包まれ、抜け出そうとするが、二人は急な意識落下に陥った。




