表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/190

28話 自領域へ撤退



「レイム様!!」


 浮遊島は半分へ分かれ、崩壊が始まる。


「んん……ジュウロウ、大丈夫」


 若干、暴走気味だったが何とか平常心を取り戻し、即座に行動する。


「領域に急ぎましょう。恐らく、この状況ではレジナインは手助けできないでしょうから、エレクシア領域外まで」


「そうだね。行こう!!」


 両翼を展開したレイムはジュウロウの手を掴み、空へと飛び立つ。

 天界と呼ばれる高さからの脱出は飛行能力がなければ、自殺行為であるが、問題はない。が、他の問題として天使の軍勢が二人に迫る。


「レイム様、もし邪魔なら手放しても構いません」


「いや、そんなこと――」


「心配、無用。それより敵を蹴散らします」


 そう言うと自分が掴む力を緩めてレイムから手を離した。

 破壊神の配下であっても人間である。魔法も使えず、剣術だけを強さとしているジュウロウ・ハリアートは臆することなく、手を離し、虚空へ身体を任せる。


 抜刀の構えを取り、踏み出す。


 その瞬間、レイムを越えて飛び上がる。空中に足場など存在していないが、彼の能力を足場として活用した結果である。


 そして一瞬で敵の位置、数を把握して抜刀する。


「――《一閃無浄いっせんむじょう乱雑らんざつ》」


 白い鞘、柄……その中身である白に近い銀の刀身を晒し、横薙ぎに振るう。

 刀身から放たれた一つの一閃の如くの斬撃は無数に分散し、正確に数十の天使の翼を切り刻む。


 その全ては経験から来る神業、一番目の技にして派生。

 刀身に込める魔力の形で多彩な事を可能とする千年単位で剣の強さを求めた結果が証であり、そもそも足が地についていない状況で刀を振るえるのも驚きだ。


「おぉ~凄い!!」


 大規模な範囲をその力で塗りつぶすことのできるレイムであってもジュウロウの剣技は釘付けになるほど美しいものだった。


 あの一撃で大半の天使は落下していく。

 だが残りの数が少なくても関係なしに天使たちは速度を上げる。


「チッ――《一閃無浄いっせんむじょう乱雑らんざつ》」


 正確な斬撃で残りの天使たちも飛行不能になり、落下する。


「おぉ……流石、ジュウロウ。よし――」


 敵がいなくなり、感動していたがすぐにレイムは目的に切り替えてジュウロウの方へ飛び、手を掴む。


「うぉッ!!」


 急な展開に驚きの声を漏らすが、雲を抜けたことで地上が見渡せる光景にその純白の瞳は釘付けになった。力を求めていた自分にまだ高い景色だけで凄いという感情があるということをジュウロウは気付く。


 レイムはバサバサと両翼を動かして自分の領域へと羽ばたいていく。


「ッ!! レイム様――」


 地上から打ち上げられた光。

 さっき、数秒前まであの光から成る魔力をジュウロウすら感知しなかったということは本当に数秒前に光は放たれ、一瞬にしてこの高さまで届いたのだろう。

 ということはジュウロウの魔力感知のタイミングは間違っていなかった。


 その光は膨張して広範囲に渡って光の刃を拡散した。

 それを一撃目として確実にレイムを狙い、周囲に光を飛ばす。魔力を拡散する時に強い光が発せられるため、反射的に目を閉じ、腕で前を覆ってしまう。

 生物的な要素が裏目に出て、レイムは両翼を貫かれて地上へ落下する。


「うぅぅぅぅぅッ!!!」


 地上から見れば、綺麗なものなのだろうが、食らった方は方向感覚、視界が麻痺して飛ぶという行為を忘れてしまう。


 同族すら恐れる破壊神、人類最強と謳われる男は最強であるが、完璧でも、万能ではないのだ。


「くッ……あの光なら敵は察するが、来るなら徹底的に――」


 人間という種族の中では知名度は他種族、世界規模で知れ渡っている人物、勇者という肩書、いや称号を次代に継承したのなら、彼らの称号は変わっているが、それでも有名なのに変わりはない。


 代々、光の神に仕える騎士団にしてその団長と副団長。


 更に彼らは勇者時代に魔王討伐に成功したとされている。

 ジュウロウはレイムから強く握られている手を離さず、地上を見ると二人の人物が目に入る。


 剣聖グアエード・レスティアルと弓聖トム・レヴォルアントの二人である。


「やってやる――」


 その瞬間、トムが弓を構え、光を放つ。

 今度はレイムとジュウロウを確実に狙い、その光が二人に迫り、着弾する寸前で内部で膨張した光が解放された。






 その頃、ソージ達が氷結の大陸に移動して一時間以上が経った。

 氷結に覆われた大国の影は跡形もなく消え、氷結の柱が幾つもそびえ立つ大地、代わり映えのない景色の中を三人は進む。

 ジャリ、ジャリ、と氷を踏む音だけが聞こえる。

 が、強大な魔力だけが確実に大国が存在していた位置から漂っている。


 ここが本当に歴史上最高に繁栄した大国なのが信じられない。大国と同じように緑の大地は氷結によって死に絶えたのだろう。

 幻想的であるが、生命にとっては死と隣合わせの環境である。


「近い……」


 進む方向は魔力感知で分かっている。


 だが足を進めるに都度、魔力源の存在も分かっているのが、魔力の圧力が全身を包み、精神、心臓を強く握られる。

 一歩、一歩に警告が全身に響いている。


 だが、それが物理的に全身を振動させるまで接近し、魔力感知で莫大な魔力量が前方に蓄積されていることまで知覚できる距離まで……。


 そして遂に両者は対面した。


「――ふん、ご苦労だったな。こんな極寒のなか、幼い人間達を待つのはいくら私でも気が引ける。こう見えて面倒を見るのが好きなんだ」


「まずはここまで来たことを称賛しよう。流石だ。流石は勇者……」


 そこは深く陥没した場所。

 その中心、奥底に氷結が華のように美しい造形が存在し、その上に玉座が象られている。


 氷結の玉座に座するのは水色の長髪と瞳、少し発達した身体に氷結で作られたドレスを纏い、鎧のような防具は身に纏っていない。

 レジナインのような成人した女性ではなく、まだ幼さが残っており、ソージより少し下の外見をしている。


 その傍らには彼女が扱う武器《氷結槍フリーゼン》が突き刺さっており、魔王は肘置きに背中、足を置き、脱力した座り方で勇者を迎え、乾いた拍手をする。


 ソージの感想では真偽は本音と偽りが半分ずつであり、全くの嘘を言っておらず、後は雰囲気で誤魔化しているようだ。



「私は最古の魔王が一人、第二位の序列に位置する“氷結の魔王”レミナス・グラシアスである。封印から解放されたが、力が万全ではない……だが、侮ることは死に繋がると思え」


 レミナスが手を払うと氷結の魔力が広がった。


「さあ、魔王である私に対して良い相手、死ぬ気で来いよ。勇者――」


 魔王は立ち上がり、武器である《氷結槍フリーゼン》を引き抜いた瞬間、吹雪が吹き荒れ、魔力が上空に舞い上がる。


 強大な存在は環境すら操作する。


 何より恐ろしいのは彼女の実力が“大魔王”に次ぐということ……。


「ソピア、サリア……行くぞ?」


 ただ言うことはそれだけ、今さら拒否なんてできないし、そもそも三人の中にその選択肢は存在しない。

 自身が何者であるか、何を成すのか。

 そう、勇者として魔王を倒すことこそが、自分達が今までやってきたことの目標だからだ。


「「うん!!」」


 二人はそう答え、三人は同時に下り坂へ一歩、踏み出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ