24話 神の一族
「……貴方は本当に出来るの?」
ビルア・レギレスはレイムに問い掛けた。
それは第一印象の厳しく毅然とした態度とは一変し、ただの素でレイムに質問をした。
「やります。私にも関わってくることだから」
「そう……でも、私はまだ貴方を信用できない」
それは強い意思を纏っているものだった。
三代目として領域を任される人物ではないが、三代目の中でも厳格で戦闘狂でもある炎の神ジルフィス・レギレスの妻として似合った夫婦だった。
彼女は神の一族として夫のように厳格に二人の子供を育て上げる。長女のルフィアとレイスを育てた女。
彼女の人柄が厳格だからこそ、そう簡単に譲れないものがある。
自身の二人の娘の子供、孫であるレイムが本当なら、炎の神の正当なる後継者として育てるつもりだったのだろうが、生まれようとしていた命は出産前に【破壊】が宿ってしまった。
稀に見ない速さ、最速と言っていいものだった。
その理由は四代目破壊神が確認されていないことが原因で新しく生まれた生命に【破壊】が宿ったのだと仮説があったが、本当のことは分からない。
自分達の孫である存在が忌み嫌われる破壊神となってしまった。
それが彼女としては痛手であり、その破壊神を負の感情を向けるようになった。
厳格ゆえ悔しさ、家系としてのもどかしさ、破壊神という存在に対しての恐怖、警戒……それらの感情の中に混ざっていたのは彼女の本心に対しての心配性、一人の神として成長しているのかどうか……。
それをビルアはリリアの言葉で気づかされた。
自分と血縁関係であり、次女の娘にして、自身の孫を自覚した途端、その在り方が本当に神の一族の一人として正しいのか、どうか……。
正直、レイムは解答に困った。
何故なら、自分の頭の中にモヤモヤがあるからだ。
正直、細部まで納得させる必要があるのか……自分がレオン・レギレスを倒すという『破壊神討伐』についての話し合いは終わったのだ。
全てにおいて細部までこだわることはしないレイムの性格上、もういいのではないかと思ってしまう。
だから……。
「どうすれば、認めてくれるの? あなたはどうやったら認めてくれるの?」
「おい、レイム。敬意がなっていないぞ」
本当にムカつく。
「そもそも神界で生きていないし、今頃、信用とか遅いよ」
それは少女の憎しみ、覚えのないものだが、自分の育ってきた環境をバカにされた気分だ。
目上、そうゆう家系で生まれたが、自分は両親から離れて神界から処分された。
「おい、レイム・レギレス!!」
ジルフィスが叫ぶ。
だが、レイムは臆することなく、立ち上がって声を上げる。
「勝手に決めておいて、今さら、身内みたいにするな!!」
少女は怒りを示した。
レイムの感情が震え上がると同時に【破壊】の魔力が放出される。
「私は神だけど、この一族なった覚えはない。今さら、そっちのことを押し付けないで!! 私は私が信じてくれる人のために行動する。ただそれだけだから誤解するな!!」
それは正しい怒りだ。
自分の意思、両親の意思など関係なく、一方的な権力を振り下ろしたことをきっかけとしてレイム・レギレスという存在が、本当の意味で生まれることとなった。
レイムは両親から離れ離れになった環境を怒っているわけではなく、その環境へ追いやっただろう当人の一人が、当たり前のように自分達の一族として、なんてことを言われる筋合いなんてない。
「レイム……お母さん、お父さん、レイムの意見は間違っていないよ。私達ももし、一度も会えなかったら、恨みを抱かれていたかもしれない。そうゆう環境へ追い込んでおいて、それはどんな権力を持っていようと、それは間違っています」
「……そうだな。すまなかった」
ジルフィスはすぐに自分の非を認めてレイムに頭を下げた。
「別にこの環境になったことは謝らなくてもいいです。ただ私にとってここは生きにくいみたいです」
その言葉は少女とは思えないほどの重圧が、本当に、心の底から嫌悪していることを感じた。
「じゃあ、もういいですね」
立ち上がったレイムは椅子から離れ、扉へ歩き出す。
「レイム様……」
一応、ジュウロウは確認する。
主の表情はもう何も話す必要がないという無気力なものとなっている。
「もういいよ。行こう」
ただそう呟き、足を進める。
「はい……」
話し合いは解決したが、身内の話は決裂したような結果となった。
だが両親については何も恨みなど抱いていないのは確かであるため、彼なりに心配しないように、感謝の意味を込めてレイスとシゼルにお辞儀をして主の後を追った。
身内の話し合いは良いものとはならなかったが、レイスの娘、ビルアの孫であるレイム・レギレスという存在がどのようなものなのかははっきりした。
「ふふ……貴方に似ているのね。あの子は」
ビルアはレイスの方を見る。
自分の意見を突き通すという一見、我儘であるが信念を秘めていることには違わない。
神の一族から迫害されたからこそ今に至った少女、レイム・レギレスを否定することなんて誰にもできないのだ。
「そうですね。レイムが育って私は嬉しいです。お母さん……私は最初からあの子を愛していました。あの時、自分の子供を手放さなければならなくなった時……」
十二年前、活発な性格のレイス・レギレスと大人しい性格のシゼル・レギレスという真反対な二人が結ばれた。
そのこと事態に身内から驚かれ、レイスから一方的かと思われたが、お互いの特徴的要素に惹かれた両想いだった。
その二人の間に生まれたレイム、シゼルの次に愛情が注がれるはずだった。
「あの時は苦渋の決断だった。人生で後悔しかなかった……けど、破壊の領域で育っていくあの子は安心する。あの子に神界のような環境は会わなかったなんだと思う。そして私はあの子を信じているから、やらせてあげる以外の選択肢はないから」
「そう、じゃあ見届けましょうか……」
ビルアは娘であるレイスの言葉で納得し、レイムを見届けることに決めた。
神の一族。
それらは決して完全でも絶対でも万能でもない、生物としての範疇に過ぎないものであり、だからこそ間違いを起こすのは当たり前だ。
この世界を思い、重要な存在として世界を管理していく。
それは永遠に続くだろう。
何事もなく、平和に、たまには争い……変化する所は変わるが、彼らは不変の姿で流れていく。
レイムとジュウロウは大きな通路を歩き、出口の扉を開いた。
すると外にはリリア・レギレスが天使四騎士の一人、閃光のアルゲリオンに問いただしていた。
「では、リリア様、黙って破壊神を帰せと?」
「はい。これは我々の決定です。異論は認めません」
その瞬間、空が明るく輝いた。
今日は快晴だったはずだが、まるで曇っていた空が晴れたように風景が一変した。
「な、なに――」
《――『破壊神討伐』を命じる。神の意思に従い、結構せよ》
「え……?」
「レイム様」
二人にも聞こえた。
いや、その声は世界全体に遍く全てに聞こえたようだ。
神々ですら、その状況をすぐに理解できないのは当たり前だ。
「では、閃光のアルゲリオン。神の意思に従い、『破壊神討伐』を決行します!!」
それを耳にした種族が、その目的に関連する感情を持つ存在に対して、原動力となる感情が何かの作用によって膨れ上がる。
それは世界に働く、世界に通用する権能。
この瞬間、文字通りに世界は一変した。




