21話 疑似・神世会議
ここに現れた瞬間、身体が強制的硬直した。
「ぐッ……ま、そうだろうな」
一瞬で状況を理解し、自身の魔力を身体に纏う。
何故、身体が硬直したのか、それはその全てが氷に閉ざされているからだ。
いや、それだけなら一瞬にして身体の表面が凍ることなんてなく、この事態の元凶である魔力によって永遠に吹雪が荒れ狂う異常現象が通常で観測できるものとなってしまっている。
「よし、ここが氷結の大陸と言われている場所だ。侵入者を防ぐため、方向を失わせるために吹雪が発生しているが、大国に近づけば、この吹雪は治まるようになっているからわかりやすいぞ。では、期待しているぞ。勇者」
既に設定した台詞を喋っているように薄っぺらいものを声にする。
だが、それは最後の「期待しているぞ。勇者」は感情が含まれており、それを言い終えた後にレジナインは姿を消した。
常に大気に魔力が含まれているという感覚は領域内の感覚と同じだ。
「もう、これは魔王の領域だな」
氷結の魔王の魔力自体に冷気のようなものが帯びているため、更に冷気が身体にこびりついている。
ここが大国バーバレオンとは思えない風景だ。
かつて栄えたようだが、それは迷信ではないかと錯覚してしまうほどだ。
「よし、行こう。正しい道を示せ――《聖道》」
光の魔法の一つだが、発動方法は初級と変わりないが、それ以外が難しいものに分類されている。
本当に望むものを頭に思い浮かべて、それを維持する必要があり、維持のための魔力の必要となってくる。
ソージ達は恐れず、光が示した方向へ進む。
彼らは困難というものを知っている。人間の人生、その生涯で一番の困難と言えば、死闘が一つに上げられるだろう。
つまり、死ぬ寸前の出来事を彼らは今の過程で体験した。
剣技の習得で、剣技の鍛錬で……人間最強と呼ばれるその奇跡をその身に宿すことは容易ではなかった。
だが、決して不可能ではなかった。
それが彼らを苦しませた。人間、いや種族全体から見ても最高の剣技、そして弓技。死闘を感じれば、これまでの死に直面した出来事が思い出される。
氷結の大陸、或いは亡き大国バーバレオンの奥地へと三人は進み出す。
天使の古き宮殿にて神々の話し合いが始まった。
レイムは唯一空いている席へ座り、ジュウロウはすぐ背後に立つ。
「では、レイム・レギレス。私は光の神リリア・レギレス。今回の件を含めて弁明を述べなさい」
「べ、べんめい……」
難しい言葉を使われて三代目光の神の意図がレイムには理解できなかったが「自分の立場を明らかにするための説明です」とジュウロウが小声で説明した。
今回の件とは魔王との争いだろう。
全員が真剣な表情でレイムに向いているため、その空気感に押し潰れそうだが、ここで悪い方向へと流れないようにするためだと自分に言い聞かせる。
「私は危険な存在じゃありません。私はこの力を良いことに使いたいだけです。魔王との戦いだってそのために行ったに過ぎません。もし、啓示の内容が私の討伐なら、二代目様は器が小さいんじゃないですか!」
圧倒的な空気感に対抗するように声を大にして主張する。
「ほう、威勢は良いようね」
三代目の世代、炎の神の二人の内の一人の女性が聞こえるように呟いた。
「……」
だが、レイムには知り得ない存在なため何か反論することはできないが、この場に出席している人物なのだから王家レギレスの関係者であるのは確かだろう。
真紅の長髪、赤を基調としたドレスに身を包み、強かであり、大人びている。
「あら、私のことが分からない? 私はビルア・レギレス。レイスの母、貴方にとっては叔母に当たるわね。領域を任されたものではないけれど、孫の立場である貴方を見定める必要があるから、出席させてもらったわ」
第一印象は予想通り、厳しくキツイ人物だ。
「そう、ですか……それで私の弁明はこれで十分ですか?」
「その高圧的な態度、二代目様を罵倒したことは目に余るものですが、神界で育っていないのだからしょうがないこととします。二代目様の啓示に関しては――」
その瞬間、空気が停止したことをレイムは自覚する。
それは最悪の答えとなることも感じた。
「――正解です。二代目様からの啓示の内容は破壊神の討伐です。私の意見を述べるなら、合理的な判断です」
道理や理屈。
客観的に世界の状況を見て判断し、一つの存在を排除することで身内に存在する敵を消し、後は魔王のみとなる。
個人と世界を天秤にかけるなら、当然の答えであり、無茶苦茶なものではない。
なら、すぐに殺せばいいのでは、とレイムは思う。難しいことより単刀直入な方が分かりやすい時もあるが、無茶苦茶な理論を受け入れるわけはない。
変な理屈を並べるより「邪魔だから殺す」と言われた方がスムーズに戦いに移行するからそっちの方がいい。
「そう、ですか……」
確かに育つ環境で人格が形成されていくだろうが、レイムの目線では向こうは硬い何か、硬い言葉を自分に投げかけてくる時点で相性は良くはなかった。
ジュウロウは怒りを抑えている。
さっきの光の神リリア・レギレスの「神界で育っていないのだからしょうがない」という皮肉についてだ。
だが、レイムが地上で住む判断を下したのは神々であるのだから、その意見は無茶苦茶なものだ。
自分で判断した結果を楽しんでいる。
「レイム・レギレス、あなたに聞きたい。裏切りの神はどこにいる?」
「え――」
真面目な雰囲気はもう慣れたと思ったが、違う波長にレイムは襲われた。
「な、何を言っている? 光の神」
ジュウロウが低い声で光の神リリア・レギレスに問う。
如何に怒りを抑えようと限度というものがあり、何よりジュウロウ・ハリアートは人間であり、容量が超えることは必然である。
その威圧に流石の神々も身体を動かす。
彼は人間最強として一時期は名を馳せており、その時代で領域を管理していた光の神リリア・レギレスはしっかりと認知している。
「ジュウロウ・ハリアート……我々はレイム・レギレスについて正直、何も分かっていない。最低でもこの場にいる全員を納得させる必要があります」
「それはそうだが……」
だが、それでもジュウロウは納得できない。
この状況は行き詰っている。
二代目の神々という世界最高権力者から啓示、それは命令でもあり、破壊神討伐という命令が課された今、弁明だけで逃れられるという保証はない。
だが、それでもレイムは自分を思ってくれている人々を安心させるつもりで口を開き、主張する。
「私はレオン・レギレスの存在については何となく認知できていますが、一切関与などはしていません!!!」
「ほう、やはり何となくでも知っているか……なら、話は早い――」
光の神リリア・レギレスは頬杖をつき、考え込み、空間が静寂とした。
そして――
「破壊神レイム・レギレス、君が破壊神討伐の命令を受けなさい――」
それは予想外の中の予想外だった。
「――君が破壊神レオン・レギレスを討伐するのです」




