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19話 事態と兆し



「とう、こう……?」


 レイムはその言葉が理解できていない。


「投降ですか……」


 ワーレストは冷静に思考を巡らせている。


「投降、だと……何を考えてやがる……」


 ジュウロウは怒りを抑えている。


「まぁ、向こうも冷静に判断した結果だろう。だが、ここでこちらが動かないと計画が歪む可能性がある。だから、こちらは動く――」


 レジナインはそう判断し、伝達魔法でどこかにメッセージを送った。


 するとゴゴゴッと世界の大気が震えている。


「こ、これは……」


 ワーレストは何か起きたのか、すぐに理解した。


「理解したかな。第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアス。あの子は封印されたんだ。まぁ、仕方がない。一人でやるってきかなかったし、何か吹っ切らないといけない細々の理由もあったからね」


 知識の魔王レジナイン・オーディンは血縁関係ではないが、共に生きた弟妹たちを気にかけている長女の側面が存在する。


「この話でやっとエマのようになってくれたから、舐めてかかると瞬殺されるかもよ。さて、投降に従ってもいいけど、こちらからも動こう。端的に説明するとこちらが動くことで状況を操る。討伐か、話し合いか……もし後者なら、レイム・レギレス。君の想いをぶつけたらいい。後は周囲が何とかするだろう」


「え、うん」


 早口だが、理解はできることに不思議に思う。


「お、おい、勝手に話しを進めるな」


「投降と言っても不明瞭な点がある。なら明快な点を進めていき、周りを固める。この私に任せてもらえれば、すぐに神界から降りてこれるでしょう。ジュウロウ、君は主に付き添え、さて、時間なんてないぞ?」


 早口説明だが、理解はできる。が、多くは語らない。


「信じなくてもいいが、ここで戦えば、印象が悪化し、最悪な展開になる。だから従った方がいい。それに当人の口から弁明したら、少しは印象も変わるだろう」


「それもそうだろうが……」


「考えている暇はない、では私は勇者一行を連れて“氷結の魔王”の所へ行きますよ。私がここにいると計画が台無しだからね」


「お、おい――」


「事態を飲み込め、それでも人間最強の男か? 君は主に付き添えばいいんだ。納得できないなら、道中で納得しな――」


 そうしてレジナイン・オーディンはソージ、ソピア、サリアとともに転移魔法で姿を消した。


「んん……では、レイム様。投降に従いますか?」


「うん。レジナインの言った通りにする」


「投降って言っても意見を言えるかどうかも分かりません……なのに……」


 ジュウロウは苦みを噛み締め、意見を押し殺す。

 主に仕えている以上、いや、自分を救ってくれた破壊神に忠誠を誓っている以上、反論なんてできるはずもないし、彼女が自ら決めたことなら尚更だ。


「ジュウロウ、私も不安だよ。でも、行くしかない。ここでじっとしていたって何も変わらないよ。だから一緒に行こ」


 レイムは玉座からジュウロウに手を差し伸べる。


「はい、了解です。このジュウロウ、どこまでもお供いたします。最破筆頭としての責務を果たします」


 投降者はレイムとジュウロウのみ、ソージとソピアとサリアは“氷結の魔王”の場所へ、それ以外の最破達は領域の防衛に徹底することとなった。


 ただ、やるしかない。やるしかないのだ。






 かつて領域外で繁栄した大国バーバレオン。

 南側を進み、海を渡った場所に位置する一つの大陸だ。

 その規模は神々の領域内に存在する中心国と同等の国家であり、世界の歴史を学ぶ上で必ず大国の話が出てくるほどに国家関連では有名な話だ。


 まず有名になる点として通常、神々の領域外は魔物が出現するため、領域内と外では危険性が桁違いであるため外に建国するなんて異常だと言われるほどで大国バーバレオン以降は国家というものは領域外に存在していない。


 その最大のきっかけは大国バーバレオンが滅びたことだろう。

 その原因は最古の魔王等に異を唱えたことだろう。客観的に見れば、調子に乗ったのかもしれない。

 現在、大国バーバレオンの風景は氷結の世界だ。

 当時、ネルトシネアスを治めている第五位“繁栄の魔王”マリテア・ヴィティム、天空を支配し始めた第四位“滅空の魔王”リビル・リグレウス、支配領域を持たず、研究を続ける第三位“知識の魔王”レジナイン・オーディン、第一位“大魔王”は神々と睨み合っている状況であったため、最後の一人、第二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアスが対応した。


 しかし神々のこともあるため初っ端から手を出すことはせず、様子を見ていたが、何もしないことをいいことに国内で魔王を罵倒するなど声を上げ、挑発し、更に各種族にも魔王勢力を殲滅する話を提案するまでに至った。


 歴史上では先陣を切ったということになっているが、当時は完全に調子に乗っていた。

 その大陸の規模はシズゼリア以上の範囲であり、完全に治めることはできなかったが、バーバレオンは大国を呼ばれ、歴史上であの規模の国が最大にして繁栄した最高の国と呼ばれている。


 だが、突如、それは起こった。

 大国の中心にそびえる居城の天空に暗雲が立ち込め、そこから一本の槍が落ちる。


 その冷気が溢れる一本の槍を阻止することは出来ず、城の屋根を貫き、城の内部をそのまま大地へと突き刺さった。


 その瞬間、一瞬にして首都が氷に包まれた。

 まず自身の力の一端を見せつけ、大国及び大陸に存在する生物を滅ぼし、その出来事だけで第一位“大魔王”に次ぐ脅威であることを第二位“氷結の魔王”は全世界に知らしめた。


 彼女が振るう氷結の力に飲み込まれたものは永遠にその形を保ち続けている。

 それは魔王にとっては脆く、儚く、花のない産物。


「……ということだ。レミナス、準備はいい?」


「あぁ……面白いね。で、世界を支配すると?」


「……正直、あの人は何も言っていない。最近は司る力に飲み込まれているのか、反応が薄くて……」


「ふん、そもそも何も命令なんてしてこなかったよね」


「あぁ、私達の好きなようにしろと言っているだけだからね。エマも先のことを気にしていたよ」


「だろうね。あの子も楽しみが続くわけじゃないし、あの大戦から少し何かが傾いたからな」


「このきっかけで、あの子も何か変わればいいけど……」


「うん。きっと大丈夫だ」


 レジナイン・オーディンは純粋に家族の心配をしていた。

 最古の魔王は生まれた時から強大な力の兆しを感じ、身体の成長、精神は遥か昔に成長を止め、彼らの形は成長しきった。魔王の体感時間は神のように千年が百年くらいに感じているが、彼ら、主に第二位と第一位が生きる意味……いや、少し考え込んだのだ。


「この衝動は生まれつきだ……」


 と、レミナスが呟いた。


 最古の魔王である彼らは生まれた直後から自分の行動原理、世界征服という彼らが掲げる目標、そもそも彼らが魔王と名乗ったこと……全てに起因する衝動。


 それは『支配』という要素だった。




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