158話 空と間と時
測定は完璧、レイムが望んだ結果は相手の死ではなく、戦闘不能に陥るほどの損傷である。ただ敵を打倒する、薙ぎ払うことは出来るが、レイムがこの戦闘の後に欲しているのは相手が有する情報だ。
それを望む結果を確実なものへと近づけるためにもう一つの神器である《破神槍ルークラガ》を加えることで魔力と共に発射される弾丸の代わりとなった槍はレイムと同等の存在であろうと簡単にはその速度には慣れることはできない。
黒い槍が音の速度に達するのは人間で言うところの二歩分ほど、光の速度には達することはレイムの許可、意思が必要だが、常時の速度で光速に次ぐ性能を持つ槍を初見で見破ることなど絶対に不可能だ。
そしてレイムが定めたのは急所、弱点と言える心臓の真隣。急所を敢えて外すことで生かす、更に全身に【終焉】が帯びた魔力を浴びる。
これで戦闘不能に陥らなくとも、必ず起こるのが、大きな隙。そこにレイム本人が畳み掛ければ、事は上手くいくだろう。
そして銃の引き金を引くように大剣の柄に握る手を今より少し強めることで刀身に込められた魔力、それに浸した槍を撃ち出す。
ゴウッ――と、槍が進む地点から空間が歪むことで槍が進むという単純な現象が単純なものではないことを物語っている。その内部には槍という細長い質量の形、それ以上の質量を伴うほどの魔力が込められているのだから……。
ダドンッ――と、硬く重い音が生じたが、それを聞いたのは発射する本人であるレイムのみ。
自立して進む機能を持った《破神槍ルークラガ》に【終焉】の魔力を乗せたことで通常より加速は早く、自律行動の最大の加速に至る時間も短く、通常の最大加速よりもっと上の速度へ到達したのはレイムとルエナールの丁度、真ん中だった。
計算する行為はレイムでもできるが、自分より完璧に近い正確な計算を瞬時に叩き出せることができる『万象神冠』を用いて実行した事は、レイムが望んだ通りになる。
やった――と、レイムは勝利を確信する。
――ブゥン……
何かが、震えた。
それは何かが震える音、に似ていた。
この世界の娯楽の一つ、音楽。その中にあった弦楽器、張りつめた弦、糸? そのようなものを好奇心から試しにビンッと一回鳴らしたような低い音。バイオリンよりもっと大きなものから鳴っていたものに似ていた。
そして――万物が流れる事象である『時』が止まった。
――え?
いや、正確にはその半分と言ったところだ。
レイムはふと、自身に時間停止の効果が見舞われたのだと感じた。
だが――
《解析――強力な空間支配、物体の固定。空間系でありながらも、時間系も含まれています》
そう、今もレイムは脳内で思考を描くことができ、自身の内側に存在する能力の一つ『万象神冠』もいつも通りに動いている。
しかし自分の身体は動かない。
その他に自分から溢れ出す魔力、撃ち出した槍と魔力、ルエナールが行使した現象、その全てが止まっている。
それは風景の一角のその一瞬を記録する写真のようで、だからこそレイムは時が止まったと感想を漏らした。
これは時間停止なの――?
《解答――時間停止ではありますが、意識のみは時間の停止から除外されており、反対に意識以外の全ての時間が停止しています》
今の状況は身体は動かないが、思考は回り、視界は薄っすらと見えるだけで大半がモヤが視界を埋めている。
レイムの能力『万象神冠』は普段の動きとしてレイムの意思、命令に従って事を実行するが、意思疎通ができる『万象神冠』の行動範囲はそれだけではない。
それは解析、何かを調べる、何かを計算する、何かを導くということに関しては最高位に位置する能力であるため、それ以外も察して主であるレイムのために動く。
だからこそ、この特殊な時間停止が発動されたと同時にその存在、効果の詳細を完全ではないが、把握し、まずは自身が動けるようにと抵抗した。
もし、それが間に合わなかったら、完全な意識ではない能力『万象神冠』は動きが完全に停止してしまうだろう。
そうなってしまえば、主であるレイムは無抵抗のままとなってしまう。
『特殊な時間停止、その詳細はもう既に解明しているでしょう。流石ですね、レイム・レギレス様――』
優しい囁き、そんな声色が止まっているレイムに投げかけられる。
この特殊な時間停止は『意識』以外の時間を停止しており、視界も機能しているようで機能していない。
しかし少し経って目の前に誰かが現れた、のかも……。
今、自分という要素の中で唯一、動いている『意識』が目の前に降り立った別の『意識』の存在を知覚した。
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