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153話 月海に漂う少女③

 黒い少女は駆ける。

 彼女が持つ得物の重さは大岩ほど、最高ランクの神器。剣であるが、剣の腹での防御性能はそれ特化の神器と遜色ない、それによって魔力で強化された少女の腕力、刀身に魔力を乗せた剣撃は同等の存在でも脅威と認識する。


 そんな得物《終焉剣フィーニス》を構えながら、上空へ飛び立つ。

 それは天に登る漆黒の星――ルエナールが大鎌で指したレイムにキューブが迫る。


「ハァァァァァッ――――!!!」


 半透明のキューブである〈月界空箱ムーンボックス〉が迫り、そのタイミングに合わせてレイムは大剣を振るい、斬撃を放つ。レイムが定めたタイミングとは、キューブの対策として斬撃を変わりに閉じ込めることで身代わりにして着々とルエナールに接近する。


「ムダぁムダぁッ!!!」


 レイムはキューブと接触する度に大剣を振るい、自分が閉じ込められることを防いでいるが、それでも勢いは止まることはなく、むしろ加速している。

 その光景をルエナールは冷静に眺める。

 流石にルエナールも〈月界空箱ムーンボックス〉で止められるとは思っていないため、次の手を打つ。


「――〈銀帯大波ムーンライトサージ〉ッ!!!」


 大鎌を振り上げて思い切り、空を斬った。

 その瞬間――振り下ろした地点に銀色の光が瞬き、ルエナールの前方、いや前面に無数の淡い銀色の斬撃が発生し、海の大波のように下へ流れる。


「えッ――――」


 レイムは素直に驚いた。

 そこに光はなかったが、ルエナールの出力によってあれが顕現し、レイムは一瞬にして飲み込まれ、空間支配の領域内部は銀色の光に満ちた。

 ガリガリガリガリッ――と、その斬撃の一つ一つは当たってもかすり傷程度であるが、展開された圧倒的な数によって小さな攻撃をレイムは浴びる。

 小さな斬撃の物量によってあっという間に地面に接近するが、途中から《終焉剣フィーニス》の刀身の腹で防御することで止むまで耐える。


「ん、これ……」


 レイムは落ち着くと間違いに気付く。

 この銀色の斬撃はただ自分と同じように魔力のみかと思ったが、それにしては発生している威力と出力した魔力量と同じにならない。

 能力の運用という個性が出る工程を抜きにして単純に魔力という燃料が多ければ、威力は上がる。今回なら、威力というより距離を開けるためとして斬撃の数を多くしたのだろうが、それでも今の斬撃の魔力量とレイムが見た出力した魔力量では釣り合わない。

 出力したものが少なすぎる、それがレイムの驚きだった。


 そして自分の肌で感じ取った結果、空間属性が含まれていることに気付いた。


《解析――ここは敵性体ルエナールの空間支配が施されている範囲、ならば空間操作を可能として空間属性を摘出して斬撃を構成する魔力と混ぜたのなら、出力した魔力量と発生した斬撃の魔力量が比例しないことにも説明はつきます。マスター


「へぇ~、でも出力の話しだとあれが限界じゃないみたいだし、空間操作はいいレベル……面白さがアップだね」


 斬撃が止み、再び、上を向いてまだ自信は消えず、ふふん、と鼻を鳴らしながらも、レイムは思考を巡らす。

 最初から空間支配が基本的である能力の性能、そして自分よりは少ないながらもエマと同等の魔力量、その存在規模から権能の種類は多く、空間支配を基本として主に空間系を混ぜたものになるだろう。


 さっきの〈銀帯大波ムーンライトサージ〉で上空に浮遊していた〈月界空箱ムーンボックス〉もレイムと同じ高さで浮遊している。

 この状況、確かに面白さはアップしたが、レイムの嫌いな要素も感じる。


「でも、面倒くさいな、それ――」


 正直、厄介だ。

 総合的な評価では余裕で格下だ、ならば余裕で打倒しなければならない。失敗すれば、長期戦になることを理解したレイムは集中力を高める。


 そしてここで真剣な表情を浮かべて、大剣を構える。


「お前の全てを折ってやる――」


「――〈月界空箱ムーンボックス〉、解放リリース


 そんな怖い言葉を呟いたところで〈銀帯大波ムーンライトサージ〉に押されたレイムの斬撃を閉じ込めた〈月界空箱ムーンボックス〉が解放され、空間支配の領域下部は黒い極光で満たされた。


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