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14話 二柱の魔王③



「ぐふッ……」


 枯れた大地に【破壊】が満ちた。

 それによって大地が潤うことは決してなく、ただ形の崩壊を招いている。

 最古の魔王の一人、“滅空の魔王”リビル・リグレウスは膝をついているが、身体は地面にへばりついている感覚に陥っている。


 ――『滅空神冠ギヨンイム


 彼の本能は身の危険を感じ、全身に広がる悪寒とともに能力を解放した。

 だが、タイミングが悪かった。天空を即ち空間を司る神の力を発動したが、威力の大半を防ぎきれずにダメージを負ってしまった。


「ははッ……」


 久々な傷、痛み、自分の命が脅かされる感覚が確かに刻まれた。

 天空の支配者、或いは“滅空の魔王”リビル・リグレウスは翼もなく、空間を駆け巡り、他の四人の代わりに天空を支配した男だが、天空とは反対に大地に跪いている。


「皮肉だな……それほど、か」


 それでも最古の魔王である彼は自分から溢れ出る魔力で自己回復を行う。


 あれほどの数の魔法陣の展開。

 当然、魔力量に比例して連鎖的、大体の感覚で展開し、瞬時にその全てに魔力を充填するレベルの高い魔力操作。

 大規模の範囲を殲滅したというのにレイムの魔力反応で捉えられる総量は減っているかどうか不明なものだ。


「未熟と聞いていたが、威力は絶大だ――」


 レイムの大規模殲滅攻撃によって大地が削られ、土煙が舞い上がって上空を確認できないが、膨大な魔力反応と影がリビルに迫ってきた。


「――ハァァァッ!!!」


 上空から猛スピードで降下してきた少女は漆黒の剣を振り下ろす。

 レイムの攻撃をリビルは上手く反応し、頭の上に槍を横に構えて防ぐ。レイムとリビルの違いは単純な体格、筋力がある。

 しかしレイムの方は魔力による身体強化と能力の権能で補っているため、戦闘能力は互角かもしれないが一方は戦闘経験の差が明確に違う。


「くふッ――」


 この戦いは面白い、とリビルから笑いが零れた。

 近接戦闘では戦闘経験が豊富なリビルが押す。漆黒の穂先が正確に少女の胴、腕、頭を狙う。

 もう能力を解放した両者の身体能力は常人の肉眼では追えることは不可能で何が起きているか分からない域に達している。

 二人が一歩も引かないのなら、戦いはそれまで続く。


 天候はさっきの大規模殲滅で荒れ始め、リビルは自分が有利になる空中戦へと持ち込む。


「どうだ、どうだぁ!!」


 ドドドッと相手に突くというランス武器の優位性を活かしてレイムの身体を的確に狙って突進する。

 まるでそれは激流を登るようにレイムはリビルに押されて天へと昇る。


 そんな最中でもリビルは考察する。

 レイムの能力は【破壊】であり、持ち前の魔力量を湯水のように扱い、火力や規模の向上に用いている。

 ここまでの判断としてレイムの能力は近距離、遠距離ともに絶大だが、今の戦いで分がありそう、いや差を示せるのは近距離だ。

 自分の戦闘スタイルと能力を用いれば、【破壊】と十分に渡り合えるだろう。


 あっという間に上空へ、暗雲に届く高さまで上昇し、近接戦闘に分があると理解したレイムは大きくランスを引いたリビルから一端、引こうとした。


 その動きを読まないなんてことはなく、リビルは少しの溜めの後、ランスを突き出した。


 ――『名前を呼び、価値を証明する』


「滅空槍《空間螺旋断槍ギリニヨン・ランス》――」


 リビルの腕を伸ばし、射程距離限界まで突いたランスの穂先はレイムの寸前で止まり、当たることはなかった。


 だが次の瞬間、レイムの腹部とランスの先端の間の空間が歪み、螺旋を描き、穂先を覆う。

 ズンッ――

 物体のない空では【破壊】のような派手な轟音はならないが、無色な質量に押された音は放ち、受けた二人には確かに聞こえた。


「があッ――」


 初めて受けた攻撃の比ではない。

 それを理解したのは全身全霊で魔力を纏い、威力を削ごうとしたが無理、間に合わなかった。

 そのままネルトシネアス唯一の国家を超えた景色の変わらない不毛の大地へと墜落した。

 数度、身体を強く打ち付けるが、それ以上に腹部が痛い。


 そして一瞬、気を失った。


「うぅ、ぐ……」


 レイムはゆっくりと起き上がる。

 服はボロボロになり、身体にも擦り傷が出来ている。神であるレイムだからこれで済んだが、種族ならただでは済まなかったし、死亡する可能性も十分にあり得る。


「あれは……」


 さっきの攻撃は知っている。

 二度見た光景だったが、威力が段違いだったことが戦闘をしているレイムの脳内に浮かんだことだ。

 レイムはその違い、仕組みを知っている。

 自分はいらないと思って、その使い方はしていなかった。


「ぐはッ……」


 身体が軽いと思ったら、腹部は貫通していた。

 痛い、が瞬時に自己再生が行われるが、自身の魔力で行う回復は治癒魔法などと同等の性能だが、魔力を消費することには問題はないが重傷を負ったレイムを完治させるには少し時間がかかる。


「どうだ、俺の攻撃は?」


 いつの間にか、リビルは大地に足をつき、ランスを肩に乗せてレイムを見ていた。


「ん、身に染みた……」


「お前は使っていなかったな。それを予想するなら【破壊】だけで足りると思ったんだろう?」


「うん……うぅ、油断だった」


「いや、その歳で俺と互角で近接戦闘を熟し、それにあの大規模の殲滅が出来るなら事足りると思ったのは当たり前だ。それを判断したのはお前が未熟で、それが必要だと経験していなかったからだ」


 大人だ。

 それがレイムから真っ先に出た感想だ。


「でも、知っていた、だろ? 能力、武器、攻撃の三つの大切さを」


 それは『能力』を宿した者が感覚的に理解する能力の常識。

 それは主に《能力の名前を呼び、内包する力を解放する》こと、一つは《武器を作成し、名前をつけることで出力しやすくする》こと、一つは《攻撃に名前をつけ、能力のバックアップを受ける》ことの三つがある。


「うん……その『名前を呼び、価値を証明する』……この差が重要なんて」


 レイムが押された原因は経験不足、未熟だったからだ。

 能力の常識の一文として『名前を呼び、価値を証明する』という意味はリビルの一度目と二度目の螺旋の攻撃で証明している。

 名前を呼ぶか、呼ばないかで威力の差は一目瞭然だ。

 能力から出力して、既に存在しているものに価値を見出すにはどうすればいいか、それは名前を望んだ。


 能力の発動時、神器を扱う時、攻撃を放つ時、全てにおいて名前は必要とされる。


 それに名前をつけ、使用者が呼ぶことで最後の証明に至る。偽物と本物の違い、名前の有無で、それは確かに存在が証明される。


「そう、わかった……」




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