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147話 影月は沈む



「よぉ、自分の血にまみれている感想は?」


 木材で建設された建物、『唯一者』ジュウロウ・ハリアートと対峙するために用意したものだったが、異様な静寂に包まれている。十番隊『暗黒満月』の隊長、ルリ・ギウナはジュウロウに斬られ、血を流しながら倒れているが、微かな呼吸音だけがあった。


 その場に一人の男、が現れ、ルリに楽しそうにそう呟いた。

 いや、黒髪、赤眼に金色が混じった瞳、美青年は縁側に胡坐をかいて座る。


「ッ…………グ、ラス様」


 もうすぐでこと切れそうな声がルリから発せられた。


「あぁ、俺だ。結果としてはまずまずだが、修正点はない。これで次の段階に移るだろう」


 悪の組織の精鋭部隊の隊長たちは上層部『機密王冠セクレタム・クラウン』の一人である王と対面している。

 そのためか、随分と砕けた会話をしている。が、それは上層部であり、王の一人であるグラスことグラスヴェルガが一方的に接しているだけで相手側は敬語であるのが、証拠だろう。


 だが、そんな砕けた口調は変わらず、その雰囲気がガラリと変貌し、意思ある者に重圧を齎す威圧を発する。

 だが、それはある意味、本物ではない。

 ただ彼からしたらただ声色を変えただけなのだろうが、その覇気は容易に色を変えている。


「で、お前はどうする? あの『唯一者』に斬られて生きているっていうことは、そうゆうことなんだろ?」


 あの『唯一者』ジュウロウ・ハリアートは手加減をしていた。そうでなければ、即死、身体は細かく分割されていたか、無に帰していたはずだからだ。

 あれほど手加減の差が容易に理解できる存在も珍しいが、グラスヴェルガは見慣れている。

 ジュウロウ・ハリアートがルリ・ギウナに与えた斬り傷は本気と比べれば、浅いというべきものであったが、それによってルリは身体に流れるほどんどの血液が外界に巻き散らしてしまった。

 その状態でそのまま何もしなければ、能力を持っていたとしても出血死となるだろう。

 だが、しかしこの計画が終了してもルリ・ギウナは生きていた。


「ッ…………」


 王の問いに沈黙する。

 王とそれ以外、その地位は隔絶したものであり、どの世界においても無礼に値するだろうが、グラスヴェルガは軽く鼻を鳴らす。


「ふん、理由はないか……まぁ、どの道、計画は順調だ。分かるか? この計画は成功しようが失敗しようが、俺達から、上層部からしたらどっちでも良かったんだ」


「え……」


 それは予想外すぎる内容だった。

 悪の組織『混沌神殿カオス・システム』の上層部『機密王冠セクレタム・クラウン』が立案し、立てた計画で何段階目かの今回の計画。

 その内容、その全貌を知るのは『機密王冠セクレタム・クラウン』のみであるが、精鋭部隊にはこれ悪の目的を成就することができる計画だと知らされていた。

 そんな大事な計画に対して軽い気持ちで述べた言葉、それと自分達は最初からどうでもいいと間接的に知らされたことにルリは疑う。


「ん、別に驚くことはないだろう。この環境の過酷さは知っていたはずだ。失敗すれば、ゴミのように捨てられるし、成功すれば、それ相応の地位を約束する。俺達は嘘などついていない。今回の計画はお前達、十番隊の戦力を分析した結果、俺達の予想通りに『失敗』へと行きついた。これで計画は次の段階へ進める」


「し、失敗する前提だった、と?」


「あぁ、もし、レイム・レギレスを封じられたら、大首領、師匠にそれを送る手筈だったが、レイム・レギレス側と十番隊の戦力を考えれば、一目瞭然だったがな」


「…………」


 分かっていたはずだが、万人が『真実』というものをガラス越しで見ていたとしてもそれは違うと現実逃避をしてしまう。

 その『真実』を本当のものとして認識するのは本当に自分に突き出された時なのだ。

 それは客観的に見たグラスにとっては何とも無様なものに映る。


「さて、お前の意思を聞こうか? なければ、お前という存在は利用させてもらうが、考えてみろ――自分がなぜ、ここにいるのか」


 その赤い瞳は血を流したルリ・ギウナに強い目線を向けた。






「ごはッ……あぁ、クソ――」


 照応領域の一番の外側。

 あの灼熱地獄を耐え、ただ守りに集中して地面を転がり続けた。吹き飛ばされた移動速度から対峙したエマは消えたと思っているか、瀕死だろうと考えて追撃はしなかった。

 あれはただの魔王の気まぐれ、そんな幸運にシリウスは恵まれたのだ。

 だが、その結果……世界系、身体強化型〈座標の世界〉によって灼熱を軽減できただろうが、それでもシリウスは大ダメージを負った。


 これは生きているのが奇跡と言っていいだろう。何とか生き残ったシリウスは崩壊した建物の影に隠れ、壁に背中を預け、ずるちと座り込み、息を整える。


「ちょっと――」


 自分を落ち着かせようとした時、女の声がした。

 その方向を見ると第十位、ユリナがいた。何となくだが、ここにいるということは自分と彼女以外は死んだとシリウスは悟った。


「はは、お前は生きているのかよ。意外だな……ルイカは、いねぇか……」


「みんな、死んじゃった……でも、私たちだって――」


 青い長髪を一つに結んだ少女は悟っている。

 自分は生き残ったが、計画が失敗した。なら、自分達が生死関係なく、任された十番隊『暗黒満月』は用済みとされて解体されるだろう。


「ねぇ、あんたは誰かに殺される方が似合うと思うんだよね~」


 彼女は所謂、不適合者。

 それは無論、『邪悪』に対して順応できていたのか、いや――這い上がろうとして順応は出来なかった、今回の十番隊のほどんどに共通している欠点だ。

 瞬時に自分の今後を悟ったユリナは狂い始め、刀を抜く。


「……はは、よいっしょ」


 妙に冷静なシリウスはユリナがこれから何をしようとしているのか、すぐに理解して壁に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。

 自分の力を回復に回しているが、まだ奥底の損傷が治っていないため、痛々しい外見で本当に余裕はない。


「ってか、お前……ダメージっていうダメージ負ってねぇとかふざけてんだろッ」


 それはちゃんと仕事をしていないことになる。

 だが、物理的ダメージより精神的ダメージをユリナは負っているようだ。


「だが、いいだろう。お前も神クラスの能力を得ているんだから、取り込んで力にしてやるよ――」


 シリウスは《座標長銃エルテ》をユリナに向け、一触即発の状況で二人の間に漆黒が現れた。


 その存在は少し狂っている二人を強制的に冷静なものへと鎮静化させた。


「ふん、お前達はまだ生きるさ。やる気があるなら、俺についてこい。上層部から新たな指令を受け取る前に俺が鍛えてやる――」


 冷たいが確かに気持ちが存在している声、生きたいという気持ちがあるシリウスとユリナはただ従うしかなかった。

 そう、生きるために――






 虚空に浮かぶ一つの高層ビル。

 その最上階、社長室である広い空間、床は艶々な黒い石材、入り口側の側面を除き、三面はガラス張りであり、その空間は暗雲が渦巻いている。

 その空間の中心には床と同じ石材で作られた長机、奥に一席、左右に三席ずつ、合計七席がある。

 それとは別、更に奥に社長の机と椅子、そこに座るのは漆黒の長髪、水色の瞳の美少女だった。


 そしてこの空間の入り口が開き、美青年が入室し、美少女から見て、左側の三席の奥に座った。


「はぁ~……十番隊『暗黒満月』の生存は三人、それ以外は死んだ。能力の回収はなし。修正点はなしだ」


 その口調は非常に砕けている。

 空間の位置からして美少女、彼女の方が立場は上だと思われるが、実際は同じ上層部『機密王冠セクレタム・クラウン』のまとめ役であり、上下の差は存在しない。

 それに黒い髪という共通点、会話の距離間から二人は肉親、姉弟である。


「ふぅん、それが報告ね……分かったわ。そのまま大首領アーヴァル様に伝えましょう」


 やり取りは文通、すぐに白紙に記していき、数秒の間で報告書をまとめて転送し、グラスヴェルガに目を向ける。


「そうそう、グラス。あなたの評価を聞きたいわ。最重要人物レイム・レギレスはどう?」


「……あぁ、救世主の再来。でも、今までの奴等より強大だ。『唯一者』が従えているのは心星結社と同じだが、師匠が定めた存在だ。性能が桁違いだ。姉貴、これはやれるぞ」


「ふふ、そう――では、私達に来るまで楽しみにしておきましょう」


 そして向こう側からこの場の二人に一言、通信が入る。


 ――『計画を次の段階へ進めよ』


 と、大首領アーヴァル・アルゲージュインから一言、伝えられる。


 悪の組織『混沌神殿カオス・システム』の上層部――首脳部『機密王冠セクレタム・クラウン』の構成員は七名であり、その中にアーヴァルは含まれていない。

 それは大首領アーヴァル・アルゲージュインの下に首脳部『機密王冠セクレタム・クラウン』が位置しているからだ。


 その七名のうち大首領と同じく“アルゲージュイン”の名を冠するのが後継者と呼ばれている二人の姉弟だ。


“第一の王にして真偽の理”フランチェスカ・アルゲージュイン

“第二の王にして偽善の理”グラスヴェルガ・アルゲージュイン


 他、五名――命獣の頂点、盗みの魔王、摂理の使い、創作の君、万物の姫。

 悪の組織は情報管理を徹底し、誰も悪の組織の動きを読めるものはいない暗躍と複雑な計画という特徴があるが、首脳部の七名は存在が大きすぎてある程度、存在が割れてしまっているため、計画の真実など漏らしていないが、遊び感覚で表舞台に顔を出す。


 まぁ、正確には国を治めている命獣の頂点や行動が活発的な盗みの魔王は存在が明確に認知されているが、暗躍が上手い創作の君、意図的に存在を隠している後継者二人、出番があるまで大人しくしている摂理の使いや万物の姫。


 正直、チームワークはどの精鋭部隊より良いと全員が共通の認識としているだろう。


 良い知らせにグラスヴェルガが笑う。


「はは、ではこの調子でやろうかね。悪の計画を――」


「そうね。師と同じくアルゲージュインを名に持つ後継者として恥じない働きを、そして我が悪の目的の成就を――」


 これから動きは大きくなるだろう。


 なんたって宇宙を支配する計画なのだから――




これにて第三章『影月戦争』編は終了です。


ここまで読んでくれた読者のあなたに感謝を――


【★面白い!続きが気になる!!と思われた方は『ブックマーク』や下にある『ポイント評価』をしてくれると執筆の原動力に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!!!★】

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