146話 第二位・人中手神②
《主よ、申し訳ございません。すぐに対応します――》
その言葉のすぐの後、頭痛というものは消えていた。
「うぅ……あれ」
一秒前が嘘のような感じにレイムは陥り、ふと声が漏れる。
《対応完了――主よ、出力の設定を……》
「……私の力なら、意思を汲み取ってッ!!」
あの頭痛のせいで【終焉】と魔力操作の維持が不十分となったため、意外にも切羽詰まっているため、投げやりにそう【万象】に注文する。
《――了解しました》
ただその言葉には音の他に意思があった、だからか【万象】は瞬時に不十分となった出力を元に戻し、地面と接触する前に大剣《終焉剣フィーニス》を下に敷くことで落下から保護して自動的に進む。
「ん、これが……ありがとう」
これが『万象神冠』のおかげなのだと理解して寝そべっていた体勢から立ち上がり、スケートボードの要領で魔弾を回避しながら、ロアの方向へ向く。
だが、ロア側も時間はなく、もうすぐピークというものが到来する。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ロアの咆哮。
それに呼応するようにロアの真下の地面が盛り上がり、そこから全方位に触手を伸ばすように奔流が周囲に発生する。領域権限による地形操作で川の流れ、その奔流が地面から浮上した。
それは渦巻き、龍の如く、ゴリゴリと音を立てて、ミキサーのような先端が襲うが、レイムは《終焉剣フィーニス》に乗り、華麗に避ける。
広範囲、正確性は確かだが、その家事は多くはなく、レイムは着々とロアに近づいていく。
「グググッ――〈念動の世界〉ッ」
遂にロアは世界系を発動した。出し惜しみなどしている状況ではなく、この状態を長く維持することは出来ない。
《敵性体ロアが世界系を展開――敵性体の状況から時間経過で自滅。しかし同時に照応領域が敵性体ロアの領域自体の酷使によって崩壊と化す可能性大》
『万象神冠』が瞬時に状況把握し、レイムに報告する。
《解決方法、《終焉剣フィーニス》による神器解放で生じる威力で敵性体ロアを消滅可能です――》
レイムは少し考える。
自分で考えることは得意、というより苦手だが、すらすらと説得力のある解決策を出してくれることに少し違和感を抱くが、状況が状況なため、それに従うことにした。
「じゃあ、行くよ――!!!」
レイムは速度を上げてロアに近づく。
ロアから流れ出ている力の波動は大渦を成している力場に躊躇なく、レイムは突っ込んだ。
《解説――存在に意図的な暴走状態と化す薬品。その効果として能力出力、魔力量が一時的でありますが、飛躍的に上がっています。敵性体ロアの現状から予想演算した結果、ピークが数秒後に訪れます。タイミングを指示――》
その力場は一種の重力圏だ。
その内部はロア以外の全てのもの重力とは違う力が加えられ、その全てが敵に向くという絶体絶命な空間。
世界系、領域環境型である〈念動の世界〉による性能の底上げと暴走薬と加算されたことで本来ロアの実力以上のことを今、成しているということだ。
「レイム・レギレスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」
ただ一点、敵であるレイムの方だけを向いている。そう、これは一対一、正真正銘の決着であることをお互いが理解しているのだ。
今のレイムは覚醒による負担で『終焉神冠』の世界系を展開すると『魂』に大きな負担が掛かってしまい、戦闘は続行不可能まで疲労が加速するだろう。覚醒によって存在の性能は向上したが、それが発揮されるのは覚醒時に生じた存在の向上、その反動が完全に発揮することはできない。
だから戦闘時に成長である覚醒をすることは良いことだが、同時に危険である。自己の向上によって『魂』に負荷をかけたことで元の能力でも万全から少し下がってしまう。
その戦いが完全に互角なら、昇華された能力で押すか、それとも隙を突かれるか。
しかし覚醒などそう何度も起こることはないし、人生に一度くらいであるため、能力関連に関して常識の隅っこのことだが、今は覚醒したレイム、暴走したロアとお互いが新たな事象が加算されたことで戦っている。
少女は飛び、その頭上に両手を伸ばし、《終焉剣フィーニス》を引き寄せ、強く掴み、魔力を流す。
「ロア、お前が突っ走るなら、私もみんなのために――フィーニスッ!!」
「来い、レイム・レギレスゥゥゥゥゥッ――――」
ロアは剣を上に掲げ、大気の魔力が刀身に集約される。白色の魔力が極限まで蓄積し、世界系である領域環境型〈念動の世界〉の恩恵によってその規模は瞬きの間に巨大化、膨張していく。
だが、あれはもう維持は出来ておらず、本体と同じく暴走している。
あれはレイムにとっても――
「――――《この手剣、全てを掌握する児戯の力》ッ!!!」
《警告――敵性体ロアから生じる出力が向上し続けています。これが領域に命中すると領域の崩壊に繋がります》
今、壊されたら、大元の世界である地球にも確実に被害が出てしまう。
「それを消す――」
そう決断し、レイムは神器の力を解放する。
「――――《彼方へ駆ける漆黒の光は万象閉ざす終の星》ッ!!!」
お互いが振り上げた神器を振り下ろした。ロアからは白い光、それを迎え撃つのはレイムから黒い極光が放たれた。
その脅威度はロアより白い光であるため、レイムは敢えて白い光に魔力を当てた。
二つの光、双方の力は拮抗などしていなかった。
白い光に含まれている【念動】と黒い光に含まれている【終焉】という概念対決ではレイムの方が圧倒的に勝っており、暴走によって出力が爆上がりなものでも『終わり』という無に帰され、レイムはそのまま力の限り、剣をロアまで振り下ろした。
ドゴォォォォォッ――――
無理やりの対策と高出力の衝突によって強い衝撃波が発生するが、それに抗ってレイムは走り続ける。
それはまだ敵は倒れていないから。
一瞬、倒れそうになるが、踏ん張り、再び、剣を上げようとしているロアがレイムの目に見えたのだ。
「ッ――――」
そして大剣をロアに突き刺そうとした――
《報告――その必要はないかと、主の御心から推測するに、その追撃は不要かと申し上げます》
少し熱が入っていたのだろう。
能力『万象神冠』の声で熱が冷め、冷静に目の前の事柄を見る。
そこは二つの力が衝突して逆に真っ白になっていた。
「くッ……はッ、ははは――――」
全身が焼け、紙が燃えて塵と化すようにロアの身体も周りから少しずつ解けていく。
それを理解したロアから乾いた笑い声を発する。
「こ、れが……終わり、か……」
その『終わり』とは、戦いの終わりであり、人生、自分という命の終わりである。
「あぁ、これで終わりだ。何か言い残すことは……それと何か情報を」
「はッ…………持っているわけねぇだろ。与えられたものは失敗した計画、もう使い物になんてならねぇ。悪の組織はお前等が想像している以上に掴みにくい、特にこの計画に関しては、な……」
「……悪の組織の規模、戦力は?」
「ふふ……善なる組織より、上っていうことくらいか……」
「目的は?」
「…………宇宙の掌握、だろ。宇宙の悪が考えることなんて――」
《報告――敵性体ロアの記憶から事実であり、有益なものは存在しません》
本当に価値のある情報など持っていないようだ。
なら、別のことを聞いておきたい。
「満足、なわけないでしょ?」
「あぁ、そうだな……そもそもが間違っていたなんて自分で思ったら、自殺行為と同じだって思っているくらいにな――」
そう吐き捨てる。
それは自分自身に対しての最大の皮肉だと理解しながらも、それこそが最大の不満であり、過ちであったのだ。
今までも自分の行いが無意味だと認めたくなかったが、事実、そうなのだ、と――
「でも……戦う者としてこの終わり方は……華々しいって、いうのか、いいんじゃねぇの。きれいさっぱり消え去れば、今後、利用されることはないだろうし」
「……そう」
「同情なんていらねぇよクソ……お前は勝ったんだから、何か決め台詞的なものを最後に私に行ってくれよ――」
それはまるで親しい誰かに送り出してもらいたいと言っているようだった。
いや、言葉は違うが、それが本当の意味だろう。
何か、とレイムは考えたが、自分の動機である『良いことをしたい』という原点を思い返した途端、カッコいい台詞が思い浮かんだ。
「うん、じゃあ――正義は勝つ、敗者はここで眠りなッ!!」
それはセンスなどという評価は考慮しない純粋なもの、十二歳の少女が考えたというだけで良いものだ。
それはまるで子供のごっこ遊び、スーパーヒーローの決め台詞。
「ははッ――お前、やっぱり可愛いんだな――――」
その言葉を最後にロアという女性は消滅した。
これにて影月戦争は終わった。




