144話 最後の月欠け
「お前がユリナか……あの黒騎士の推薦だと?」
十番隊『暗黒満月』が編成されたのは一年前でもない、隊長はお偉いさんであり、一番隊隊長の推薦で任命された女だった。対面した感覚から自分と同じくらいに悪の組織に加入したのだろう。
しかし能力実験施設で姿を見ていないことから施設出身ではないことくらいの違いでしかなかった。
精鋭部隊の一角に任命された時点で『この世界』では一応の安全は確保されたが、完全な安全なんて『この世界』にはない。
己の安全保障は己の強さで決まる。
最高戦力と評される精鋭部隊、上層部からの命令を遂行するのみ。ただ与えられた仕事を熟すのみだが、それをスムーズに熟せるほど任務の難易度は低くはない。
悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』は“宇宙の悪”と呼ばれているほどに規模は巨大であり、最高戦力として任せられる難易度も比例して高いのは当たり前のことだ。
だから甘くはない、これが自分の現実なんだと……そう言い聞かせてきた。
それはある意味、現実逃避だ。そう、割り切ることで負担を減らし、ただ『自分』という一点のみに集中する。
それ以外のことは事実だが、それを考えて調子を崩すことよりマシだと考えた。
まぁ、各々で『この世界』の環境に適応、凌ぐ方法は様々だろう。
ただ『自分』を信じること、それだけが精鋭部隊の殆どの者に共通する点だ。
そしてロアは起き上がる。
何だろうか……気絶していた最中、自分が当初に決めたことが客観的な映像記録として再生された。
「はは……ふざけんなよ」
今の状況は正に『絶望的』だ。
そんな時にクソみたいな感情になってしまう根本を目の前に突き出したことに静かに吐露する。
自分で決めたことだが、決して望んだわけではない。
別に正しいなんて思ってはいない。でも噂では他の精鋭部隊は新人である十番隊『暗黒満月』とは全く違う心意気みたいだ。
所謂、積極的に取り組んでいるのか、本当に『自分』ではなく『この世界』を信じて順応していったのか。
そんな存在はいない、なんて無知なことは言わない。
でも……自分には厳しい。
前向きにやろうと、いつかは転んでしまう。
それが――今だ。
「うぅ……」
ロアはゆっくりと起き上がる。
『領域は正常、十番隊の生存者数は――』
『最重要人物レイム・レギレスの状況は――』
そして現状を領域のシステムが報告し、ロアは現状を把握する。
もう自分しか残っていない。敗北と死、任務失敗はそのまま死に直結するか、生き残れるとしても意思など無視してただ利用されるだけとなる。
この状況から敵の戦力を考慮すると打開することは出来ない。
現地点を以って予定されていた計画は失敗に終わった。
これこそが自分の終わりなのだろう。
でも……このまま終わるなんてことは御免だ。
「――せめて自分の最後は、自分で、決めるッ」
ロアは最終手段として懐から暴走薬を取り出し、自分の胸に突き立てた。意図的な暴走を引き起こし、最終的に自己崩壊をする薬品をロアは取り込んだことで激痛が全身に広がる。
それは身体を暴走させるための下準備と言ったところ、痛みなど慣れなければ、自分という意思は押しつぶされてしまうだろうが、それをロアは能力をフル稼働させて耐える。
ただ痛みに耐える。
終わりは受け入れるが、その終幕は自分で決める。
今までの全てを自分自身で否定することなど出来ない。
それが例え、地獄のような道のりであったとしても、生き残るために自分が選んだ、その選択が正しくなくてもしょうがないと……。
全てが無駄だった、なんてことを認めたくない。
だからただ――自分を肯定するために、選んだ道を命が尽きるまで駆けるのみ。
『……心意を受諾。ご命令通りに――』
領域はまだ保たれているが、その一部、白い光がロアへと巻き付くように融合する。
それは光であるが、光のような植物、近くのものに絡まるようにロアの意思を認め、彼女の力となる。
暴走薬の副作用で身体能力と魔力量が増幅し、自分と領域に流し、自己崩壊を先延ばしにする。
そしてロアはゆっくりと立ち上がり、目の前にいる敵、レイム・レギレスを瞳に映す。
「――最後の月欠けとして使命を全うする」
その眼は血走り、赤く染まった瞳……だが、白髪ショートの女性は強く立ち上がって再び、対峙を果たす。
そして少し前――『神』は沈んだ。
「おい、おい――」
「レイム、レイム――」
エマとソージの声が聞こえてレイムは瞼を開ける。
「んん……」
自分をソージが抱えている。
好きな顔が目の前にあった、自分に向けて笑顔を向けたことに思わず、手を伸ばす。
だが、感覚が戻っていないのか、思い通りにソージに触れることは出来ず、おぼついている小さな手をソージは強く握る。
「はは、夢……」
「いや、夢じゃない現実だ。目覚めてよかった」
ソージは安堵の表情をしながら、言葉を紡ぎ、それにレイムは笑う。
ただ安心したのだ。
だが、まだ終わっていないことは理解できるレイムは安堵の後にゆっくりと起き上がる。
「だ、大丈夫か!!」
「うん。まだ動ける、それに……まだ、わたしにはやることがあるから」
「……分かりました。お気をつけて」
ジュウロウはレイムの意思を尊重し、ただ見守る。
「リツリ達は私が回収しましたので、ご安心ください」
レイムの所に駆けつけたのはソージ、ソピア、サリア、エマ、レジナイン、ワーレスト、ジュウロウの七人であり、他の最破、『無限の星』はワーレストの命令で中心が見える場所で待機している。
「うん。この戦いを終わらせる――」
目覚めた少女、レイム・レギレスは内に秘めたものの変化に気付きながらも、すぐそこの戦地に赴く。
この影と月の戦争を終わらせるために――
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