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142話 回帰した『眷属』



 黒き神の『眷属』は本来の姿へと回帰した。

 それは荒々しく禍々しい雰囲気を醸し出し、鋭利な漆黒の角が身体の部分に生えている姿は人型であるが、『人』という次元を超えた要素も混じっている。

 いや、そもそも純粋にして完全な『人』と定義することはないだろう。

 それは正真正銘の『人』であるジュウロウだからこそ、断言できる。


 そしてそれは全員の頭上に存在する漆黒の輪からも判断できる。

 それぞれの個性が増したようにも見える。

 一人は大剣を、一人は戦槍を、一人は籠手を、一人は木笛を、一人は魔杖を、一人は天秤を、一人は鎌を携えている。


「仲間が成長することは嬉しいな。だが、この状況だからな。悠長なことは言ってられない、一人ずつ一撃で片付ける――」


 黒き神の『使徒』である最破が筆頭、ジュウロウ・ハリアートは余裕の表情から歯を見せて笑う。エマと同じようにジュウロウの目にも元のランクから二倍以上は上がっているように見える。

 奥底にある能力の変化から似て非なるものへと昇華を経ていることが確認できる。

 全体的な性能が爆上がっているため、ジュウロウにとっての『強者』まではいかないが、十分に腕を振るう相手にまで七人は上がった。

 逆説的に考えるなら、今まで見せていた使用人程の力は本来の力の一片であった、ということだ。


「成長でありながら、本来の姿、か……。よし、どこからでも来い。見定めてやるよ――」


 圧倒的な上から目線で刀を抜き、肩に担ぐように構える。


「――『黒威神冠アグテル』ッ」


 少し荒げた声が聞こえた。

 最初に動いたのは決まっていたかのように七人の筆頭、使用人一番、黒い長髪の女、リツリ・リファーストである。イメージカラーが黒という印象だったからか、更に黒さが増した使用人一番は《漆黒大剣シルヴァグレン》を用いてジュウロウに突撃する。

 彼女の能力は【黒壊】という創造主を表すようなものが、更なる進化を遂げて得たのが【黒威】であった。


 そのあらゆる黒の本質は『万物が存在するが故に発生する一つの極点にして威光』であり、眷属筆頭に相応しく神の威光の片鱗を振るう。

 その特性はあらゆる黒を操り、創造主のように有り余る力を用いて戦闘する。

 だが、それでもジュウロウは冷静に見切り、刀で大剣を鍔迫り合い、虚空を踏み蹴り、跳ね返す。


「――『衝雷神冠イムトス』ッ」


 冷静な声色が聞こえた。

 それは使用人二番、黒に青みのある長髪の女、ルカル・セカンドである。ジュウロウがその方向に目線を向けるとルカルは冷徹な眼でジュウロウに人差し指を向けた。


 その瞬間、群青色の雷が発生した。


「ッ!!」


 ジュウロウは驚き、反射神経から刀で防いだ。

 何となく、勘だったが、それは『飛来』するものだと思っていたからだ。

 その能力は【黒雷】から昇華したもの、その群青色の雷の本質は『万物が存在するが故に発生する摩擦にして衝撃の火花』であり、その性質から射程距離は存在しているようで存在はせず、発生と同時に相手に雷という衝撃を与える。万物から生じた雷を介して多少の物理法則の操作、無尽蔵にも思える出力の向上なども可能である。


「へぇ、面白くなったなぁッ!!」


 空中を蹴ったジュウロウは一瞬にしてルカルに迫る。普段は平常心である彼のテンションは上がっている。

 戦い自体に、仲間の成長に。

 だが、手加減はあっても油断はない、戦闘不能状態にするために仲間であるルカルに刀を振るった。


「――『炎庭神冠イグニマ』ッ」


 明るい声が聞こえた。

 使用人三番、赤髪のボブヘアの女、アリア・リサードは拳を思いっきり突き出して火炎放射を凌ぐ覇なる炎にジュウロウは飲み込まれたが、即座に刀を振り、風を生み出して炎をかき消す。


「俺に届いた時点であらゆるものは『無』に帰し、膨大な情報、複雑な概念であろうと『ただ』のもの、『簡単』なものへと成り下がるだけだ――」


 燃え上がる炎の本質は『万物が存在するが故に発生する熱意にして高揚の庭園』であり、アリア本人と相手の感情に応じて変化する炎であったが、ジュウロウには『ただ』の炎でしかない。


「――『樹濁神冠アウボス』」


 ただ読み上げるような声が聞こえた。

 使用人四番、緑色の長髪を一つの三つ編みしたアザルト・リフォースが起こした力の反応はジュウロウの真下であり、それは一瞬にして上空にいるジュウロウを取り囲んだ。

 それは太い幹、伸びる枝、その先で多種多様な花が開花した植物であり、それらは大気中の魔力を吸収して規模を拡大させていき、異常な速さで植物の檻へジュウロウを幽閉した。

 それは蔓延する植物、その本質は『万物が存在するが故に発生する土台にして生命の許容』であり、あらゆる植物を顕現させ、様々な効果を齎す自然の摂理である。


「――『水胎神冠アクアル』」


 ジュウロウという相手をしっかりと見定めているからか、間というものを生じさせず、非常に静かな声が聞こえた。

 使用人五番、水色のツインテールの少女、フィリア・リフィフス。

 それと同時にジュウロウは植物を切り刻むと大水に包まれる。微かにエネルギーが奪われる感覚があったが、即座に身体強化を行う。

 その真水のような液体の本質は『万物が存在するが故に発生する水分にして変幻なる水』であり、水を介して対象の認識、理解をすることで耐性を獲得し、触れたものの水分というエネルギーを奪うことが可能である。


「――『転定神冠ボルティフ』ッ!!」


 明るい声が聞こえた。

 使用人六番、金髪セミロングの少女、シャルレ・リシックス。

 それは無邪気な黄金、その本質は『万物が存在するが故に発生する価値にして変幻自在な優劣』であり、指定した対象の価値を上げ下げするバフデバフを施す支援系能力。

 その対象をジュウロウの周りの大気の価値を下げる。


「おっと――」


 自身の周囲に存在する価値の価値が著しく下がったことで空気を踏み場としていたジュウロウは躓くように体勢を傾けるが、自分の力を足場として何とか対処をする。


「――『封箱神冠シグゼクス』ッ」


 その時、ジュウロウは漆黒に包まれた。


「ぐッ……やっぱり、お前だな。リリスッ!!」


 昇華されたことでジュウロウの身すら封じる性能を得た。


 それは漆黒の箱であり、ジュウロウを含んだ空間を封印したことでジュウロウは無量の圧に押される。

 その本質は『万物が存在するが故に発生する特異点にして黒箱ブラックボックス』であり、箱の中に指定した対象を封じるが、それを用いるリリスは七人の中でも随一の戦闘センスを備えている創造主の戦闘狂を受け継いだ存在である。


 それをジュウロウは能力を強めて箱を切り刻む。


「いいな。が――終わりだ」


 ジュウロウは一度、刀身を鞘に納めて空中を蹴り、後方に飛んだ。


 そして七人を視界に納め、眼前へ踏み出す体勢を取る。

 それは基本にして最強と言える抜刀術、刀身を納め、一つの動作に意識と魔力を限界まで集中する時間は数秒。

 その集中力から生じる存在感は昇華を経た『神』の眷属であっても気圧され、逆に目線を向けてしまうほどに強く、七人は動くことを忘れた。


「――《七星無命しちせいむめい》ッ」


 そして無剣はその理を示した。

 生じた一閃、大振りの横薙ぎは無論、七人の眷属を巻き込み、その一撃で地面に叩きつけられ、全員が戦闘不能に至った。


 これこそが人類最強と言わしめる男、『神』にしてレイム・レギレスの右腕であるジュウロウ・ハリアートの実力である。

 身体を起こしたジュウロウは刀を納め、涼むように『神』の方に目線を向けるのだった。




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