139話 胡蝶の夢④-幻想的
ここは狭い世界だと思っていたが、自分は『世界』と繋がっている。
少し言葉の意味を教えよう。
『世界』とは枠組み、その中に生命や物を含めた揺り篭。似たものとして『星』があるが、あらゆる解釈があるが、この解釈は『世界』と『星』は違った。
『世界』とは生命と大地、主に人の要素が多い。
『星』とは自然と大地、主に自然の要素が多い。
つまり『世界』と繋がっている自分は生命と大地に繋がっている。
ここ、影の領域は世界から孤立しているわけではなく、一つの世界の『影』として成立しているため、完全に隔離されているわけではない。
ならば、『肉体』は眠り、『精神』が活動している今、物理的なものではなく、エネルギーやスピリチュアル的なことが可能となる。
例えば、『肉体』が関連する意思疎通ではなく、直接、『肉体』の中身、『精神』に語りかけることができる。
それは今、『精神』同士のレイムとロアがやっていることだ。
その他、レイムはこの世界の情報について触れている。それこそが外部の情報、自分が知らない知識だ。
そして――この影の領域の状況についても繋がりが可能のようで理解ができる。地図を見るような感じで詳細はもっと意識を向けないと分からないが、頭の隅にその映像が存在している。
だが、まだ戻ることはできない。
目の前にいる敵、ロアを打倒しなければ、帰る道を見つけたとしても帰ることは出来ない。
今は『集中』するしかない。
「ルークラガッ――」
左手をかざすとレイムにとってもう一つの武器《破神槍ルークラガ》が少女の左手に漆黒の槍が顕現した。
能力の解放は順調だ、とロアは悟る。
やはり『最重要人物』と認定された存在であり、能力が完全に解放されれば、それは『肉体』に意思が戻るのと道理であり、この時点で計画は失敗する。
だが、レイムの捕縛と彼女の意思を深層へと沈めることは装置を起動したことで『肉体』から『精神』へと意思を沈めることで成功したが、後の計画は自然に沈むならよかっが、もし――レイムが抗った場合、その意思を予定の位置、段階まで追いやることがこの計画のロアの任務である。
なぜ、自分が選ばれたのか。
その答えは悪の組織から明言はされなかったが、自分で考えた結果が『自分が優秀』だから、と結論付けた。
それはそうだろう。
精鋭部隊という悪の組織の明確な戦力として数えられ、悪の組織が重要視する作戦に組み込まれているのだから……そして隊長であるユリナは『唯一者』のカウンターとして配役され、自分はレイムと対峙する配役をもらった。
これは名誉に他ならない。
弱者と強者が絶対な弱肉強食、弱いからこそ不幸が降りかかり、強いからこそ幸運を掴み取ることができる。
だが、最初は過酷だった。
なぜなら、自分は弱者だったから、でも転機が訪れた。悪の組織によって実験施設に送られ、そして自分が秘めた才能が開花した。
これが『念動能力』……自分の力の結晶だ。
だが、ここではその力は発揮できない。
それはレイム・レギレスも同じであるが、彼女の力の大きさは時間が経つほどに出力が大きくなっていく現状、その先の予想についてロアに想像がつかないはずはない。
そう――この先、自分は圧倒されるだろう。レイムを繋いだ機械の機能は全開であるため、もう自分に計画の成功は掛かっている。
本気、それはもう実行しているが、もう一つの神器、出力機を顕現してしまったことで状況は悪化しているが、まだ対抗策はある。
「終わりだよ、レイム・レギレス――ここには何もないんだから」
その瞬間――パリンッと音が鳴り、この世界は結晶片となって崩壊した。
それに抗うことは出来ずに真っ暗なものへと落下していく。
本当に何もない、その手に握る剣や槍を振り回しても何かにぶつかることはなく、黒一色の空間を落ちていく。
ここには何もなくなった、いや、元々からここは何もない『虚無』と言える空間だ。
ここの景色は真っ黒、落ちていく感覚に晒され、さっきまで姿を見せていたロアはどこにもいない。
「んん――???」
レイムは状況を考える。
この場合、ロアは自分と正面衝突を避けたと言っていい。そうなった理由はこうしなければ、ロアにとって不利な状況となるのだろう。
今の自分は『精神』……『肉体』へと戻りたいが、まだできない。
なら、逆の発想として『沈む』しかない。出口の予想はできるが、明確に道が示されていないのなら、示されている道を進むしかない。
一切、考えないということはないが、レイムは思考するより行動するタイプである。
ということは、今は落下だけじゃなく、自分の力で落下していけばいい。
「ん~…………」
落下する。
「ん~…………」
落下している。
「ん~…………」
落下し続けている。
「ん~………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
だが、到着しない。
この空間は『ただ落下し続ける』という仕様であり、レイムが考えたものと違うのか、それともこれで正解なのか……でも、今のレイムの力ではこの空間から抜け出すことは出来ないため、落ちてしかないはずだ。
時間が過ぎる……時間が過ぎる……時間が過ぎていく。
少し待ってみよう、と思いながらもただ時間が過ぎていく。
この空間の時間の長さが物質世界の時間と同じなのか、分からないが、とりあえず待ってみる。
簡単には戻れないことは分かっているため、上の反対で沈んでいるわけだ。
レイムは下、落ちている方向を向くが、底という概念がないのか、黒のみが続いている。
黒い髪、黒い眼だからか、自分もここで溶けてなくなりそうに思ってくる。
――誰、か……。
寂しい、そう思ってしまった途端、それだけが増幅していく。
まだ生まれて十二の年月……いや、年月なんて関係はないのかもしれない。『大人』という枠組みなら、それを承知できるかもしれないが、いくら自覚しようと認めようといざ、一人と自覚してしまえば、『寂しい』という気持ちを抱いてしまうのは当たり前だ。
それが物も人もなく、ただ暗いという景色に晒されれば、『少女』であるレイム・レギレスが『寂しい』と抱いてしまうのは時間の問題だった。
この状況は『孤独』……その事実だけで押しつぶされそうになる。戦う相手がいない、そもそも人がいない、ただ自分が唯一となってしまった今、レイムの『精神』は『寂しい』という感情が氾濫してしまう。
根気強く待とうと思ったが、それは今のレイムには無理な話だった。
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