13話 二柱の魔王②
いつの間にか魔王の威圧に飲み込まれてソージ、ソピア、サリアの身体は震え上がっている。
しかしジュウロウは一人だけ平然としているのは、彼はかつて最古の魔王と対峙したことで耐性か、慣れているのだろう。
「最破筆頭、お前はやらないのか?」
「あぁ、こちらも見定める必要があるからな。別に構わないでくれ」
マリテアから質問を受けたジュウロウは平然と返答した。
雰囲気的には冷めている問答だが、まだ仲間ではなく、敵に対して接している時のジュウロウである。
なるほど、と納得したマリテアは頬杖をつく。
最古の魔王としての情報を詳しく知っているのはかつて全面対決した経験を持つジュウロウはどんな攻撃方法なのかを理解している。
「よし、始めるぞ。一つ忠告するなら、離れて戦え。奴の攻撃は広範囲、時間が経つほどに強力になるから早く仕留めた方がいい」
「分かった……ソピア、俺が先に出る」
「うん。分かったお兄ちゃん」
「サリア、いつも通りに支援は任せる」
「うん。任せてソージ」
言葉を交わし、ソージは一番前に出る。
「ふん――」
準備完了したであろう勇者に指を振った。
それを合図にソージが聖剣、いやそれは竜の亡骸から製造された聖剣の一振り、だが本当は二本が存在する。
その名は《竜星剣ドラドゥーム》……元の竜が光の魔力に適正があったことから聖剣として製造された。
「第一剣技――《天火閃光》」
レスティアル流剣技の一番目、居合切り兼特攻攻撃としての性質を持つ始まりの技をソージは放つ。
軽そうな踏み込みから走る。
人類最高にして最強の剣技の一つは魔王を驚愕させ、かつての勇者が共通して使用する剣技を思い出させた。
踏み込みと攻撃する寸前にソージの姿は消え、直前で姿を現し、剣を振るった。
しかし突如出現した黄金の枝で防がれた。
「ふん、流石だな勇者。だがもう近づくことはできん」
次の瞬間、マリテアを中心として黄金が広がり、枝の形を築く。
それは攻撃であり、防御でもあり、広域を埋め尽くす範囲攻撃、予備動作などなく、“繁栄の魔王”の意思で顕現する。
ソージは持ち前の反射神経を活かして後退する。
「お兄ちゃん――」
その言葉と共に前方に顕現した黄金の枝たちが光の斬撃によって砕かれる。
ソピアが放ったそれは光の斬撃を飛ばすものではなく、自ら発生する魔力を用いて射線上に斬撃を降ろす技、第三剣技――《光来天幕》である。
「よし――」
だが砕けた直後に元の形へと戻ってしまう。
「なるほど……」
厄介だな。
単なる近接戦闘では敵わないことは明白であり、道を開こうとするがすぐに元の形へと戻ってしまう状況は厄介極まりない。
なら、道を開くことに注力するのは無駄だ。
だが剣を持つ者として遠距離攻撃は可能だが、決定的な攻撃は近づかなければ無理だろう。
サリアの援護射撃も黄金の枝の侵食をある程度、止めるものであり、ジュウロウの言う通りに時間はかけられない。
「よし……」
ソージは覚悟を決めてソピア、サリアに目を向ける。
それだけでソージが何をやりたいのか、長年の付き合いで具体的な内容は伝わっている。
無言で作戦を確認している内に“繁栄の魔王”から顕現している黄金の枝は広がり、広い玉座の半分まで侵食している。
そしてソージ、ソピアが同時に走り出す。
この作戦は三人が強敵を相手にした時に決めた作戦であり、全体的な形を述べるのなら力押し、特攻である。
その疾走は早く、数秒で黄金の枝の手前まで走り、そして飛んだ。
「サリア!!」
「任せて――」
その合図を待っていたサリアは五本の氷の矢を扇状に放ち、自軍側の侵食を一時的に停止させる。
それを超え、ソージとソピアは奥へと降りる。
「――《一条光者》」
先にソージが降り、床に足をつけた瞬間、全方位に剣を振るう。瞬間的火力が特徴な第二剣技で着地地点に存在する枝を伐採する。
そして非常に軽い着地からソピアは魔王に向けて剣を振り下ろした。
「――《月牙翔斬》ッ」
黄金の刀身、ソージと同じ聖剣《竜星剣ドラドゥーム》を振るうと三日月型の斬撃がマリテアに迫る。
ソピアの照準は完璧であり、そのまま魔王が動かなければ、身体に縦線が入るだろう。
ゴォォォッという空気の振動音、完璧な照準からそのまま魔王が玉座から動かなければ、身体に縦線が入るだろう。
「いい筋だな」
途端、マリテアは完璧なそれをすぐさま察知し、立ち上がってギリギリに三日月型の斬撃を回避した。
魔王の余裕が少し崩れた瞬間であり、勝機を見出すのは今しかないだろう。
ソージはソピアに任せて走り出す。
「ふん、いいだろう。がッ――」
その時、マリテアの左肩が切り裂かれた。
なにッ……
背後からの光の斬撃。
だが、後ろの魔力反応は……いや。
一瞬の意味不明な状況、しかし自分が前方を気にしていたばかりで背後まで意識を向けてはいなかったことを自覚する。
なんせ相手は剣を使用する勇者であり、近距離、遠距離ともに扱える程度で同格の存在なら用意周到に考えるが、格上、同格ではなく格下だと判断した。
そして意味不明な斬撃の種明かしは彼女の目の前で起こった。
「なるほど……」
と呟いたマリテアの目に映ったものは三日月型の斬撃が聖剣の刀身に吸い寄せられたのだ。光の斬撃を放つだけではなく、その光が聖剣に引っ張られるように戻ってくるという特徴的なものを受けて思い出した。
いや、初めて見たわけではない。
数十年前は大魔王、いや……まぁ、そうか。
それでも勇者相手に侮ってはいけなかったようだ……なら、姉さんに言われたように全力を出す。
「ッ――」
その隙にソージは特攻攻撃である第一剣技――《天火閃光》を放つ。
だが、それは能力の解放とともに打ち砕かれる。
「繁栄をここに――『繁栄神冠』ッ」
その瞬間、景色が一変した。
全ては【繁栄】の大雑把な象徴である黄金によって塗り替えられた。
それは世界最強の一角にして【繁栄】を司る神の力。
腕に重い振動が走り、顔を歪ませる。
「これは……」
玉座から立ち上がった“繁栄の魔王”マリテア・ヴィティムはニヤリと笑みを浮かべ、余裕の表情を浮かべる。
ただそれは慢心ではない、勇者を再認識した女王は本気を見せ、能力を解放した。
「繁栄の象徴、黄金だ。単なる黄金ではないことは忘れるな。さあ、本気の殺し合いをしようか」




