134話 第六位・黒竜戦機⑦
自分は『勇者』だ。
それは自分という肩書であり、誇りであり、象徴であった。
最初から生まれてくる前からこの家系に生まれた者は勇者の子と呼ばれる。厳しい環境、その強さから同じ人間から迫害された者たち……。
確かな人類の栄光だったはずが、感謝されようと時間の流れとともにその感情は薄れ、恐れ、恐怖されていく。
そんな中で一人の子供、ソージ・レスティアルは屈することなく、新時代の勇者として才能を証明していった。
世界の、人類の脅威である最古の魔王を倒すために……。
でも、今は違う。
前代未聞だろうが、裏切り者の破壊神の勢力に加入し、最古の魔王と同盟を組み、もっと強大な巨悪に立ち向かうこととなった。
善人である以上、悪人は許さない。
そして大事な人を救うことも……。
人と人がぶつかり合う――即ち、戦い。
善を信じる善人、悪を信じる悪人――即ち、どちらが正しいか。
話し合いの果て、武力なしの果てにあるのは、力と力の衝突であり、どれだけ多くの敵の血を散らしたか、で勝敗は決まる。
それは無駄が存在する、しかしそれを過程とするなら、その種が『成長』するための布石となる。
自身の主張を信じ、戦う。
その先も未来が共倒れだとしても、生命は争いという要素から逃れることはできない。
なんせ、それが自分達を『成長』するための手段の一つなのだから……。
「あぁ、そうだ――」
頭の中で戦いに関することを自問自答している。
なぜ、争わなければならないのか……なぜ、争いは起きるのか……。
その決定的な答えは分からないが、ソージが至ったのは『仕方がない』という結論だった。
自分という善人がいるからこそ、悪人と戦う。
その法則が大きくなったのが、国同士の戦争であり、自分の世界に起きた魔族との戦争にも当てはまる。
自分とは違うからこそ、争いは生まれる。
なら、自分が戦う理由は――
「――俺が善人だから、俺が助けたいからッ」
その誓い――いや、再び、自分の意思に火をくべる。
戦いを疑問視することは間違いではない、だが、戦いが起こってしまった以上、剣を持つ者は大切な仲間のために、自分のために、この先のために――
ソージはゆっくりと立ち上がる。
見間違いか、部分的に纏っている金色の鎧が、手に持つ神器が、自ら光を発するように黄金という色を強めていく。
そして『能力』は覚醒する。
自分の『魂』に隣接している『能力』の覚醒、それは自分をより理解することで条件が整う。
戦いの最中か、死の淵でも『覚醒』はある意味、お決まりの演出だ。
「ルイカ、それがお前の決意なら、俺は限界を超えてやる――」
ソージは剣を両手で掴み、右側の上段で構える。
それは静かな『覚醒』――身体の負担は増えるが、奥底から魔力が溢れ、金色の魔力が立ち上り、全身に力を与える。
禍々しい竜人と対峙しているその姿は正に勇士であり、誰もが想像する勇者である。
先に動いたのはソージ。
黄金に輝く刀身から光の粒子が零れると同時に竜人ルイカへと接近し、剣を薙ぎ払う。
それを漆黒の竜腕で防ぎ、さっきと同じくもう片腕を突き出すが、予想していたソージは即座に後ろに飛ぶと同時に突き出した腕を叩く。
「――『天聖神冠』」
それは神クラスへと昇華した光系統の能力であり、解放することでソージの特性である光属性に関する性能が飛躍的に向上する。
「――《月輝燦然》」
即座に足を一歩前に出して黄金の剣による圧倒的な連撃を放ち、ルイカは光の斬撃を浴びる。
その強い光によって狂うルイカは咄嗟に腕を交差して前に出しながら、その隙間から口から魔力光線を放つ。
ゴウッ――と高出力の魔力が動き、胴体に迫る。
しかし相手の魔力の流れを感知したソージはギリギリのところ、剣で防御する。
少し押されるが、しっかりと地面に足をついて受け止めながら、刀身を滑らせて横に移動し、近づく。
お互いが力を解放したことで高い火力を発揮できる状況でルイカを打倒するには攻撃と防御の力を突破して致命的な一撃を与えるしかないだろう。
そのためにはこの先、ルイカの攻撃をいかに避けて接近するかが重要だ。
出来ないなんて、言わない。言ったところで状況は変わらないのだから……。
「――『勇気神冠』」
それは彼のもう一つの能力だ。
己の内に存在する感情、勇気を確固たるものとして増幅させ、身体能力を強化する力。
この瞬間――ソージは能力を『天聖神冠』から『勇気神冠』へと切り替えた。
複数の能力を持ち合わせる者のメリットとして並行運用は出力は低下し、魂の容量からマルチタスクは運用方法として悪い。
しかしメリット、いや、効率的な運用方法は切り替えだ。一つの能力を全力で行使した方が、本来の使い方だ。
「ッ――――」
能力を解放して駆ける。
覚醒を果たしたことで能力を切り替えても身体能力の向上という『勇気神冠』の身体能力向上面においての性能は『天聖神冠』より高い。
それをソージは駆け出してすぐに実感する。
当然のことながら、今までの自分の全力疾走より上がっており、神クラスの凄さに感服する。
この時点でソージの身体能力はルイカを追い抜き、標的の周りを駆ける。
意図的に剣の刀身から光の粒子を漏らし、何周かするとルイカの周りに光の輪が描かれ、ソージの動きは読み取ることが出来ずにあちこちに目線をキョロキョロと向ける。
「――《月牙翔斬》ッ!!!」
その声が聞こえた位置から三日月型の斬撃が飛ぶ。円状に周回しているはずのソージだが、その一瞬で剣を振ったようだ。
ルイカはそれを避けて即座に反対側を向く。
そう、ソージの剣技の一つである第四剣技――《月牙翔斬》は一定の距離を進むと斬撃が放った剣の刀身に戻るという特性、避けたと思ったら、後ろから攻撃を受けるという初めて見た者なら、回避できるかどうかわからない嫌な技。
それを理解しているからこそ、反対側を向いたが、三日月型の斬撃は同じ道、軌跡に返ってこない。
ルイカが疑問符を浮かべた瞬間、左真横から光が迫った。
「がぁッ――」
今度は直撃してルイカは自分の肩幅一つ分、右にズレる程度だが、無視できる攻撃ではない。
だが、攻撃する方向が分からない、と再び、周りを見渡す。
ザァンッ――と空気が切れる音とともに三日月型の斬撃が飛び出す。光であろうと大気の動かすため、その動きを感知してタイミングを見分けることができるが、気付いても遅い速度で斬撃が飛んでくる。
それが全方位から来る可能性を秘めている状況で暴走した力に飲まれた『意思』は万事休すだと理解して口から低い音が零れ始める。
それはまるで動物が唸るように暴走したルイカは、今の状況を全身で警戒をしている。
そして右、後ろ、前、左とランダムな方向から三日月型の斬撃が放たれ、回避しても別方向から斬撃が飛び、ぶつかり、それが続く。
光の輪の内、光輝くサークルの内側はソージ・レスティアルの絶対殺傷の場である。
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