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129話 第五位・灼熱地獄⑦



 エマ・ラピリオンの『魂』に白銀の弾丸が到達した。


 その瞬間、真紅の球体を中心として大爆発が起きた。

 だが、それはシリウスを巻き込み、封鎖された区画を飲み込んだ地点で止まり、拡散することなく、映像の巻き戻しのように収束していった。

 存在の核である『魂』に意思はないと思われているだろうが、『肉体』と『精神』が消失しようと『魂』のみになったとしても存在であり、意思もある。


 だから、だろう。

 生きたいという意思、本能、或いは無意識領域の意思によって引き起こされたものはエマ・ラピリオンの力の一端が行使された。

 シリウスは大爆発、その波に荒らされて瀕死の状態で地面を転がりながら、どこかに飛ばされた。


 赤く焼けた荒野、もう元の風景などは一切、焼け焦げた場所に真紅の球体だけが浮遊している。

 その輝きは弱まることはなく、一定の光を発している。

 それはエマ・ラピリオンの『魂』であり、このままでは霧散してしまうはずだが、その様子はなく、シリウスによって攻撃されたことで球体に亀裂が走ることも割れる様子もない。


 いや、確かにシリウスの攻撃である〈遠座えんざの弾丸〉はエマの『魂』に到達していた。

 しかしそれはエマ・ラピリオンの『魂』を砕くものではなく、白銀の弾丸が『魂』に到達した瞬間に少しの抵抗で相手であるシリウスは沈黙した。


「やぁ、エマ――大丈夫か?」


 真紅の球体に近づくのは二人、それに口を開いたのは白い女性、彼女にとって肉親の関係であり、それらを束ねる者。

 真っ白な長髪、それに影響された肌、万象を見る白い瞳。

 その白は異様であり、まるで世界から拒絶されたような白、誰もいない焼けた荒野ではこれより目立つ者はないだろうが、彼女の裁量によって人混みなら、透明人間のようになる白でもある。


 この白は一切穢れを持たない、犯されることのない純潔――というより、全てを受け入れ、流されることはなく、ただ自分を強く持ったからだろう。

 彼女は一つの世界の知識を持っているが、それを活用することはあまりない。

 彼女は天才の域であった、だからこそ与えられることを拒んだ。

 彼女はその世界にないものであろうと作り上げ、高度な技術を成した。

 どんな未知であろうと探求心のバケモノである彼女にとってはその未知を解析し、理解し、行使することに喜びを得る。


 最古の魔王の一人であるが、支配ではなく、探求を選んだ異端。

 その実力は第一位であるエマ・ラピリオンに肉薄するほどの可能性を持ちながら、肉親、弟と妹を尊重する素晴らしき長女である。


「わたしにはそんなこと出来ないよ」


 その様子はまるで目の前に肉親の死体があり、それに語りかけているように冷たく静かに呟く。

 いや、その反応は正しい。

 存在の核である『魂』はレジナインが発した言葉を受け取ることは出来ない。『魂』同士、特殊な空間なら意思疎通なら可能だろうが、『魂』とは物質世界から逸脱したいわば、上の要素であるため、『肉体』から発するものは届くことはない。


 それを分かっているから、だろう。




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