12話 二柱の魔王①
「ッ――」
敵対者の名前を聞いた直後にレイムは先制攻撃を開始した。少女の周囲に複数の漆黒の魔法陣が展開された。
空間が軋み、リビルに黒色の力である【破壊】を放つ。
一瞬、リビルは煙に包まれたが、瞬く間に姿を現して特攻する。
その速度は両翼を展開したレイムと同等か、それ以上の速さでランスを突き付けてきたがルークレムを穂先に横薙ぎで当て、軌道を逸らす。
すぐさま距離を詰める。ランスと剣、小柄であるレイムが詰めることでランスによる近接攻撃を封じて剣を滑らせ、剣を振るう。
だが、胸倉を掴まれ、放り投げられる。
即座に【破壊】を放つが、それをランスで防ぎながら、リビルは特攻を仕掛ける。
「チッ」
すぐに体勢を立て直し、上空へ飛んで避ける。
「なかなかやるな。英才教育って奴か? 見かけのわりに俺との近接戦ができるなんて、な。で、俺の攻撃がこれだけだと思わないよな?」
強者の中の強者であることは認識している。
そんなリビルは手に持つランスをレイムに向けた。
「ん……」
ただランスを見て何も考えていないであろうレイムの反応を見て、鼻を鳴らす。
「ギリニヨンッ――」
その瞬間、空間が形となり渦を巻く。
それはまるでランスの上部が捻じれたようなものがレイムに凄まじい速度で衝突する。
ゴリゴリとレイムの腹部が押され、抉られ、このままでは皮膚を破き、内臓、いや身体を貫通する勢いだ。
「ぐッ――」
強烈な痛みによって反射的に魔力が放出される。
漆黒の波動が少女から滝のように流れ、空間攻撃は押され、相殺された。
「かはッ……うッ」
身体が貫通するほどの威力を相殺したが、内臓をおされたことでその負荷に襲われる。
「これは《滅空槍ギリニヨン》を用いた力だ」
「なるほど……」
レイムは考える。
空間を用いて攻撃する予備動作がなく、分かりやすいものじゃないため、早く見定めないと致命的なものとなるし、レイムの得意技である力押しが出来なくなる。
厄介であるが、攻撃の長さ、射程距離は短いと仮定をすれば、レイムの方が遠距離攻撃に対して有利だ。
「さぁ、行くぞ」
《滅空槍ギリニヨン》を構えるリビル、それに対して魔法陣を展開して魔法陣の中心と自分の腰辺りを漆黒の線、パスを接続する。神経回路を繋げたため、翼のように手足の感覚で操ることができるが、一つの脳で出来る処理として六つが限界である。
ただの子供だと思っているなら大間違い、とレイムは強く思う。
「あぁ……」
リビルの空間攻撃は彼のランスから離れているが、空間が歪み、螺旋を描くことで若干の目視は可能だ。
背後の魔法陣が光ると同時に両翼を羽ばたかせて突撃する。
ガンッガンッと両者の武器がぶつかる。ジュウロウ式鍛錬の結果、魔王クラスのスピードには普通に追えている。
そしてレイムの得意戦法は力押しだ。文字通りに力で相手を押すことで自分が有利となり、優勢に立つ。
だがそれには圧倒的な力か、押される量を持たないといけないことから誰もが出来るものではない。
「ふッ――」
上空へ飛び、照準を合わせる。
しかし既に距離を詰めていたリビルに慌てて放つが、避けられて再び近接戦となる。体格は不利だが、リーチを潰すために超接近して懐に入るが、リビルの左手がレイムの腹に沈む。
「がッ……」
そう、ランスが使えなくなれば、もう拳しかない。
それをレイムは分かっていた。
「あぁぁぁッ――」
左手に【破壊】を流し、リビルを押す。
もし、彼も同じことをしてきたら、レイムの攻撃は当たらなかっただろうが、情けなのかただの拳の攻撃によってレイムの作戦は成功した。
ドゴォォォンッとその手から【破壊】が大地まで飛ぶ。見事、リビルはそれに押されて大地に激突した。
「痛ッ……」
ダメージは与えたが、すぐにリビルは上を見る。
リビルの視点の空、そこには漆黒の魔法陣が敷き詰められており、それら全てに漆黒の光が灯っている。
「マジか――」
最古の魔王・第四位“滅空の魔王”リビル・リグレウスは驚愕するほどの大量の魔法陣と膨大な魔力量が確認された。
その魔力量はハッキリ言ってリビル・リグレウスより格上だ。
あれは、まずい。もろに当たれば、ただでは済まない。【破壊】というどう見ても攻撃力特化の性質を持っている力が上空で発射寸前である。
「行っけぇぇぇッ!!!」
天空を埋めた黒い光が地面に落ちる様は漆黒の帳であるが、それは絶大な威力を持ち、触れたものの形を破壊し、崩壊へ、消滅へ導く。
レイムの攻撃は広域まで届き、発射直後に動いたリビルの判断は完全に間違っている。
「やばッ――」
目が良いレイムは上空からでもリビルの慌てた表情が見えた。
天が光り、大地は【破壊】で満ちる。
闇が染め上げた大地が崩れ、地表が沈む。
広域に設定したのは単に逃げられないようにするためであるが、それに加えて攻撃力が分散することなく、全ての魔法陣が一定の攻撃力を持っている。
レイムが放った衝撃は大陸を揺るがし、破壊神としての自身の強さの一端を見せつけた。
ソージ、ソピア、サリア、ジュウロウは漆黒の城内を登る。
ワーレスト、レインは魔王城を探索するということで後からついて行くということで別れて四人は魔力反応を辿って疾走する。
この城は当たり前だが、雰囲気が違った。
恐らくは闇の領域ネルトシネアスに満ちる闇の魔力が主な要素だろう。
その特徴としては水や氷の魔力のように空気が冷えているのだ。外に出た騎士とは別に城内を守護している騎士を倒しながら、大きな扉の前へと到着する。
破壊の城の玉座の間の入り口に似ている。扉の重さも同じくらいであり、ギギィと音を立てて、この城の最奥は開かれた。
紫色の石材を用いられていた道中、というか城全体に使用されているものとは違い、その玉座の間は豪華に黄金で装飾されている。
四方は輝き、天井からは黄金のシャンデリア、玉座まで続いているレッドカーペット。
そして玉座の最奥、統治者が座する黄金の椅子に座るのは最古の魔王の一人にして第五位“繁栄の魔王”マリテア・ヴィティムという一人の女。
赤紫色の長髪、成熟した身体、自覚している美貌を見せるように前が開いている肌に密着している赤と漆黒のドレスを身に纏っている。
如何にも邪悪の女、魔王だからそれが正解なのだろう。
それに第五位と呼ばれているが、それで舐めてかかった事例は存在し、今も存在しているということは彼女が単身で殲滅する実力を持ち、如何に五人の中で最弱と言われようが、舐めてかかっては死へ突っ走るものだ。
「来たか……姉さんから聞いている。それよりここに敵対者が来るなんて何年ぶりだろうが、時間の感覚は異なるとは言え、反乱軍を倒した以来だろうか。そしてその敵対者が勇者レスティアル……相手にとって不足なし、と言いたいところだが、それは死闘に入れば、分かることだ」
魔王としての威厳、女性としての美貌、強者としての力を備えている完璧な人物。
「さぁ、始めようか……破壊神に仕える者よ」




