116話 第八位・血潮拡散⑦
いくら神クラスを手にした存在であろうと身体の半分以上を欠損した場合、それは流石に致命傷だ。
神クラスの自己範疇の回復でも待ちあわない。
それより命令する意識もなくなってきて死に落ちていくのみだろう。
「がッ――」
怖い、冷たい……と、いつか感じた感覚が蘇ってくる。冷たい大水に重しをつけられて強制的に沈んでいき、全てが悲しいような感覚だ。
それは知っている。
自分がお母さんに救ってもらう直前、吸血鬼となる直前にそれに沈んでいた。
それは『死』だ。死の予感ではなく、完全に死に浸かっている感覚を彼女、いや三姉妹は経験していた。
だが、一度、経験したものでも一生、慣れることはないのだろう。
だからこそ、三姉妹共通の【鮮血】とはもう一つの力、【死滅】を解放することはできても完全解放することはできない。
この力は【死】の要素を含んでおり、能力を解放するが、その効果を放つ時間は対象に短剣を突き刺した一瞬の時間だ。
【死滅】とは文字通り、死を与え、対象を滅する。
例え、格上であっても弱体化、死を近づけ、予感を感じさせる。発動者には直接の影響はないが、自分の力であり、神器である《鮮血鎖サンテナ》から出力される【死滅】を感じざるを得ない。
どうしても生物にとって本能的に拒絶してしまう『死』を感じてしまうのだ。
だけど負けたくはない、ここで死にざまを晒すことなど主神レイム・レギレスの眷属に名を連ねている一人として力関係で劣ることなど許されない。
最破の中で一番怖いジュウロウに叱られてしまう。
「やるね、でも私達の方が強いんだよ――お姉ちゃん!!!」
「はいは~い、リールの頼みなら、聞いてあげるよ」
下に次女のピールが『鮮血神冠』で二人の足場を築き上げたため、二人は血みどろの舞台に落ちる。
そして上空からも鮮血の滝が出現し、リールに直撃する。
「チッ……もう世界系も時間が切れる。最後の手札を切るしかない――」
それは世界系の恩恵を乗せた神器解放で決めるしかない。対象は四人――大出力のエネルギーを複数に拡散させ、複数の光が追尾するもので仕留める。
「神器解放――」
この攻撃で終わらせる。
リールは【鮮血】を浴びてシールの世界系の恩恵によって身体が瞬く間に修復されていく。
正直、この一撃で自分は力尽きてしまう。
ふと、思い立つと一気に後悔が押し寄せてくる。距離を詰められた時に地形操作で仕切り直しもできたはずだ。距離を詰められている状況で地形操作で複雑にして自分の有利に持ち込めたはずだ。
だが、それは自分自身を客観的に見た評価であり、自分はそうはしなかった。自分の能力である『拡散神冠』は遠距離攻撃に特化している。
自分の魂に共鳴して宿った力、そう『能力』というものはあらゆる意味で自分の本質と類似した概念なのだ。
それはまるで鏡に映る自分のように、それはドッペルゲンガーのように、それは双子のように……。
この概念は非常に興味深い。存在に宿るという根本的な概念、個人差次第で性能は異なり、個人差次第で同じ系統でも全く別物に見え、個人差次第で規格外にもなり得る。
それはあらゆる可能性を秘めた『卵』であるのだ。
自分はそれを己が持ち得る最大限の力を行使するだけだ。
「――――《理想へ至る拡散の光》」
ラウラは囁くように詠唱を口にする。
だが、それでも対峙しているリール、その戦いを見守るシール、ピール、レインは神器解放の証と言えるもの、瞬間的であるが膨大な魔力量がラウラの神器《拡散銃スプレッド》から出力され、それは強制的に身の毛がよだつような気配となって全員が察知する。
そして鮮血の舞台で純白の光が撃ち出され、幾千もの光に分裂し、そして拡散する。その一つ一つが意思を持つようにこの場にいる四人に向かう。
「ふぅ~ッふぅ~ッ――」
その瞬間、全身が張りつめている。身体が限界を迎えた証拠であるが、まだ終わっていないため、ラウラは強く、大きく、深呼吸をする。全員を屠るためにこのやり方をしたが、しっかりと死んだのを確認しなければいけない。
相手の死を見なければ、油断などできない。
だが、神器解放のせいで自分の前方は異常に明るい。膨大な魔力が満ちて、この痕跡が消えるまで時間はかかるほどにラウラの魔力は光となって満ちている。
「……あ――」
だが、それは目の前に現れた。
なんせいつの間にか自分の間合いに入り、傷を負っているが、自分を殺すという明確な殺意を持って褐色の吸血鬼は短剣を握っている。
「たとえ手足をもがれたとしても、主のためにこの身を酷使するだけ、それがわたしたちです――」
「う、そ――」
「わたしたちの血は特別なんです。さぁ、死滅してください――」
「ぐがあああッ!!!」
だが、簡単に諦める彼女ではなく、声を振り絞り、まだその手に握られている《拡散銃スプレッド》をリールに向けようとするが、真紅の舞台が崩壊してラウラはガクンと傾く。
そして――グサッと胸部に強い衝撃、人一人分の重りがかかる。リールは意図的に地面を崩壊させ、その隙にラウラの心臓に短剣を突き立てた。
ラウラは無抵抗で地面に衝突する。
いや、もう抵抗する余力もなかった。神クラスの能力者の切り札である世界系や神器解放の手札を切ったというのに誰一人、殺すことが出来なかったのだから、天秤はこちらに傾いていたのだろう。
それにそれらを発動すれば、絶対に勝てるなんてことはなかった。確かに切り札だろうが、それは個人差次第で魔力量による回数制限は異なる。
一度なら、その切るタイミングが重要になり、数回なら初手で切ってきてもおかしくはない。
神の力を冠する力、それを振るうにも並々ならぬ努力、技術、才能が必要なのだろうと分かった。
どれだってそうだろう。
どんなことでも努力など当たり前だし、才能があろうと一切の努力をしないなんてことはない、それがまた一つ、存在と物事の理だろう。
「最後に言い残すことは……?」
「ふふ……わたしの人生なんて、なにもおもしろいものなんて、なかった……」
自分の人生のキャンパスには黒や灰色しかない。明るい色なんて今まで見たこともなかった。
自分はまだ子供だ。
だからこそ、幼い頃に環境を変えられ、強制的に能力を目覚め、戦場で生きていく兵士となった。
一見、特別に見えるだろうが、それは彼女にとって『当たり前』だった。
当然、当たり前のものを珍しがったりしない。
幼いからこそ、彼女の人生は暗いものまみれであった。なぜこうなってしまったのか、正解など導き出せることはできず、答えを言ってくれる者もいない。
だからこそ同じ世界に生きる一人の少年に憧れ、好意を持った。黒色や灰色の中でも強く生きている少年に……。
「だけど、これはおもしろかった……色は赤……もっと、ルイカみたいに、わたしも――」
「……ッ――」
敵である少女、ラウラの声が途切れた後、リールは静かに強く能力を流し、その命を終わらせた。
「ふぅ~……いっ、ぐぐ……」
「リール、大丈夫?」
戦いが終わった。
見た目は五体満足であろうと内部、内臓や精神、魂はガタガタである。
「いいや、疲れたよ。お母さん」
「ふふ、少し休んだら、目的地、中心へ向かおう」
レインの隣にはシールとピールがいた。不参加が二人だったとは言え、好戦的であるシールとリールと渡り合ったことは実力者である証明だ。
「うん……じゃあね、ラウラ。わたし、わたしたちも面白かったよ――」
トドメを刺したリールは死んだラウラに向かってそう言い残して静かに去った。
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