114話 第八位・血潮拡散⑤
「いい判断なのかな? これが私の強みだからね~」
まだまだ余裕そうな表情を浮かべている。
その表情を汲み取るなら、まだまだ手札は存在しており、本気の片鱗は出しているのだろうが、全力は出していない。
「なら、こっちも強みを活かす!!」
「お姉ちゃん……」
「うん、行くよ……」
紛いなりの姉妹……いいや、後天的に繋がりを得た吸血鬼の姉妹たち、彼女たちの強みは紛れもなく、連携にある、と……。
その真剣な瞳、態度でラウラも本気の度合いを悟って余裕な表情が消えて《拡散銃スプレッド》を構える。
シールとリールの基礎身体能力は確実にラウラより上回っているが、能力の性質および性能に関してシールとリールは厄介と認識している。
が、彼女らの戦法はゴリ押しであるため、まずは突破口を見つける必要がある。
「サングディス――」
最高の出力機《鮮血剣サングディス》に魔力を注ぐと真紅の刀身からたちまち赤い液体が溢れ出す。
「サンテナ――」
三女のリールの神器《鮮血鎖サンテナ》は両端に短剣が備わったものであり、そこからは赤い液体は溢れ出していないが、その鎖は伸縮自在であり、リールの足下で鎖が積み上がる。
「――〈拡散花火〉」
ラウラの権能が発動したと同時に二人は動き出す。彼女らの身体能力なら、攻撃のタイミングと一度見たものなら、対処可能な技量を持つ。
シールは左右に動きながら、刀身に満ちた血液を斬撃として飛ばし、リールはその隙を突く。
ガリガリと鎖の音を響き渡させ、意図的に強い意思樹を自分の方へ向け、一方の短剣を飛ばす。
「連携は凄いね。でも、攻撃は必ず私に触れる、そうゆうことなら、私を倒すことなんて困難だよ」
ラウラは《拡散銃スプレッド》を右手でシールに向けながら、左手を向かってくる《鮮血鎖サンテナ》の一端の短剣の前に突き出す。
え、自ら神器に触れるなんて――
近接戦闘は苦手、いや遠距離特化である故に熟すことなんて無理な話しなのだろう。そんな彼女が敵の刃に手を触れようとしている。
そしてその手に触れた瞬間、《鮮血鎖サンテナ》の短剣が弾かれた。
「……ふぅん、なるほど」
「もう、わかった――」
それを目撃した二人はすぐに正解を導き出す。
別に簡単な話しであり、能力を行使する際に神器が必要不可欠とは限らない。要は自分の身体からも能力を行使することは可能である。
つまり遠距離主体であるラウラの間合いを詰め、懐に入ったとしても対処法はしっかりと考えてある。
「まぁ、詰めるだけだけど――」
二人は目を合わして交互に攻撃を仕掛け、ラウラはそれを妨害するかのように〈拡散光球〉を二人に撃つ。
だが、二人は〈拡散光球〉の軌道に慣れており、片手間に対処しつつシールは意図的に血の斬撃をラウラに放ち、彼女の周りに血だまりを作り、〈鮮血触手〉を発動し、全方位からの攻撃を試みる。
「――〈拡散花火〉」
それを後方に向けて放ち、鮮血と一緒にビルの壁を破壊して外壁を登る。
「ふぅん……やっぱり自分から拡散するっていう手はないみたいね。能力の仕様は銃の使い方か、拡散の性質を含んだもの、攻撃の間は引き金を引く時間、隙はないに等しいけど、銃、そして手を抑えれば、無力になるから……」
「一点集中、だね」
ラウラは全方位攻撃を持ち合わせていないが、それを対処する頭を持っている。全方位で隙を作ることもいいが、二人の作戦はただ一点に攻撃を集中させて突破口を無理やり作る。
「わたしが隙を作るから、リール、頼んだよ?」
「ん……任せて」
今まで見せた敵の行動から戦法と突破口の見つけ出して次で決めると覚悟し、二人はラウラの後を追い、壁の穴から外壁へ上り、屋上へ目指す。
地形を変化させたことで暗い街並みを見通すことができる高さのビル、その屋上に三人の少女の影が存在する。
「さっきのは良かったね」
ラウラは笑いかける。
だが、その心の内では自分の弱点、弱みを知られたと確信しており、次の手はそこを突かれるのだろう予想する。心理戦と行きたいところだが、野性味のある二人にはそんなものは通用しないと悟る。
「そりゃどうも……悪いけど、終わらせてもらうよ?」
吸血鬼の三姉妹、長女のシール・レペレストの顔は自信に満ちていた。突破口を編み出し、予想ではそれをすることで勝利を掴み取ることができるが、神クラス同士の戦いはそんなに甘くはない。
神と神の戦いは命がけであり、それこそが『戦い』というものだ。
その絶対の自信にラウラは気に留める。
この後に起こることは自分に一撃を入れられると信じているのか、さっきの全方位攻撃の後でもう勝利の道筋を編み出したのなら……。
その方法は考えられる中で候補を上げるなら……。
「――〈鮮血の世界〉」
その瞬間、シール・レペレストと《鮮血剣サングディス》から大量の血液が出現し、ケーキの生地に生クリームを塗るかのように満遍なく、ビルを赤く染め上げる。
それは時間経過とともに能力性能と範囲が向上していく領域環境型であった。
「ッ!! その思い切り――」
最大の権能、世界系をシール・レペレストは顕現した。
それは自分のどこかに余裕があった証拠だ。まだ核心的な勝利の状況になっていないというのに自信満々な相手をまだ分かっていないのだろうと決めてしまった。
これは自分がまだまだである証拠であり、相手の魔力量的にも一度か、二度である切り札であると決めていた。
いや、それは間違っていないが、これこそ役割分担ができる連携の強みだ。
「でも、こっちも世界系を展開すればいいだけだよ――」
シールが領域環境型である〈鮮血の世界〉を展開し、リールがラウラに迫る。
相手が世界系を展開した以上、対策するにはこちらも世界系を展開するしかないため、ラウラも覚悟を決める。
「――〈拡散の世界〉」
そして瞬時に銃口をリールに向けて引き金を引き、リールは〈鮮血爆発〉を投げつけ、お互いの攻撃が衝突する。
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