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111話 領域騒動⑭



 この戦いで彼が辿り着いた神器の証明、籠手型の神器を顕現した後に出力が向上して明確に意識を向けていない方向、全方位の物質が共鳴して蠢いている。

 しかしこれでフェルもリツリと同じく神器を手にした状況となった。


「嫌な言葉ですね。殺す、だなんて……殺意に満ちているとしてもあなたの中にはそれ以外の感情があるように見えますが……」


「こっちこそ嫌だな。人の心をジロジロと見るんじゃねぇよッ!!!」


 神器を装備している右手を振り払うと周囲の黒く染まった物質が剣とナイフへと形を変えて無数の刃がフェルに共鳴して対象であるリツリへ迫る。

 完全に元の出力より向上しており、フェルの意識を向けただけで軌道を容易に変えられる。


「――〈黒壊〉」


 幾百、幾千の刃に対して刀身を伸ばして迎え撃つ。更に能力の基本となる黒く破壊の性質を纏った物質を生成するという解釈を曲げ、自分が操ることができる性質に染め上げて逆に掌握しようと刀身から力を伝播させる。

 だが、元々他の干渉する系統ではないため、そう易々と干渉はできず、回避するために後方に飛ぶ。


「俺が変わろうか?」


「いいえ、私がやります」


 自分の力を証明のためにこの少年を救うために自分が適任であると自負して戦闘を続行する。

 そして一つ分かったことがある。

 お互いに自分が操れる物質を生成して行使する二人だが、最終的に行きついたのが一つの大剣を用いたリツリと行使する範囲を広げて数で圧倒するフェル。相性は曖昧であり、似たような性質を持ち、扱い方も違う。


 だけど一つは言える。

 この場でこの悲しげな少年に対して自分が介錯する権利がある。彼の前に現れ、敵意を向け、戦いを始め、彼を覚醒させたのだから……。目覚めたきっかけを作ったのだから、自分で終わらせる。


「がッ……」


 覚醒……それは突然の成長であり、肉体や精神、魂に対して影響する負荷は途轍もないものだろう。

 今の自分を超えることが覚醒、それは喜ばしいことだが、反動は大きい。最悪の場合、自滅するだろう。

 魂の隣に存在する『能力』という関係上、一歩、間違えれば、自壊する。

 相当の覚悟を持って神器という今まで手元になかったものを顕現させ、目の前の敵に足を進め、更なる力を求めている。


 力、それが生き残るための彼にとっての最善の手段だ。


「ぐぅ……自分に馴染むのを待っている暇なんかない……――」


 フェルは少し考えて左手を懐に入れて何かを掴む。

 自分達の他者から受け取った切り札、だが、それを使えば……これから自分が生きることはできないだろう。

 しかし悩む時間など惜しい、この実力差で理解できるのは時間をかけることは禁物だ。

 今、やることは一つだ。


「畳み掛けるッ――!!!」


 右手を前に出すとリツリに向かっていた幾千の刃がフェルの中心として周回する。刃の壁で完全には見えないが、漆黒の物質を右手に集約させて十字架のような長剣を顕現した。

 リツリはそれに驚愕する。

その長剣は明らかに神器だった。


「なるほど、本来の籠手型の神器で生み出された武器も神器扱いになると……」


 その性質から実質的に神器の型を変えられることができるのだ。

 今まで生成したのは剣やナイフだけだったが、リツリが一番怖いのはやはり飛び道具だろう。

 これは推測になるが、剣やナイフの類は籠手型から離れれば、神器としての格を消失するだろう。

 更にその根拠を上げるのは神器の概念だ。神器の形、型というものは基本、剣や大剣型から弓や槍型の神器に変えることは不可能だ。

 元々変更可能な神器か、延長線上なら多少の仕様変更はあり得るだろうが、全く別のものに変更することは出来ない。


 だが、籠手型の神器の手の内が、籠手型の延長線上で生み出された武器が神器として含まれているのなら、飛ぼ道具である弓や銃だって可能だろう。

 彼が更なる成長を遂げる前に決着をつける。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 次々と周囲を黒く染めていき、幾千の刃を顕現させてその全てがリツリに向けられるが、リツリはフェルにはない手段を発動する。


「神器解放……」


 その瞬間、リツリが握る《漆黒大剣シルヴァグレン》に自身の魔力と周囲に満ちている魔力が集約される。

 それを誇らしく、その力を見せつけるように上へ掲げる。


「あれが……クソッ!!!」


 その御業が神器の力を解放したものだとすぐに理解するが、さっきまで神器を証明していなかった自分には神器解放など程遠い。

 だが、一つだけ確実な方法がある。

 十番隊『暗黒満月』に上層部から支給されたもの、それは存在の位階を強制的に引き上げることができる薬品。自決用と言われているのは確実に今の自分より強くなれるが、登った先で適応する可能性は低いため、結果的にこの薬は自決用として扱われる。

 意地の悪いことに薬の説明は嘘偽りなく、入っていたケースに記されており、それを知った上で支給された。手元に持っているが、強制ではない。だが、任務に失敗したら、高い確率で組織から始末されるだろう。


 まただ……また究極の選択だ。

 一つ、薬を使えば、確実に自分の強化を得られるが、その後の安全は保障できない。

 一つ、薬を使わなければ、神器解放の攻撃で負ける確率が高くなる。


 自分の人生の中で迫られる選択は本当に究極だらけだ。


「お、俺は――」


「――――《主神の片鱗(ディウスベガ・)、威光の剣(シルヴァグレン)》ッ!!!」


 そしてフェルが思い詰めている隙にリツリは大剣を振り下ろし、刀身に帯びた魔力が振り下ろされた方向に大地を抉り、そのまま回避も防御もせず、少年は高密度の魔力の斬撃に飲み込まれた。

 斬撃はフェルで止まり、対象を削り取るように巨大な魔力の螺旋が轟く。


「はぁ~……はぁ~……」


 神器解放も久しぶりに発動したリツリはあからさまな疲労に苛まれながら、その自分が放った魔力の螺旋をただただ眺めていた。






 その頃、ベルーナとユリナは神器解放をぶつけ合ったが、そこに立っていたのはベルーナ・ジルミゾンだった。

 もし、ベルーナが倒れようと後方に最古の魔王、第五位“繁栄の魔王”マリテア・ヴィティムがいるため、どっちにしろユリナには勝ち目などなかったのだ。


「んん……いない?」


 手ごたえはあった。

 お互いの神器解放が衝突したが、技量のあるベルーナが惜しかったことで決着がついたはずだが、消し炭になる火力を出した覚えはないため、ユリナの姿が跡形もなかったことに違和感を覚える。


「逃げられたかな……まぁ、いいかな? あの手ごたえなら、再戦は不可能だろうし、先に行こうか。マリテア」


「そうね。みんなのためにも早く領域の中心に行きましょう」


 十番隊『暗黒満月』の一人、ユリナとの戦いを終えてベルーナはマリテアと共に領域の中心へ進んだ。




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