10話 湯冷め
その後、数分に渡ってソピアはレイムの胸を揉んでいたが、他のメンバーが大浴場に入ってきた。
今更だが、全員が使用する場所だ。ジュウロウとビー、レインと三姉妹、ベルーナがそれぞれ自分に合った湯船に入る。
ソージとリツリがソピアを止めて、普通に身体を休めることにした。
「はぁ~はぁ~」
「れ、レイム様、大丈夫ですか?」
ソピアがやり過ぎたと思い、ソージはレイムを心配した。
「うん、大丈夫だよソージ」
だがレイムは胸を揉まれて、その辺りがムズムズしている。
更に少し熱にやられたのか、少し眠気に似た感覚がする。
「うぅ~」
「これは大丈夫じゃないですね。ソピア、そうゆうことは少し抑えてください。まぁ、他にも注意する人物はいますが、それに余計に緊張しますから。ルカル、奥でレイム様を休ませましょう」
「了解!」
リツリはレイムを抱き抱え、ルカルと奥へと歩く。大浴場と他に身体をほぐしてリラクスするための施設が備わっている。
寝そべれる椅子に寝かせて巨大な葉で仰ぐ。
「はぁ~……やっぱり強くなるしかないかな?」
「かも、しれませんね」
確実な方法はリツリでも知らないため、レイムの呟きを肯定する。
その呟きからレイムがどれだけ悩んでいることが伺えるが、同時にレイム自身でもすぐに大きくなるはずもないということは理解している。神として個人差もあるが外見の成長は止まることで一つのコンプレックスになり得えてしまう。
「しかし、もしこの姿で止まっても、その姿がレイム様の正真正銘の形であることは間違いないです。今のままでいいとは言えないですが、外見の成長が止まるということは外見より中身が重要ということではないでしょうか?」
神は不老の種族だ。死闘で敗れて魂が破壊されれば、消滅するが戦いがなければ永遠に存在することができる。
だからこその外見が止まるという概念があるのだろう。
リツリはその仕組みを別の見方でレイムに伝える。
「うん……もし、この姿で止まっても、好きなってくれるかな?」
それは誰なのか、もうわかっている。
その名前、誰かがという言葉を付け加えることしないレイムは本気で悩んでいる。
「もう既に、かと……」
「んん……」
返答が弱くなっている。
熱が徐々に冷めたことで収まっていた眠気が湧き上がってきた。
「レイムさまぁ!!」
するとシール、ピール、リールがレイムへと近寄っていた。
目を開けた。
「ん~何、今は構っている暇はないんだけど?」
毎回の如く、スキンシップをされることはレイムも分かっているため、いい加減な反応を示す。
だがそれではシールの笑顔は消えない。
レイムが寝ている椅子へと乗って、上へと目指して顔を近づける。外見が年下の少女が覆いかぶさっている。しかも裸で……。
「な、何?」
「ふふん。今夜はどうするんですか?」
「は?」
彼女たちの知識は豊富だ。
その言葉で吹き込まれてきたレイムはシールが発した言葉の意図を理解する。
「何もしない……」
「へぇ~、レイム様。アプローチは大事ですよ」
そうは言っているが、シールは実体験などしていないはずだ。
まぁ、レイムが知らないだけでしていたのかもしれないが、アドバイスをされたが本当に実践する覚悟なんてない。
嫌われたくないというより自分の自信が皆無だった。
「い、いや~」
誤魔化そうとするレイムの反応にニヤリと笑い、シールは口を開く。
「じゃあ、わたしがやっちゃおうかな~」
その言葉に反応して顔を上げ、ぶつかる寸前で止まる。
「ふふ~ん」
レイムを誘導し、煽っている。
するとシールの顔がパチンという音ともに下がる。
「いてッ」
「おい、シール。毎回、毎回、何度言わせればいいんだ?」
レイムとシールは顔を上げると久しぶりに起こっているレインがいた。
「申し訳ありません。レイム様」
そう言ってシールを引きはがす。
レインもレイムがソージに好意を抱いていることは知っているのでシールにおちょくられたレイムを見て、同じ目線になるように屈む。
「レイム様、素直に伝えてみてはどうですか?」
彼女の反応から全員が察したこと、それを明確にした方が曖昧な状態よりいいことは確かだろう。
「で、でも……もし、もし……」
もしも自分の気持ちが拒否されたらと恐れているのだろう。
「レイム様。玉座の間でレイム様が申し上げたことを引用するなら、『それを怖がっていたら、何もできないよ』ですよ」
「あ――」
自分が説得した言葉に自分が説得されてしまった。
そう、玉座の間で言っていたことを思い出す。
そうだ。そうだ。そうだ……。
「分かった。じゃあ一番、上の展望から」
「あぁ、それがいいですね」
展望とは玉座の間から隠し階段を上がっていくと辿り着ける場所だ。高さで言うとレイムの寝室より上、城の一番高い場所だ。曇りなどなければ、夜空を見渡せ、そこから見える夜の景色は絶景だろう。
何かを告げるなら、絶好の場所だとレイムも納得してレイムは立ち上がる。
「リツリ、後でソージを展望台に呼び出してくれる?」
「了解しました」
レイムは先に大浴場を出る。
たしかにずっと自分の気持ちをため込んでいるのは良くないと思う。初めて抱いた感情の意味をレイムは理解している。
初めてだから、人見知りだから、ではない。
その理由は一瞬、自覚したが恥ずかしさのあまりすぐに答えをあらゆる要素で覆って隠してしまったのだ。
黒いパンツと服を着て、一人で上に行く。
通路を通り、螺旋階段を上がって、玉座の間に入って、玉座の裏へ。
そこには扉があり、四角く上に伸びて壁に階段が設置されている。螺旋階段のように手すりはないが、これこそ隠し階段だ。
その上に登り、登り、登る。
この隠し階段は城内の階段の中で一番、長いものだろう。
ぺた、ぺた、とレイムの裸足の音が狭い空間に響く。
「はぁ~……」
さっきまで高ぶった心は冷えている。
その時の振動がまだ残っていて心が重い。
あの時、泣き叫んだ自分を思い出す。
自分という存在が嫌われた原因、二代目破壊神が生きていることは確実であり、それを倒せば、少なくとも自分の中では納得できるかもしれない。
そんなことを考えているうちに展望台に辿り着いた。
冷たい空気が肌に触れる。
展望台は丸い床、四つの柱の上に丸い屋根、レイムは屋根のない外周へ進み、空を見上げると無数の星が瞳に映し出される。
夜空、星の光が無限に散りばめられている。
「レイム――」
その声にレイムはすぐに振り向く。
そこにはソージがいた。
意外にも速く驚いたが、自分の胸に手を当てて、激しい鼓動を抑える。敬称なく、二人は今、同じ立場だ。
「そ、ソージ……」
ゆっくりと近づこうとしたが、先にソージがレイムに近づいた。
夜空の下、今日出会った二人だったが、一目見た時に心が魅かれた一目惚れというものを味わった。
「ねぇ、ソージ……私、言いたいことがあるの」
緊張はもう既にしている。
身体が硬直してもう一歩も動けない。
「ああ」
それに応じたソージの顔は赤面になっている。
それはレイムも同じであり、口に溜まった唾液を飲み込んで、気持ちを整えることはできないので一瞬、押し殺した。
「わ、私、ソージの事が好き――」
その後の返答は体感で数分はかかっただろう。
驚いた表情を浮かべたが、ソージはレイムを見て、微笑んだ。
「――ああ、俺もレイムが好きだ」
そう言って男らしくレイムを抱き寄せた。
それは二人の初めの一歩、小さいように見えるが本当は大きなものだった。




