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107話 領域騒動⑩



「あんなの……」


 桃色の長髪を三つ編みにした女性、シュランは基地の奥を目指しながら設置していた兵器を起動していく。自分は走っているが、後ろのもうにいる存在の気配は依然変わっていないことに甘く見ていたことを悔やむ。


 だが、この奥にある兵器と自分の能力を最大展開すれば、打倒できるだろう。

 それに人数分支給された暴走薬を相手に打ち込めば、暴走に耐えかねず自壊するはずなため、奥の手として使える。

 そもそもこの薬は十番隊に支給されたほぼ自決用の薬だ。

 他の精鋭部隊が使っているのか、不明だが、如何せんそんな話は聞いていない。話を聞くのは精鋭部隊より下の隊員が使っているイメージだ。


 だが、精鋭部隊の自分達にも配られたということはいざとなったら、それを投与して任務を達成すると同時に死ねと組織は言っているのか。

 死に際に投与して敵を巻き込んだ死を選ぶか、敵に使うかなど使い方は人それぞれだが、シュランは考察する。


 精鋭部隊とは悪の組織の最高戦力。


 そんな十番目の部隊であろうと捨て駒を表すかのように自決用の暴走薬が支給されている時点で今回の任務は十番隊が全滅するという予想をしているのではないか、というものだ。


 だが、組織側から考えてみれば、それは正しい使い方だ。相手の戦闘能力を正確に測るために精鋭部隊の中でも一番下の戦力を投下することで計測される。

 そもそも期待など持ってはいけない。捨て駒ではないなんて一言も言われていないのだから、自分で解決するしかない。

 そうこう考えている間に目的地についた。

 基地の最深部、特別なことは組織に繋がる転移装置があることだが、今回持ち込まれた兵器の中でも殺傷力が高く、矛として信用できるものがある。


 銀色のケースを勢いよく開けて中身を取り出す。

 それは漆黒の対物ライフルの狙撃銃にしてこの戦場で一つだけ支給された対破神兵器である。使い道があるだろうと自分の担当域であるこの基地に持ってきたのだ。

 必ず任務を遂行するために狙撃能力が高い奴を使ったことで無事、作戦は成功したため、これはもう不要となった。


 これは悪の組織と協力関係を持つ研究組織に素材を提供して開発してもらった超兵器。その殺傷能力は驚異的であり、防御を張ったとして貫通力は半端なく、所謂、神の域に位置している存在すら貫く。

 そもそも感知することができない。

 いや、出来たとしてもレイム・レギレスのように間に合うことなんてない。銃声は存在するが、発射と同時に音速を超え、一秒経つ遥か前に光速に達する。

 悪の組織が提供した素材は【破壊】であり、弾丸内部に存在する【破壊】を骨子として高密度の魔力で構成されており、光速に達した際に卵の殻のように弾丸の形を保っている外側が崩壊し、内部の高密度の魔力だけが定められた方向に進む。


 そのため対象を貫くのは高密度の魔力の塊であり、更に【破壊】の効力でどんな防御手段でも突破することは困難になる。

 それを距離も関係もあるだろうが一秒未満か、数秒で試行錯誤しないといけない。

 この兵器の信憑性はもう既に最重要人物を無力化したことで証明されており、どんな敵に対して有効打になり得る。


 そんな対破神兵器の二脚を立てて、通常の狙撃銃の構えのように伏せてただ一つしかない道へ向ける。


 そして静寂が流れる。

 だが、徐々にカツカツとハイヒールの音が聞こえてくる。移動してきた廊下は兵器を運用するため、大きいが、兵器の性能から横に逃げられることはない。

 ただ引き金を引けば、勝利がつく。基地の最新部は地下、当然のことながらその道は上から下がってきたもので標的の姿は最初、足下から始まる。

 つまり一撃必殺を与えるには自身の姿を見せる位置じゃないと撃てないのだ。

 そのことが懸念を呼ぶが、シュランは黙ってそれを押し殺す。


 そしてレジナインの足音と自身の鼓動だけが聞こえ、敵であるレジナイン・オーディンの足、胴体、頭部と現れる。

 純白を含んだ女が頭部まで見えた瞬間、ただ対象を殺すという純粋な殺意によって引き金は引かれた。強固な素材で作られた壁の空間内部での対破神兵器の銃声は凄まじい轟きだが、それより凄まじかったのは放たれた銃弾の方だ。

 が、頭部を狙って撃ったはずのレジナイン・オーディンは変化ない姿でそこに立っていた。


「……は?」


 シュランの気づかない内に自分の本音が漏れていた。絶対に命中する銃弾の速度、防いだとしても貫通する威力を含んだ弾丸を食らっていない。


「確かにこれは『脅威』だ……だが、そんなものを解決する策がないと思ったら大間違いだ」


「くッ!!」


 だが、すぐに戦意を取り戻したシュランは再度、引き金を引く。

 ダンッダンッと二発を放つ。銃声が響くが、銃弾が打ち抜いたのはレジナインの横、白い壁だった。

 あの速度と威力、それに対抗する策を持っていた!?

 でも、どうやって……。


「いい武器だな。でも私には通じなかったようだな」


 何かの手段を講じているのは間違いないだろう。それを暴くためにもシュランは攻撃の手を止めない。

 ダンッダンッダンッダンッ!!!

 残りの弾倉の弾数は七発であり、その全てを撃ち尽くした。


「はぁ……はぁ……」


 体力を使っていないのに息が上がる。いや、息が上がっている要因は相当な不安に駆られている今の状況に対してだ。

 スコープをずっと覗いていたため、放った四発は全てレジナインを避け、左右の壁に着弾したのをきっちりと目撃していた。


「くそッ……」


 弾切れになるなんて想定していなかったため、ケースに手を伸ばして新たな弾倉を掴み、既存の弾倉を捨てて新たな弾倉を再装填して立ち上がる。


「どうゆうこと? あんた何で死なないの?」


「ん? 私はただ生きているだけで死ぬような人じゃないんだが……ネタバラシ、というか私がその驚異的な弾丸をどのように対処したのか、それは単に空間操作の応用だ」


「空間操作……」


「そう、空間を認識し、干渉する力……それの応用で何層にも重ねた空間の壁を自分の周囲に展開する。弾丸の貫通力を想定した上で湾曲した壁を展開する。つまり予めに作っておいた道に銃弾が通っただけのことだよ」


 平然と述べる女、レジナイン・オーディン。

 最古の魔王の中でも強さの序列の中では第三位であるが、史上最強であるエマ・ラピリオンとは異質すぎる存在。

 力というものを示すことはなく、己の探求心を満たすために行動しているため、他の支配領域を持ち、自己を誇示するが、彼女の居場所は地下の基地であった。

 だが、その力は他の魔王と起源を共通するため、最強クラスだろうが、レジナインは一度も本気を出したことがないのではないとシュランは思った。


 だからその序列も仕方ないものであり、本気を出せば、第二位や第一位に容易に比肩する戦闘能力、更に脅威なのはその頭脳だろう。

 単純な火力では上位二人に劣るだろうが、その頭脳で第一位にすら比肩する。

 隠れた実力者なのは間違いない。


「さぁ、どうする? しっかり考えなさい。考えることは良いことだからね~」


 口元に右手を添えて下品に笑ってしまう口元を抑えながら、レジナインは上品にシュランに優しく呟いた。




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