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104話 領域騒動⑦



「え~いッ」


 使用人三番、活発で赤髪のボブヘアのアリア・リサードはその手から炎を放射して雑兵を焼き尽くす。


「おい、それをこっちに向けるなよ、アリア!!」


 使用人二番、漆黒の少し青みのある長髪を靡かせるルカル・リセカンドは手から漆黒の雷撃を放って雑兵の心臓を焼き消す。


「さっさとやりましょう」


 使用人四番、緑色の長髪を三つ編みにしたアザルト・リフォースは物静かな声で黄の根を操り、確実に雑兵を始末していく。


「迅速に……」


 使用人五番、水色の長髪をツインテールにしたフィリア・リフィフスは水の塊を操り、逃げ場をなくして獲物が広がらないようにしている。


「ッ……まだまだ――」


 使用人七番、紫色の長髪であるリリス・リセブンスは持ち前の戦闘を遺憾なく発揮している。


「よっと、サポートは任せて」


 使用人六番、金髪のショートであるシャルレ・リシックスは筒に巻かれた布を広げて仲間達の身体や能力を向上させる。


 リツリ以外の六人は雑兵を一掃しながら、基地を制圧していく。


「ガキか……」


「それでも油断はできませんよ」


 十番隊『暗黒満月』の一人、第七位のフェルと名乗った少年。その外見はリビルが言ったようにまだ少年と呼べるものだった。


「こんな子供が精鋭部隊なんて外見で見誤ってはいけません」


「ふん、そんなこと主神との戦闘で理解しているさ」


 主神、レイムとの戦闘のことをリビルは思い返す。

 一見、年端もいかないくらいの少女との戦闘があれだけの死闘になるとは思ってはみなかった。

 かつてその姿を目にしていたとしても見た目が予想外すぎたことで力の情報なんて頭から零れ落ちていた。

 恐らくそれが強大な力を持った幼き者を見た存在の一般的な反応だろう。


 そしてリビルは気付く。

 自分の中ではそれが少しトラウマとなっている。


「はぁ、お前がやれ。俺は見ているから」


「え、そうですか。戦闘狂なので戦いは譲ろうとしたのですが……」


「あぁ、別に俺が出る場面じゃないさ」


 と潔くリビルはリツリより後ろに下がる。

 リツリの言う通りに見た目が少年であっても精鋭部隊と名付けられた部隊の一人に数えられているのだから、やれることはやれるのだろう、とリビルは考える。


「では、そうゆうことです。部隊の主力ならここで撃破する」


 メイドの衣服を身に纏う温厚な女性、リツリ・リファーストは温情のない冷たい声で少年に告げる。

 黒いフードを深くかぶり、下の方を見つめている少年はリツリに見せる。

毛先に水色が残る黒髪、子供が持つべきであろう感情のほとんどを捨て去った表情、顔を見せる。


「あぁ、分かっているさ。なんせ、これは……戦いだから――」


 そして少年、フェルは手を上に掲げた。


「――『黒質神冠ニグレテリア』」


「本当にそんな力を……」


 神に近き御業、神の力を冠する力、とその位階の能力は評されている。


だが、全ての生命がそれを手に入れられるほどに甘くはない。それを手に入れられる存在は神そのものか、神の使徒か、何かを代償にして手に入れた者だ。


 そして彼が代償にしたのは……。


「地震ッ!!」


 フェルが能力を発動すると地面が激しく揺れ始める。


 それと同時に基地の真っ白な地面がフェルから黒く染まる。


「さあ、見せてもらうぞ。リツリ」


 リビルは完全に観戦状態でリツリを後方で見守っている。

 彼女に何かあれば、流石に戦場に出るだろうが、それまでは戦場の中で有意義に休憩している。

 フェルから広がった黒く染まった床が砕け、彼の手へと集約される。


「この力は……なるほど」


 そう、彼の力は漆黒に染まった物質を操る。

 単純だが、神クラスの能力なら、それだけではないのが怖いところだ。


「なら、こちらも――シルヴァグレン」


 メイド筆頭であるリツリ・リファーストがその名を呼びと可憐な彼女に似つかない巨大な大剣が現れた。

 それは《漆黒大剣シルヴァグレン》……彼女の出力機、神器である。

 だが、それは普通の大剣ではなく、刀身を構成している一つ一つの刃が分離する蛇腹型の大剣である。身体に似つかぬ大きな武器を振るうのは主の特徴を引き継いでいる。


 そしてフェルの手にも漆黒の剣が顕現し、踏み出す。瞬く間にリツリに接近して剣を振るう。


「ぐッ……本気ですか、まぁ、そうですよねッ!!」


 筋力には自信がないため、足を蹴り上げる。上げられた足はフェルの頭部へと命中する寸前で避けられてしまう。

 だが、それはリツリに見越しており、大剣を大きく振ろかぶる。


「いけッ!!」


 神器《漆黒大剣シルヴァグレン》の最大の特徴は刃の一つ一つが糸で連結されており、任意のタイミングで糸を伸ばして最長で五メートルまで伸ばせる。


「ッ!!」


 それはただの武器ではないため、通常、刃と刃の間には何もないが、魔力で強化していることで伸びた刃の方面は触れたものを斬るものとなっている。フェルは飛ぶことで回避して側面を足場にして接近する。

 ただでさえ大きな武器を扱えば、武器を振り回していても、それが隙となる。


「甘いッ」


 戦いに慣れた少年は淡々と敵であるリツリに近づけ、首に剣を振るう。


「流石です。ですが、これが狙いだったことを想定できなかったのが、あなたの落ち度です――」


 それを言われた後、リツリ・リファースト内部から魔力が溢れ出す。

 この反応……そういえば、とフェルは思い出す。そう、リツリは能力解放をしていないということを――


「ぐッ!!!」


「――『黒壊神冠ネルゲネオ』」


 最破の一人、当然、彼女も能力を宿している。

 神の僕、使徒として持った神の力に似た能力を解放し、黒い力を放出しながら、神器として周囲に力の影響を及ぼした。

 ゴリゴリと簡単に地面が弾け飛び、リツリの近くにいたフェルも漆黒の力に襲われ、もの凄い勢いで吹っ飛ばされた。


 何も考えたくなかった――と自分の中にあった言葉に意識が向いた。


 その意味はそのまんまの意味だ。


 もう、深くは考えずに自分の安全だけを望み、それ以外を切り落とし、今の安全のために敵を殺す。

 それだけが自分が生きる道だから……。




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