103話 領域騒動⑥
計算通り、それは無論、全てを計算して結果すら想像通りとなった時に発言するものだ。
さて、この場においてそれを口に出来る人はいるだろうか。その人物はとんでもない天才か、これを全て推測して計画を立てた立案者くらいだろう。
「くはは……」
桃色の長髪を三つ編みにした女性、悪の組織の最高戦力、精鋭部隊の一角、十番隊『暗黒満月』が一人、第三位、シュランが手を払うと近未来的な大きな箱の面が解体されて兵器が現れた。
それはガトリング砲、すぐに起動してレジナインに向けて無数の弾丸を放つ。
「なるほど、流石に魔力強化されているか。でも、それだけか? あれでも精鋭部隊の一人なら、何かあると思うが……まさか、兵器の自動運用だけって……なわけないな」
レジナインは鼻で笑いながら、魔力障壁を展開する。
彼女は格下であろうとあらゆる可能性を予想している。頭が良いという自分のメリット最大限に活用して魔王のように圧倒的力量で押しつぶす。
「さっきの行動――」
そしてレジナインは一つ気になったことがある。
さっきのシュランが手を払った動作、魔力とは別に何かあると根拠はないが、自分の勘というものも信じているため、レジナインは相手の動作に注意することにした。
「チッ、流石は魔王の一角だな。あのガトリング砲ダメか……」
正確には何十、何百にも重ねた魔力障壁の表面はガトリング砲によってバリンバリンと破壊されているが、それと同じく障壁を指定した数まで戻そうと新たに展開されているため、レジナインに届くことはない。
奴を叩くには生半可な攻撃では撃破することなんて出来ないだろう。そう、即座に判断してヘラヘラとした表情が薄れ、床に手を触れる。
「――『接続神冠』」
その瞬間、レジナインの左右の床が割れ、起き上がり、対象であるレジナインを板挟みにする。
しかし自動防御システムによって魔力障壁で対処されてしまう。
「同じことの繰り返しだが?」
「ふん、なわけねぇだろ!!」
その瞬間、彼女の能力の本領が発揮される。光の根のようなものが、板挟みにした床から現れ、魔力障壁に侵入して一瞬にして魔力障壁が粉砕した。
「ッ――――」
だが、その床だった壁はレジナインに触れる前に粉々に砕け散った。
「チッ……嘘でしょ」
「ふん、そうゆうことか。あらゆるものに【接続】して操る。シンプルながら汎用性はありそうだ……でも、舐めないさ。如何に分かりやすい能力でも油断などしないから安心しなさい」
「……」
「どうした? 硬直しているが……あぁ、さっきはただ私に触れる前に壁を粉々にしたまでだ。そんな単純な行動に驚かれては喜んでいいんのかどうかわからないが……」
シュランから明確に焦りが見える。
相手であるレジナイン・オーディン。一つの世界で最古の魔王と呼ばれた第三位“知識の魔王”として名を馳せている。
武力が目立つ他の魔王とは違い、頭脳と自分の研究を優先して表舞台に現れることはないという異色な存在だ。
そして彼女の強さ、脅威は二つ名の通りから『知識』だろう。
シュランは怯えている。能力を安易に見せたからか、それとも最初から……。いや、どうゆうことだ。恐怖からか、思ってもみないことを考えてしまう。恐怖、自分の全てを見据えているようでもうこれから行う行動の全てが無駄になるのか……。
「どうした? もっと私を楽しませてくれないか? 長生きの秘訣は好奇心も一つの要因なんだよ。私を老けさせたいのか?」
「くそッ!!!」
シュランはこんな所でちまちまやる必要なんてないと判断して奥へと全力で走り出す。
「ふふ、あるんじゃないか」
レジナインは無邪気に期待の笑いを浮かべてスタスタと歩いて行く。
「ふんッ!!」
格闘の白兵戦が得意なビーが第九位グレルの相手をすることになり、氷結での広範囲攻撃が得意なレミナスが基地の制圧を行うことになった。
「流石だな。ビーヴァルド」
「ふん、嬉しくないね。それより情報をもらおうか?」
「ほう、それは冗談か?」
「いや、本気だよッ!!」
腰を落として拳を突いた瞬間、異様な風がグレルを襲う。
かつて竜種の中でもトップの個体である竜王の一角、他の竜王とは六倍以上の巨体を誇る“無敗の巨竜”と呼ばれる存在、かつて主神に戦いを挑んだ猛者。
司る属性は風、単なる風と思ったら、大間違いだ。
「ぐおッ!!」
拳に風を乗せて指向性をつけることで拳と風の威力が合わさったもの、元々の筋力で攻撃力を強化されている。風の力はビー自体を浮かせることや人体を容易く切断する威力まで出力できる。
一見、脳筋のように見えるが、戦闘技術や作戦立案はジュウロウに次ぐ。
「単なる風だと思ったら、大間違いだぞ!!」
今の形態の強みはなんと言っても徒手空拳を用いた接近戦闘だ。
偶然にもグレルも武器も持たずに格闘で戦闘を行っているため、私情だがビーは親近感を持ち始めた。
ガンガンッとそれは弾丸のような打撃。リーチは剣に劣るが、繰り出す打撃の数は上、距離を詰め、懐に入ることも拳の方が有利だろう。
だが、流石の精鋭部隊の一人だ。
本体の戦闘技術もあるだろうが、纏っているパワードスーツの性能でビーと渡り合っている。
だが、生命という枠組みに関して言えば、どの世界でもトップクラスの生物だからその差を埋めることがグレルには出来るのだろうか。
「ハァァッ!!!」
ビーの拳を受け流しながら、攻撃を仕掛けるが簡単に防がれて蹴りを繰り出されるが、ギリギリで防ぎ、威力に押されて二人の距離が開く。
この時点でグレルはビーと自分との実力差を理解する。
そもそも単純な近接戦闘で打倒できるなら、自分達のような精鋭部隊を使う必要がないはずだ。
そして十番隊『暗黒満月』の中でも一番、戦闘経験のある男、グレルは決断した。
「――『制御神冠』」
「ッ……能力の発動か、そうだよなぁ!!」
ビーはいつもより多く風を拳に纏わせて前に突く。
それは指向性のある暴風と変わらない風力がグレルに迫る。
しかしグレルは右手を前に出してビーが放った暴風を掴み、左方向に身体を回してなんと向かってきた暴風をビーへと返したのだ。
「ん……」
ゴウゥゥゥッと自分が放った暴風に晒されたビーは考える。
風なんて普通掴むことは出来ない。あり得るとしたら、同じ風使いか、触れたものに干渉することができる能力だろう、と考察するが、ジュウロウやレジナインのようにすぐに的確な答えを出すことはできない。
「どうゆうことだ……?」
結果、分からない。
「俺の力は能力の中では当たりの奴だ。効果範囲は自身が触れたもの、それを【制御】することができる。つまり手で触れたものを御することができる。相手が風使いのようなエレメント野郎でよかったよ。俺の能力が使いやすいからな」
「マジか……」
手で触れたもの、つまり近接戦闘を得意とするビーとは最悪な能力であり、恐らく地面や空気、本人の技量次第で高い汎用性を持っている。
片やビーは自分の能力を振り返る。そう、自分が操るのは誰でも腕を振れば、動けば、簡単に起こせる空間の揺らぎ、風だ。
だが、そんな風を巧みに操り、最強へと目指した者であるビーは自分の力を悔やむことなんてすっかり忘れていた。
それより楽しさが湧いてきた。
生物としての闘争本能だろうか、仲間内以外での久方ぶりの愉快さが込み上げてくる。
「――それは、面白じゃないかぁ」
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