102話 第六位・黒竜戦機③
悪の組織『混沌神殿・対真善殲滅機構』の組織はこの宇宙を悪で染めることを目的としている。
色んな物語で描かれるような『悪』を想像してもらえればいいだろう。
だが、そんな『悪』を皮のように羽織っているだけで全員がそれではない。
彼、彼らが望むのはただ生きる、いや生き残ることだけだ。宇宙を悪で染めるという目的に必要不可欠なのは組織が保有する『戦力』だろう。
その『戦力』を保有するために数多の世界から見込みのある人物、既に力を得ている人物、ただ実験材料としての人物をかき集めている。
その中でもルイカはただの実験材料として悪の組織に連れ去られた子供たちの一人だった。戦力を増やす手段の一つとして貧困の環境に身を置く子供や大人が悪の組織に連行されていく。実験材料として連れていかれる場所こそが悪の組織『混沌神殿』と宇宙研究組織『ジーニアライネンス』の共同で設置された能力実験施設『ジービル』だ。
ルイカも過酷な環境で生まれた少年であり、そこで悪による襲撃を受けて子供だから実験材料として実験施設に連行された。
自分は子供だからか、子供だけの空間に押し込められたが、すぐに地獄が始まった。
実験材料は健康体であろうが、障害を抱えている人であろうが、全員が最初の検査にかかる。
それこそが基本的な実験である『魂』に干渉し、変化を齎すことで能力を発現させる実験だ。
どんな存在であろうと存在の根幹である『魂』に干渉され、元の形から無理やり変化を促す行為は『魂』において非常に危険な行為であり、一歩間違えれば、『魂』が砕かれて輪廻転生すらできなくなってしまう。
だが、どんな方法でも『魂』に干渉しなければ、高確率で変化及び目的である『能力』の発現には至らないのだ。
そもそもの仕組みにおいて『魂』と『能力』は密接な関係があることに基づいている。
「その痛みは全身が絶叫のように震えていた。あの痛みは本当に自分んという存在が粉砕してしまいそうなくらいだった。だが、一つ救いだったのはその影響で感覚が飛んだことで『魂』をいじられて生じる余韻の痛みを感じずに済んだ……」
「そんなことを……」
「あぁ、絶叫した人はすぐに喉が潰れて吐血した。耐えようと力を込めた人はその部位の神経や筋肉がはち切れる。あれはただ身を任せるしかない……」
それが実験施設に運ばれた実験材料の全員が行うべき基本的の工程なのだ。
そこでルイカは適正を受けた。
しかしルイカは『能力』を発現することはなかった。実験の結果、研究者から評価されたのは『魂』の耐久性だった。
基本の工程の結果は大きく分けて三つ存在する。
一つは単純に耐久力もなく、能力の発現もなく、壊れた者。一つはルイカのように『魂』のポテンシャルを評価された者。一つは成功案件である『能力』を発現した者。
この三つの中で幸せなのは一つ目だろう。
なぜなら、他の二つは大敗進む道と内容は同じだからだ。能力を発現した者は更なる可能性を求め、強化及び調整を行う。『魂』のポテンシャルを評価された者もあらゆる『能力』と照らし合わされ、適合する力を探していく。
悪の組織が保管している『能力』と『魂』を一時的に接続して適合率を見ていく。
この工程も凄まじい苦痛だった。
身体の中に物理的に手を入れられるのも激しい苦痛や違和感でおかしくなりそうだが、それが『魂』を通じて飛んでいった感覚が呼び覚まされる。
全身にひびが入り、バラバラになってしまいそうな痛み。
それと同時に圧倒的な孤独感で満ちる。
しかし周りには確かに研究者と自分と同じように研究によって絶叫をしている実験体は存在しているが、それは関係がない。
彼が自覚できるものはもう自分という存在が崩壊しかけるほどの変化を繰り返しているだけなのだから……。
意識が飛び、また同じ感覚に苛まれる。
痛みなんて慣れた、はずだった。
「そして僕は【暗黒】という保険と竜の因子を融合したこの力を宿した……」
保険というのは能力と適合する過程での最低ラインであり、『魂』に干渉して『能力』を発現させる方法に成果が見られなかった場合、悪が制御しやすい力として『暗黒』が採用され、それを先に埋め込み、別の能力と融合することで半強制的に『能力』を発現させる方法である。
発現方法としては保険であるが、成功率や強力な個体を生み出すことが出来るため、ダメ押しではなく、確定な発現方法とされる。
「竜っていうのはどこの世界でも存在として強力な存在で、人が適合する確率も低いらしいんだ。つまり俺は選ばれた奴等の中でも最も優れている選ばれた存在っていうことだ。さっきは油断したが、もう油断はしない――」
ルイカは竜の形となっている頭部の鱗を脱ぎ、素顔を見せる。
月明かりに照らされた少年の顔、確かにその歳で経験している以上の痛みを知っている表情だが、その幼さは抜けていない。
本当に『魂』レベルの痛みを経験しても一段と老けることはない、いや、本当に彼だからこその耐久性だ。
そしてソージを見下しながら、ルイカは話す。
「――あんたが勇者なら、俺は邪竜でも構わない。元々、善悪なんて興味ないし、極限の状況でどちらが善か、悪かなんて関係ないと思わないか? 勝った奴が正しい、それだけが絶対的なものだ!!」
彼、ルイカの過去……そしてルイカの意見を黙って聞いたソージはゆっくりと剣を杖にして立ち上がろうとする。
「あぁ、そうゆうことか……それをお前は正しいと思っているのなら、そうなんだろうな。だが、その意見は秩序無き場所でしか通らない」
無秩序の意見はルールが敷かれた場所では無論、通ることはない。
「別にそれを全力で否定するつもりはない。勝った奴が意見を言える、それは正しい……君の境遇から善悪に興味がなく、それより生きることに必死なのも理解できる――」
そう、目の前にいるのはそうゆう存在であり、子供だ。
自分より年下でありながら、自分にはない経験をして存在としてのポテンシャルは恐らく上である少年。
それでもここで止まるわけにはいかない、だからソージは強く言葉を発する。
「――でも、それでも、今のお前は間違っている」
その言葉をルイカは飲み込み、考えて反論する。
「そうか、そもそも戦争は無秩序だろ? 自分のために相手を蹂躙する。それに巻き込まれたとしてもそれは仕方がないことで片付けられる」
「弱肉強食ってことか……でも、秩序が永遠でないのと同じく無秩序だって永遠じゃない。戦争っていうのは無秩序だが、それは秩序を新たに敷く行為だ。悪く言うなら、正しさを押し付ける。どっちが正しくでも悪くても、負けたは意見なんて言えない。綺麗ごとなんて戦場で言いたくはない……でも、俺は……正しくなければいけない」
「ふん、正しさの押し付けか?」
「あぁ、お前にとってはそうだろう。無秩序にいるお前、秩序にいる俺……お互いが気に食わないから戦う。戦争の中では善悪なんて薄れる……勇者って呼ばれた俺が言う言葉じゃないが、今回はお前に合わせるよ――」
そしてソージは決心した硬い表情を向け、その聖剣をルイカに向ける。
「これは戦争だ。勝った奴だ正しい、俺は善として悪であるお前を倒す――!!!」
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