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101話 第六位・黒竜戦機②



 竜の鱗、それを全身に纏う姿は漆黒の騎士にも見える。

 何も持たず、徒手空拳で戦闘を行う。連打の数はルイカの方が多いが、切れ味とリーチはソージが勝っている。

 基本の立ち回りは近接戦闘だが、ソージは飛ばす斬撃、人工であろうと竜人ならブレスを有しているだろうと予想しているが、ソージの切れ味を気にしてルイカは距離を今は取らせないように立ち回っている。


 ガンガンガンッと暗闇となった街、無人の建物の屋上で火花が散り、度々ソージとルイカの顔が照らされる。

 人間の剣聖と人工の竜人の激突は時間経過とともに激しさを増していく。

 お互いがお互いの戦闘姿勢を崩そうと攻撃をするが、防御されているこの状況は完全に拮抗している。

 お互いがこのままでは勝敗はつかない、と考えながらも一歩を引けば、相手にとって有効打になってしまう可能性がある。


 だが、それをしなければ、状況は動かない。先に仕掛けられるのは困る。


 その瞬間、ソージとルイカが同時に後方へ地面を蹴り、距離を取った。偶然であろう一致に二人は内心驚きながら、攻撃を仕掛ける。


「――《月牙翔斬げつがしょうざん》ッ!!!」


 その隙を逃がさずに剣を振り下ろす。

 黄金に輝く光の斬撃を飛ばす。防ごうが回避しようが、次の動作を既に考えてあの鎧を砕き、勝敗を分ける有効打を与える。


 だが、この距離で音速に達した斬撃を避けることはいくら神クラスの能力者でも困難だろう。


「ッ――――」


 ルイカは肩を前に傾けてギリギリで回避した。

 そこでソージは能力予想を明確にする。

 ルイカの能力は身体強化の方面に偏った性能である、という推測だ。白兵戦に可能なものはブレスくらいで剣と拳の戦いでソージの剣技のように溜めが些細なものであっても繰り出すことは無理なんだろう。


 こちらに向かってくるルイカに向かってソージを地面を蹴り、走り出す。


「――《天火閃光てんかせんこう》ッ!!」


 居合斬り、この剣技の肝は素早さだ。魔力を全身に流し、馴染ませて反動をゼロにすることは出来ないが、それが最高峰の身体強化のやり方だ。

 一瞬、相手の姿が消えたと思わせる。

 一対一であるなら、集中力の大半を相手に向けるため、成功率は上がる。


 ザァンッ!!!

 硬い鱗を突破し、斬撃が途中で止まることなく、振り切った音とともにルイカの左肩に入った斬撃が炸裂する。


「ぐッ……な、なにッ――」


 その斬撃を繰り出してルイカを飛び越えて領域の中心へ走り出す。

 逃げた、と一瞬思ったが、ソージがはっきりと自分を見てきたことであり、これは明らかに挑発されている。

 そもそも自分の役割はソージ・レスティアルを始末すること……追いかけなければ、自分の役割を自分で投げ出すことになってしまう。


「ふざけやがって――」


 煽りに心が激しく反応する。


「俺は強い……あんな奴、簡単に殺せるはずなんだ……。はぁ……はぁ……俺はこの力に適合した選ばれた者だ。ここで投げ出したら、何のためにここまで――」


 ルイカの精神が揺れる。

 荒波に飲まれた舟のように自信というものが透明になって自分の根本――『弱さ』が全ての感覚に突き付けられる。


「あぁ、だが……今は違う!!」


 自分を奮い立たせて走り出す。

 ここにいるのは生き残った証、なのにここで躓けば、これまでの全てが無駄になる。竜の因子を埋め込まれているため、常人、いや神クラスの能力も相まって溜め込んでいる魔力と限界まで発生する魔力の総量なら、湯水のように使っても問題はない。距離を取って目的地へと少しでも近づけたいという行動……。


「まず、距離を取ることが間違いだな――」


 相手も予想はしていただろう。

 ルイカは竜の因子から湧き出る魔力を口内に蓄積させる。見ての通り、威力を上げるほど溜めが必要なものだが、命中すれば、格下であるアイツは消し炭になる。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」


 口内に限界まで溜めた魔力を凝縮して標的へと放つ。

 高密度の魔力が指向性をつけられて光線と化す。溜めはデカい、火力を出したいなら命中させるために動くことは出来ない。

 だが、この状況であるならば、絶好の使い時だ。

 その漆黒の光線は音速を超えて光の速度でソージに迫る。


「――『天聖熾帝ヘブテルナ』ッ!!!」


 やっと能力を発動したソージは真っ向から《竜星剣ドラドゥーム》で立ち向かった。輝きを失うことはない、刀身と光線が激突する。


「ぐッ……」


 受け止めることは出来たが、剣を握る腕、身体に瞬く間に振動が伝わってくる。ソージはすぐに敵わないと悟り、剣を横にして剣先の方を傾けて光線を逸らす。

 ゴォォォォォッと左の耳元で光線が空間を通過する音が響く。

 ルイカの方は反動の変化でソージが逸らしたことに気付き、左へと顔を動かすが、ソージは左右に動くという体力消費を避けるために左右以外の方向、上空へ飛ぶ。


「――《光来天幕こうらいてんまく》ッ!!!」


 距離と威力を考えて第三剣技を放った。刀身から淡い光が一直線にルイカへと伸び、それは雲の間から光が差し込む天使の梯子のような光景が映る。

 だが、その一見、殺傷力なんて皆無なものは確かにルイカに牙を向けて血を流したものなのだから……。


 これは避けなければいけないが、これを放ったことで奴に『隙』が生まれた。ルイカはドラゴンブレスを吐き捨て、動き出す。


「ふッ――――」


 剣技は発動中、向かってくることが分かって別の剣技を発動しようと余計に『隙』が生まれるだけだ。


「甘いなッ!!!」


 ルイカはただ横から叩くだけだ。


 だが、回避されたことはソージにも伝わっており、すぐさま剣の軌道を横に進める。


「はぁッ!!!」


 その防御を貫くつもりでルイカは拳を前に出す。

 ガゴンッと重い音とともにソージがもの凄い勢いで弾かれて建物に突っ込む。


「ぐあッ!!!」


 ソージは全身を強く地面に叩きつけて気絶する寸前まで追い込まれた。

やはり竜の因子を有する身体の性能、神クラスの能力という差異から明確に実力の差が存在しているのだ。


「あぁ…………」


 一瞬、ソージの視界に『絶望』が見えた。

 痛い、武装を纏っているというのにこの領域の効果なのか、マリテアやレミナス、レオンと戦った時とは少し違うことに気付く。

 崩れた建物の中で目覚め、月明かりに照らされる。


「その剣……竜を元にしているんだな――」


 竜の両翼を展開し、ルイカはソージの元へ舞い降りた。


「その剣があっても能力がその段階じゃ、俺に勝つなんて無理な話だ。努力の果て、なんだろうが、一つの世界での努力なんてたかが知れている」


 ルイカはまるで全てを理解しているように冷たく言い放つ。

 だが、それと同時に一つのものしか信じておらず、その他を軽蔑して物事を俯瞰している。

 それが全て正しいとは言えない。竜の因子を身体に移植されたことで所謂、野性動物の言動が混ざっている。

 弱肉強食、弱い者は強い者に淘汰される、というその思想を信じている少年。


 だから、少年はここにいるのだ。


「そう、か……なら、お前はどんな努力をしてきたんだ?」


「……ぼ、俺は……内容は別に面白いものじゃないけど、聞きたいなら、死ぬ前に聞かせてやるよ――」


 生きてきて十四年の少年は静かに口を開き、自分の努力もとい人生を話し始めた。




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