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100話 第五位・灼熱地獄③



 一つ、思う。

 自分の力はまだ完全ではない、と……大魔王という称号、世界最強の一角であっても上がいるのは確かだ。

 小細工を使った奴、本気で戦って敵わなかった奴……。

 別にレイムはいい、相棒として……でも、それ以外の奴に敵わないのは癪に障る。


「それはいや……ムカつく、でもこれは……自分が何ものなんて他人に指図されるなんてまっぴらごめんだ……だから――おい、シリウス!!」


「ッ……なんだよ?」


 領域外に出したことで世界系〈紅蓮の世界〉は効力が解除されたが、エマの魔力量から再度、世界系を展開することは可能だろう。


「君って強いの? わたしわねぇ、全てを照らす光、全てを掌握して思いのままにする王、全てを飲み込む星――始まりを告げる炎、終わりを告げる炎――命の熱、感情の熱――全ての炎はこの手にある。つまり、私は最強ってことだぁぁぁぁぁッ!!!」


 エマは異様な感情の高ぶりに流されて《太陽剣ソルリウス》を天に掲げる。


 それは所謂、覚醒に当たるのだろうが、それにとってこれは先祖返り、いや――回帰だ。

 その瞬間、膨大な魔力が熱、炎として放出される。

 それはまるで塞き止めていたものが壊れて塞き止められていた膨大すぎる魔力が奔流のように流れ出している。


 だが、これは壊れたわけではなく、これが彼女の最大出力なんだ。


「何が……」


 シリウスは訝しむ。

 単なる魔力を放出する行為は主に身体強化を施すことに使われるが、これほどの出力は強風、いや台風並みの力がある。

 しかしただ魔力を放出して何になるというのか……。

 確かに皮膚が焼けるほどの熱、炎を放っているが、同格の神クラスの能力を発動しているシリウスに如何にエマの魔力の影響でさえ、致命傷にはならない。


「ふ、何でって顔、しているな?」


「ぐッ……」


 何も考えていないようで考えているのか、とシリウスは思考を巡らす。

 持前の膨大な魔力が流れ続けて、まだ終わりそうにない中で自分自身が圧迫されて気分が悪いことに気付く。

 咄嗟にシリウスは懐から掌サイズの端末を取り出してとある情報を閲覧する。


「閉鎖した区画内の魔力濃度がSランクオーバーッ!!」


 いや、正確には測定値を超えている。


「ちッ、嘘だろ。神格級の結界領域を使っているはずだぞ。あの隠居野郎共、ちゃんと仕事したのかぁ!!」


 シリウスは文句を垂れる。

 だが、その隠居野郎共の技術力は自身が所属する悪の組織『混沌神殿カオス・システム』が協力を持ちかけたため、信頼性を疑うのは組織の頭、首脳部や大首領を疑う行為となってしまう。


 それを思い出してシリウスは現実に目を向ける。

 ここの濃度だけでこの結界が観測できるための数値がオーバーしており、下手をすれば、ここを起点として結界が崩壊してしまう。


「いや……あれがあるから、多少は大丈夫だろうと思うが……」


 目の前で起こっていることが規格外すぎて一瞬にしてシリウスの心には不安が溢れ出している。

 シリウスは歯を食いしばる。

 さっきまでの自分を思い返し、不安を押し殺して目の前の事象を理解しようする。


「ッ……嘘、だろ――」


 今でも魔力放出は続いている。

 事前に観測したエマ・ラピリオンの魔力量はレイム・レギレスに次ぐSランクだった。

 だが、この量からしてもう魔力の底が尽きても良いはずだ……が、しかしそこを見せるどころか、あの小さな身体から無尽蔵に魔力が溢れ出している。


 そしてやっと見えたことがある。

 目を凝らして観測するとエマ・ラピリオンの心臓部――『魂』が位置している場所、シリウスから重なって見えるが、観測していたエマの能力『紅蓮神冠グラグレン』とは違うように見えた。


「まさか――」


 そう、それは昇華と呼ぶべき変化だ。


「やっとわかったか? さぁ、この力に恐れ、絶望するがいい。それが唯一の身の振り方だ――」


 それは覚醒に至る。

 熱と炎、そして物質を含んだ赤い泥であるマグマ、あらゆるものを炎に包み、消滅させる能力は一つの星へと昇華する。

 炎は燃え広がり、膨張する。

 膨張した炎は輝きを強め、一つの光となる。


「さぁ、好きに生きるぞ。この赤き星に刮目しろ――『太陽神冠ラピリオン』ッ!!!」


「ッ――――」


 その瞬間――真紅の天幕が吹き荒れる。

 激しい熱波、津波の如く赤く燃え上がるものが周辺に広がり、辺りの建物を蝋燭の炎を吹き消すように容易く消し飛ばし、大地は焦げ、蒸発し、漆黒の大地だけが残る。


 これまで以上に昇華したからこそ容易く出来る芸当、いや……力だ。


「はぁ……はぁ……はぁ…………危なかった――」


 ギリギリだった――――『切り札』というものを使用するタイミングというのは無論、重要なことだ。

 それを見極めることが出来なければ、シリウスはあの魔力放出程度の真紅の天幕に晒されて致命傷になっていただろう。タイミングを見極めると言ったが、この本質は自分が決めたタイミングでしか過ぎない。


 それがシリウスに来たのだ。

 本能がヤバいと絶叫した時、咄嗟に『切り札』である身体強化型に分類される〈座標の世界〉を発動した。

 それ故に今、シリウスは半身を焼かれながらも立っていることができる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ――ヤバいッ!!!


 この状況を考える度に真っ先にその言葉が前に来る。考えるだけで戦意を消失してしまうそうになる。

 それほどまでに目の前の存在が自分より圧倒的なのだ。

 神々の中でもトップクラスの存在、そこに座するだけで己の思い通りにすることだってできる。

 それにただの魔力を放出した衝撃で致命傷になってしまう予感から世界系を発動したこの状況……そう、まだエマ・ラピリオンは自らの能力である【紅蓮】を【太陽】に昇華させただけだ。


 まだ腕すら振るっていない。

 シリウスは懐からまたあの端末を取り出す。数値は相変わらず振り切っているが、感覚的にさっきの出力よりは落ちている。


「あぁ、そうか……」


 あのバカげた出力は能力が昇華した際に生じた反動のようなものだと悪の組織が解析した能力の知識欄には記されていた。『能力の昇華』という現象は今の位階より更なる上に行くというメリット一択のように見えて『昇華』という現象にデメリットが存在する。


 一つ目は『昇華』の際に発生する反動、それは暴走と言っていいものであり、『魂』にそれなりの負荷がかかってしまう。

 二つ目は『昇華』の先にある力に逆に食い尽くされるという主に二つがある。


 更に成功しても多少、能力に引っ張られて一定時間、低下すると記されており、悪の組織が観測した回数も数える程度しかいないため、まず合わないと言っていたが、目の前でその現象が起きている。


 だが、引くわけにはいかない。引いたとしても最終的には同業者に始末されるだけだろう。

 やるしかない――やることしか、俺は選択できない。


「太陽に立ち向かうなんて……これ以上の舞台はないだろうな」


 彼、シリウスは世界系の持続時間まで戦うことを覚悟を決めた。




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